SMAPコラム「Map of SMAP」

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 世界に一つだけの花
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収録曲:シングル55作品の両A面曲を含む全63曲の映像を収録予定
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 世界に一つだけの花
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世界に一つだけの花
TV:CX系ドラマ『僕の生きる道』(2003年1月〜)主題歌収録のシングル。
2015.6.9更新

舞台『burst!〜危険なふたり』はなにを爆発させたのか。


主従が転覆する作劇
 5月2日土曜日16:00開演の回を観た。
 どこからどう書けばいいのかわからないけれど、書きたいことはひとつだけ。アフタートークのことである。
 作・演出の三谷幸喜からの指示で、舞台が終わったあと、毎公演、草剛と香取慎吾はアフタートークを繰り広げた。どうやら、その内容は、公演ごとに違っていたらしい。別の日にこの舞台を観たひとに訊いたら、違っていた。ただ、草がギター弾き語りするのは同じ。ギター弾いて、舞台の挿入歌(と言っていいのだろうか)「ど根性キャプテン」(作詞:三谷幸喜)歌って終わり、ということだけがルールになっていたらしい。
 ただ、事実確認なんてどうでもいいと思っている。わたしは、あの日、あの瞬間に感じたことを書く。なぜなら、そのとき感じたことが、わたしにとっては真実だから。たったひとつしかない事実より、ひとの数だけ存在する真実のほうが、ずっと大事だ。わたしは、自分にとって大切なことだけを書く。
 これは、草剛と香取慎吾のふたり舞台である。舞台上では、生伴奏者の荻野清子がピアノの前に座ってはいるものの、演者は草と香取ふたりきり。ひとりは、爆弾処理のスペシャリスト。もうひとりは、自宅に爆弾を仕掛けられた男。別々なところにいるふたりの、電話でのやりとりが展開していく。舞台美術は、それぞれが立っている場所を示すためだけにある。つまり、舞台の上には、ふたつの場所がある。PARCO劇場のステージは決して大きくはないから、ふたりはある意味、隣り合わせの状態で、別々な場所にいることを体現しなくてはいけない。だから、すごく近くにいるのに、(基本的には)相手の顔を見ることもなければ、目を合わせることもない。
 この、目に見えているものと、物語としての状況設定のズレを、生身の肉体ふたつだけで、実現すること。これが三谷の企みであり、たしかにそれは、舞台でしか起こらない「フィクション」なのだと思う。
 構成も狙いもシンプルかつミニマルなせいだろうか。どこか狂言を観ている感覚に近かった。三谷は舞台や映像で野村萬斎と仕事をしている。その影響があるのかもしれない。狂言は舞台という小宇宙のなかで、最小限の数の演者によって、ある距離感を浮上させる芸術だ。パンフレットのインタビューのなかで三谷はこの舞台を「不条理」と語っているけれど、狂言は基本的に不条理なものだ。
 そして、それ以上に、狂言的な本質を感じたのが、主従のありようだった。
 本来であれば、爆弾処理を指示する側が「主」であり、指示される側が「従」のはずなのに、指示されているはずの香取はなぜかのほほんとしていて、どっちが「主」かわからなくなっていく。主従が転覆し、主従がひとかたまりになり、やがて、主従のカテゴライズそのものがどうでもよくなっていく。もちろん、草は延々指示を出しつづけるし、あくまでも自分が「主」だと過信しつづけるのだけど、むしろ、そのこと自体が、「主」の消失を物語っていくような展開。
 草と香取の関係にも似ているなと思った。この舞台の発端は、ふたりのラジオ番組だったというけれど、SMAPのなかでもコンビで語られることの多い草と香取の、あのラジオでの状態は、それぞれの語りの芸風が違っているにもかかわらず、役割分担というものがほぼ消滅していて、いつの間にか始まり、いつの間にか終わるという、始まりと終わりさえもが溶け合っている印象を受ける。草がボケで、香取がツッコミというような、なんとなくのパブリックイメージは、ほとんど感じられず、それぞれがそれぞれのマイペースのまま、ただ転がっていく、そんな無意味で無根拠なしあわせが、そこにはある。
 『burst! 〜危険なふたり』を観ていると、主従なんてどうでもいいじゃない、という大らかな気持ちになる。その感じが、ある時代の身分制度そのものを崩壊させていく芸術、狂言にとても似ていると思った。


