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Artist Voice ― Dinosaur Jr

2016/10/3掲載

オルタナティヴ・ロックの重鎮が語るバンドの変化と今昔

80年代後半、大衆ロックの動向には無頓着に、より自由でよりプライベートな音楽の刺激を求めた当時の若者たち=オルタナティヴ・ロック世代きってのニュータイプ爆音ロック・バンドとして注目を集めたダイナソーJr.も、いまではキャリア30年超の大ベテラン集団。豪快な爆音ロックと多情多感なメロディの融合からなる安心安定のダイナソー節のなかにちょっとしたアレンジの冒険を見出すのが楽しい快作『ギヴ・ア・グリンプス・オブ・ホワット・ヤー・ノット』(再結成後4作目。通算で11作目)の発表直後、真夏の終夜ライヴ・イベント“HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER”参加のため4年ぶりの来日を果たし、出演ラインナップのなかでも最年長アクトとして重鎮ぶりを発揮した。時代は着実に流れ、変化している。





最近はツアー中ずっと一緒にいても平気だよ



――昔と変わらぬ爆音で聴衆を圧倒する彼らだが、いまや全員50代。ワールド・ツアーのような大仕事は、正直、身体にこたえないものか? 終夜イベント後に行なわれた単独公演の楽屋にて本番前、プロモーション活動にかりだされつつゆる~い空気でそれに応じている3人に、失礼かなと思いながらもまずはそこのところから尋ねてみた。

■J.マスキス / g, vo「……かなぁ……」

――まったり。ステージ上含め、彼のキャラを知っているひとにはおなじみの訥々とした調子。ほかの2人がすぐにフォローアップする。

■マーフ / ds「俺は昔もいまも変わらないかな。ツアーもバンドの仕事のうちだし、仕事はちゃんとやらなくちゃ」

■ルー・バーロウ / b, vo「若いころはいろいろ意見がぶつかることがあったけど、最近はそんなこともなくなった。ツアー中ずっと一緒にいても平気だよ」

――彼らがサウンドのみならずメンバーのキャラまで含めてオルタナティヴ世代の音楽ファンに愛され続けるその理由は、ロックのもっともロックらしい側面のひとつを備えた激情爆音バンドでありながら、パーティ・ライフやハメを外した言動を好むような古いタイプのロック・スター像からほど遠い場所で活動を続けてきた――そんな事情が大きかったような気がする。きわめて非ロック的なひとたちが作りだしたきわめてロックらしいロック・サウンド。オルタナ精神開拓世代と目される彼らには、古い時代のステレオタイプなロック・バンド観に対する明快な違和感はあったりするのだろうか。

■J「……そりゃもう俺たち、パーティ生活は全然性に合わない。そんな生活、退屈だよ」

■マーフ「うん、俺たちは昔もいまも享楽に血道を上げるたぐいのバンドじゃない。みんなストレートエッジの思想を通っているし、パンク・ムーヴメントから出発したことを自覚してる。音楽をプレイすることにもツアーにもずっとシリアスに向き合ってきた」

――ロックの古いステレオタイプのみならず、パンク・スタイルの古いステレオタイプにも囚われず独特の爆音ロックを創出~継承してきた彼らの口から、いま“ストレートエッジ”なんて生粋のパンク思想について語られるとは、なんと感慨深いことか。これぞ彼らが紛うことなき“オルタナ初期世代”である証にほかならない。

■ルー「いや、だいたいさ、俺たちそういう生活送ってるミュージシャンのようにはお金と縁がない(笑)。ああいうのは別世界の出来事なんだと思ってる。俺たちにも“ビッグな存在になった”“成功した”と盛んに言われた時期があったけど、あまり実感がなかったかな。たしかに自分たちでツアー車を運転して自分たちで機材をセッティングしてくたくたになって……という1985年から89年ころの状況はそのうちなくなった。成功の実感ってそれくらいのものさ」

俺はスタジオよりステージが好きだな



――それにしても、オリジナル・ラインナップで再結成してから、もう10年以上。すでに最初にこの3人で活動していた期間をとうに超えている。なにより驚くのはこの10数年、音楽業界のさまざまな変化がアーティストにも少なからず影響をおよぼし、昔のような規則的な活動ペースをキープするのが難しくなった時代にあって、ダイナソーJr.が手間暇かけた新しいマテリアルの制作とライヴ活動を両立させながらひたすら淡々と進み続けていることだ。そもそも彼らの場合、スタジオで音楽を完成させていく作業とライヴ活動ではどちらが性に合っているのだろう?

