トップ > キャンペーン・特集 > CD > Artist Voice ― 鈴木慶一

Artist Voice ―鈴木慶一

2016/3/7掲載

キャリアの集大成でありながら冒険心に満ちた24年ぶりのソロ・アルバム――昨年、音楽活動45周年という節目を迎えた鈴木慶一。年末には豪華ゲストに迎えて記念コンサートも行なわれたが、それに先立ってソロ・アルバム『Records and Memories』がリリースされた。ソロ名義ではあるものの“ヘイト船長”三部作が曽我部恵一とのコラボレートだと考えると、『SUZUKI白書』以来、じつに24年ぶりのソロ・アルバムだ。しかし、本作を初めて聴いた時、なんだか初めてのソロ・アルバムのように思えた。本作は『SUZUKI白書』より、『火の玉ボーイ』よりも“ソロ(独り)”を感じさせる。これは一体どういうことなのか




どんなアルバムになるか最後までわからなかった

■鈴木慶一「たしかにそうかもしれないね。ソロ・アルバムのつもりで制作した『火の玉ボーイ』の時はムーンライダーズが側にいてくれたし、ティン・パン(・アレイ)やらアッコちゃん(矢野顕子)やら助けてくれる人がまわりにいっぱいいた。『SUZUKI白書』では3、4曲セルフ・プロデュースをしたけど、ほかはロンドンのミュージシャンに頼んだしね。今回は最後にダビングしたもの以外、すべての楽器を全部ひとりで演奏して、なおかつフルでプロデュースしている。こういうことは初めてかもしれない」

そして、レコーディングを振り返り、「一人でやってると時々不安になるんだよ」と苦笑する。青写真がないまま手探りで始めたというアルバム制作。その結果、鈴木はほぼ完成していたアルバムをお蔵入りさせて、あらためて本作を作り上げたという。なんという労働(創造)力!


■鈴木慶一「最初に作ったものと全然違うものにしようと思ったんだ。ライダーズをやってた時は、ライダーズをプールの壁みたいに蹴飛ばして違うものを作った。曽我部君とやったアルバムとかね。しかし、現在ライダーズが活動休止しているから、今回は最初に作ったアルバムが蹴飛ばすものになったんだ」

最初に作ったアルバムは「北野監督のサントラみたいなエレクトロニカ」だったらしいが、それを「蹴飛ばして」作り上げた本作はふんだんに生楽器を使った歌ものに仕上がった。いや、“歌もの”と簡単にくくってしまうのがためらわれるほど不思議なアルバムだ。短いインスト曲もあれば10分に及ぶ組曲もあり、音と言葉が入り組んで迷宮のような音響空間を生み出していく。


■鈴木慶一「どんなアルバムになるか最後までわからなかったよ。とりあえずスタジオに入って、できた曲を片っ端から録音していって、アルバムのうち7割はスタジオで即興で作った。いろんな音を詰め込んでいくんだけど、あとでカットすることはあんまりなかったな。仮に録音するってやり方は嫌いで、毎回入れるつもりで録音するからね」

今回、レコーディングとミックスのエンジニアを担当したのは、pupaやMETAFIVEのメンバーでセッション・ミュージシャンとしても活躍するゴンドウトモヒコ。レコーディングはゴンドウのスタジオで行なわれたが、「2011年にビートニクスのレコーディングで初めて行ってNo Lie-Senseの時も使ったけど、あそこに行くと曲ができるんだ。あの場所のマジックかな」というお気に入りのスタジオ。そこで思いつくままレコーディングされた本作は、どこに連れて行かれるかわからないような混沌としたアルバムだが、俯瞰して眺めるとインスト曲をインタールードにして三部構成になっているようにも思われる。諧謔的でシアトリカルなナンバーが並んだ第一部。恋愛をテーマにしたポップな曲が続く第二部。そして、10分を越える組曲「Untitled Songs」がどんと控えた重厚な第三部。


■鈴木慶一「言われてみれば偶然にもそういう風になってるね。これからはそういうことにしてしまおう(笑)。頭の4曲くらいまでは最初から曲順は決まっていて、アルバムの最後の方に〈Untitled Songs〉を入れるというのも決めていたんだ。たしかに前半はシアトリカルな要素が強いね。〈愛される事減って来たんじゃない?ない〉は自転車とかヘリコプターとかいろんなSEを入れて作って、後でその音にあわせて歌詞を書いていった。〈Untitled Songs〉は唯一、最初に作ったアルバムから流用した曲。〈Part1〉だけね。種明かしをすると、このパートはかしぶち(哲郎)君が具合が悪くなったことを受けて書いたんだ。そういう時には曲を書かずにはいられなくなる。その〈Part1〉が重いんで〈Part2〉はバブルガム・ポップを意識した。そうやって、パートごとに曲調や歌い方を変えて次々と風景が変わっていくよう曲を作っていったら、どんどん長くなっていったんだ」