あたらしい生身の混乱
 さて、本題に入ろう。
 三谷は後半で大胆な演出を見せる。すべてはこのためにあったのだ、と言わんばかりの構成だ。
 唐突に、草と香取の役が入れ替る。つまり、香取が爆弾処理を指示する側を、草が指示される側を演じる。パラレルな展開ではない。同一線上の物語のなかで、役者が入れ替るのだ。
 そこに必然性はない。意味も根拠もない。ただ、入れ替る。だが、考えてみれば、わたしたちは、誰かと相対するとき、そのように生きているのかもしれない。主従や役割分担があるようで、実はない関係を、わたしたちは生きている。語らいのなかで、「主」と「従」は、キャッチボールのように行ったり来たりする。爆弾が爆発するかもしれないという究極のシチュエーションにおいても、ひとはそのようないい加減な関係性を生きているのだ。
 草の芝居は、これまでの舞台での芝居とは違っていて、演じるキャラクター(爆弾処理スペシャリストのほう)のせいもあるのだろうけど、若干、というか、かなりアゲめのハイテンションで、生ドラマ『古畑任三郎 VS SMAP』のときの彼を思い出した。おそらく、彼のなかでは、たとえば演劇仕様の芝居、映画仕様の芝居、ドラマ仕様の芝居というような区分けはもともと存在しないのだなと思ったし、草剛は、メディアにしろ、演じる被写体(登場人物)にしろ、共演相手にせよ、カテゴライズなんてことを一切しない俳優なのだと思った。ただ、いま、このときを、生きている。どんな人間も、突き詰めていけば、それだけの存在でしかない。草はどんなときも、それを精一杯体現しているだけなのかもしれない。
 香取慎吾は、これまで彼が登板した三谷作品での様相とは違うものを見せていたと思う。それが何か、というのは上手く表現できないのだけれど、特定のキャラクターを演じるのではなく、人間というものの行動形態とか、生命のかたちとか、そういう俯瞰的な視座から眺めたなにかが、そこでは演じられていた。抽象的な言い方をすれば、思念。特定のだれかの思念ではなく、だれであってもいいような思念が、彼の芝居からは感じられた。そのことが、役が入れ替ることで、さらにくっきりしていたと思う。香取は、アメーバのような俳優なのかもしれないと、初めて思った。光とか、闇とか、そういうカテゴライズではなく、光と闇とが、あるとき、ふと結びついてしまうような「接続詞」としての演技がそこにはあった。
 終盤で、草は台詞を言い間違えた。指示されている側を演じているのに、相手の名前を呼ぶとき、自分の名前を呼んでしまったのだ。つまり、さっきまで演じていた指示する側の状態で、相手の名前を呼んだ。しばしの沈黙ののちに、「あ、オレか」と口にしたのだが、わたしは、この言い間違いも三谷脚本にあるのではないか? と思った。誰かを演じるということ、役が入れ替るということ、それらのことはすべて劇中劇であって、これは、あるふたりの俳優が、ある不思議な舞台に挑んでいる状態を活写した「メタフィクション」なのではないか? そう感じた。「あ、オレか」のタイミングが絶妙だったせいもある。あれが、アクシデントとは思えなかった。場内で起きた笑いも、ハプニングに遭遇してのそれではなく、構築されたなにかに出逢ってのものであるように感じられた。
 アフタートークでは、草の言い間違いが話題にのぼった。そうだったのか、自分は深読みしすぎた、と思い直したが、香取が冗談っぽく「ま、全部、台本通りですけど」と言ったことで、いや、それこそ本当のことなのではないかと、さらに思い直した。香取はいま、わざと冗談っぽく言ったのではないか。そして、このアフタートークの台詞もすべて、あらかじめ、三谷が用意しているものなのではないかと思った。
 すなわち、草の言い間違いも、それを、冗談でフォローする香取のアフタートークも、すべて予定通りであって、アフタートークも含めてのトータルな「フィクション」だったのではないか? そして、それは、草と香取だからできたことなのではないか? わたしは混乱した。そして、この混乱こそ、あたらしい演劇体験だと思った。
 事実確認によって、それは錯覚だったことが判明している。前述した知り合いによると、別な日の公演では、草は言い間違えなかったし、もちろん、アフタートークの内容も違ったものだったという。わたしは、狐につままれたような気持ちになった。
 あの混乱はなんだったのだろう。それは、わたしの勘違いに他ならないが、それはとてもリアルな、生身の混乱であった。草剛と香取慎吾が作り上げたものは、草が言い間違えることで、いささかも壊れなかった。それどころか、有機的な変容を引き起こした。
 ひょっとすると、この現象は、わたしの身にだけ起きたことかもしれない。だが、わたしは確信している。それは、草剛と香取慎吾の実力によってもたらされたものだと。

 本稿は、雑誌『アクチュール・ステージ』(キネマ旬報社)のご厚意によって、実現しました。謹んで御礼申し上げます。



相田“Mr.M”冬二

※次回の『Map of Smap』vol.101は、6月19日(金)10:00更新予定です。
※このコラムは、楽天ブックスのオリジナル企画です。
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アクチュール・ステージ(#5)
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