■J「俺はステージでプレイしているときのほうが好きだな。レコーディングで曲を仕上げているときはストレスがたまる一方で、そのうち“この瞬間が永遠に続くのでは”と思えてきたりする。それをなんとかかんとか乗り越えてひとたびステージに立ったときの解放感といったら、ね」

■マーフ「俺もまったく同じ。まちがいなくステージのほうが好き」

■ルー「俺はどちらも好きだよ。たしかにレコーディングはナーヴァスで動きのない時間だけど、ツアーに出ているときと違って普段の生活を送りながら穏やかに作業するのもいいもんだよ。そしてツアーやステージでプレイするのももちろん素晴らしい。Jが言ってたとおりの爽快感がある」

――Jはつねにさまざまな曲を書き続けているが、3人が揃って今回のアルバムの制作をスタートしたときにはすべての素材が揃っていたわけではなかったという。新作制作のモチベーションをどんなふうに高めているのか興味が湧いてくる。

■J「えーとそれは……マネージャーからの強力なプレッシャーが……(笑)」

■マーフ「レコードが店に並んでいる期間は限られている。そろそろ次に進まなきゃならない、という時期は必ずやってくるんだ。そうして俺たちは結局自然と働き続け、ツアーし続け、新しい曲を作っていくことに……」

■ルー「いやいやマネージャーだよ、やっぱり(笑)。“さあ、そろそろやろうか”っていつも言われてるじゃないか。あれがなかったら俺たち始めないよ」

■マーフ「たしかに(苦笑)」

■ルー「成功の実感についてさっき話したけれど、俺たちがうまくいった理由のひとつは間違いなく良いマネージャーに恵まれたことだと思う。彼はバンドや世間がいまどうなっているか、つねに注意深く気にかけている。彼がいろいろ言ってくるとこちらはすぐに“そんなこと気にするなよ”とか思うわけだが、よくよく考えるとそこに将来への見通しや自分たちがやるべきことがちゃんと入っている。それに気付いて俺たちも次へと進めるんだな」

この安心感があるから新しいチャレンジができる



――かくてダイナソーJr.再結成以降の盤石の体制の一方で、Jはウィッチ、スウィート・アップル、ヘヴィ・ブランケットといったサイド・プロジェクトやソロ名義、ルーもソロとセバドー、とじつに多種多彩な別プロジェクト活動を同時展開しているあたり、おのおのUSオルタナティヴ・ロックの歴史とともに歩んできた偉人二人の面目躍如というところだが、そんななか、キャリアのほとんどをダイナソーJr.一本で過ごしてきたマーフの動きはかなり独特だ。

■マーフ「ソングライターであるJやルーと違って俺は生粋のプレイヤー、生粋のドラマーだから、いろいろなことをやってみたいという欲求を感じないのかもしれない。自分が本当にやりたい、自分が活かされると思えるプロジェクトだけに目を向けていたら、結果、このバンド命のようになっているね」

――それではやりたいことが山ほどあり、過去に一度Jとぶつかってバンドを離れたことさえあるルーは、現在ダイナソーJr.の活動にどんな魅力を感じているのだろう?

■ルー 「(Jを見ながら)ちゃんとしたバンドのリーダーがいるところ(笑)。俺は全力で彼を支える役割を楽しめる。ほとんどすべて自分でこなすソロ・プロジェクトはもちろん素晴らしいものだけど、ずっとマシン相手に作業していたりすると緊張感も全部自分にかかってくるしね。でも、このバンドにいると自分が一人の人間なのを強烈に実感できる。J独特のサウンドに対する繊細さや実験精神、マーフ以外の誰のものでもないプレイを感じながら、あとは自分がそこに加わって音楽を強烈なサウンドで満たしていくことに集中できる。そのぶんJはかなり重荷を背負っているのだろうけれど(苦笑)。でもまあ少なくとも3人は若いころから一緒に演っているから根っこの部分はお互いいろいろ言わなくてもわかり合っていて、このバンドで演っているときは外のことがまったく気にならなくなる。この安心感があるからこそ新しいチャレンジもできるのだと思う。“ああ、バンドってこういうもんだよなぁ”とダイナソーJr.で演るときはしみじみ思うことができるんだ」

――短い時間ではあったが、3人の阿吽の呼吸、現在のバンド状態の絶対的安定感を目のあたりにした取材だった。そして30年来変わらぬ、オルタナティヴ世代ならではのキャラクターも。得てして何か新しい要素ばかり注目の的としがちな音楽シーン、そしてかつてその新しい感覚=オルタナの旗手として成功を収めたダイナソーJr.だが、現在彼らはどんな流行や言説にも急かされたり惑わされたりすることなく彼ら3人が自然になじむ独特の爆音ロックを鳴らし続け、そのバンド・サウンドの精度と強度を着実に上げ続けている。まるでロックにおけるオルタナティヴの価値がたんなる逆張り感や目新しさのみにあったのではないことを体現するかのように。

取材・文 平野和祥 Photo Kokei Kazumichi  CDジャーナル 2016年10月号掲載

関連 DISC

NEW ギヴ・ア・グリンプス・オブ・ホワット・ヤー・ノット


発売日
2016年8月5日

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収録曲
[Disc1]

1.Goin Down[4:02]
2.Tiny[3:12]
3.Be A Part[4:37]
4.I Told Everyone[3:40]
5.Love Is...[3:40]
6.Good To Know[3:27]
7.I Walk For Miles[5:34]
8.Lost All Day[5:06]
9.Knocked Around[4:46]
10.Mirror[4:17]
11.Left/Right[4:01]
12.Two Things (Japan Bonus Tracks)[4:18]
13.Center Of The Universe (Japan Bonus Tracks)[2:06]

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