記憶のすべてを置いていく

孤独な作業のなか、時にはゴンドウとアイディアを交換しながら「なるべくエフェクティヴィヴなサウンドにしようと」試みた本作は、ヴァン=ダイク・パークスを彷彿させるマッドな音響に鈴木らしいサイケデリックなポップ・センスが光っている。加えて今回は強烈な歌詞も聞き逃せない。叙情性は抑えて、ナンセンスでシュールな言葉が銃弾のように飛び交っている。


■鈴木慶一 「歌詞の言葉にはあまり繋がりがないんだ。こっちは幻覚のようなものを作っているから、聴く人は好きなように想像してくれたらいい。古語もいろいろ調べたし、コンピュータ用語や俗語も使ってる。〈男は黙って…〉で使っている“きすひけ”は映画『網走番外地』の主題歌で知った言葉で、刑務所言葉で“酒を飲め”っていう意味なんだ。ジェイムズ・ジョイスみたいに存在しない言葉を作ったりもしたね。能力は万分の一だけど」

そんななか、ファンにとって興味深いのは、鈴木の歌詞には珍しく“妻”が登場する「パルク丸とリテール号」が、ある曲の後日談だということ。


■鈴木慶一「ライヴを観に来てくれた方から、“また〈GOD SAVE THE MEN(やさしい骨のない男)〉みたいに渋谷の歌を作ってください”って言われて、そのリクエストに小さく応えた(笑)。〈GOD SAVE THE MEN〉に出てきた女性が今では妻になってるっていう設定。前回は“電話したらいなかった”というフレーズがあったけど、今回は当時はなかった携帯電話が登場している」

「GOD SAVE THE MEN」は『SUZUKI白書』収録曲でソロ作の繋がりを感じさせたりもするが、ひさしぶりに女心を歌った「ひとりぼっち収穫祭」は、ムーンライダーズ初期の名曲「女友達~悲しきセクレタリー~」より生々しく女の孤独を浮かび上がらせる。かと思えばNo Lie-Senseに通じるナンセンスなユーモアが炸裂したりと、音楽だけではなく歌詞にも鈴木のキャリアが反映されている。そしてゲストには、鈴木博文、上野洋子といったベテランから、Controversial Sparkのメンバー(konore、岩崎なおみ)、45周年コンサートのために結成した新バンド、マージナル・タウン・クライヤーズのメンバーでもある、澤部渡、あだち麗三郎など世代を越えたメンツが参加。本作は45年のキャリアの集大成でありながら、これまでのどの作品にも似ていないところがキモだろう。


■鈴木慶一『Records and Memories』っていうタイトルは、言ってみれば(ムーンライダーズの曲で鈴木が作詞作曲を手掛けた)〈歩いて、車で、スプートニクで〉の歌詞、“記憶のすべて置いていけるか”みたいなことでさ。今回のアルバムは何でもありの状態で作ったんだ」

その“記憶のすべてを置いていく”姿勢は、ライダーズ活動休止後に鈴木がスタートさせたControversial SparkやNo Lie-Senseにもいえること。ライダーズ休止以降の音楽活動を、鈴木はこんなふうに振り返る。


■鈴木慶一「最近、ポール・マッカートニーの気持ちがよくわかるんだよ。ビートルズ解散後のポールの歴史をここ数年でいっきにやってる気がする。Controversial Sparkはウィングスだし、ソロを作るとこういうものになる(笑)。比べるなんて恐れ多いけれどね」

なるほど、パーソナルで実験的、それでいてポップなサウンドは、ポール・マッカートニーのファースト『マッカートニー』と通じるところもあるが、同時に本作は“記録と記憶”の彼方へと一歩踏み出す冒険心に満ちている。もしかしたら、行き先がわからないまま作ったこのアルバムが、これからの行き先を教えてくれるのかもしれない。

取材・文 村尾泰郎 CDジャーナル 2016年2月号掲載

関連 DISC

NEW Records and Memories


鈴木慶一 発売日
2015年12月16日
購入はこちら
収録曲
[Disc1]
<収録内容>
1.男は黙って…[3:49]
2.愛される事減ってきたんじゃない?ない[4:09]
3.無垢と莫漣、チンケとお洒落[5:08]
4.ひとりぼっち収穫祭[2:55]
5.Sir Memoria Phonautograph邸[2:28]
6.六拍子のワルツ[3:24]
7.Records[1:33]
8.危険日中毒[3:55]
9.バルク丸とリテール号[3:41]
10.Livingとは Lovingとは[4:28]
11.Memories[1:58]
12.Untitled Songs[10:42]
13.My Ways[3:34]

謀らずも朝夕45年


(V.A.) 発売日
2015年11月25日
購入はこちら

おすすめキャンペーン・特集

このページの先頭へ