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ATG作品とその時代 前篇

「家族ゲーム」を生んだ1983年という時代

文=野村正昭

 森田芳光監督の「家族ゲーム」が、BD&DVD共に、HDニューマスター版で発売されることになった。初リリースのBDの音声は、リニアPCM(MONO)で収録されるなど、ファンにとっては嬉しい限りだが、本作が劇場公開されたのは、83年6月。もう今から30年以上も前になるのか。そこで当時の世相をふりかえりつつ、この傑作が生み出され、受け入れられた背景を交えて書いていきたい。


 83年の大きな出来事といえば、ロッキード裁判で、元首相の田中角栄被告に懲役4年、追徴金5億円の実刑判決が出され、大韓航空機がサハリン沖でソ連軍機に撃墜され、乗客・乗員269人が全員死亡。戸塚ヨットスクールで、生徒3人が死亡し、戸塚宏校長が傷害致死容疑で逮捕されたことなどが印象に残る。この年、話題になった本といえば、芥川賞を受賞した唐十郎『佐川君からの手紙』、穂積隆信『積木くずし』、山崎豊子『二つの祖国』、松本清張『迷走地図』、赤川次郎『探偵物語』、大江健三郎『新しい人よ目ざめよ』、漫画で初の日本SF大賞を受賞した大友克洋『童夢』。TVドラマでは、NHK朝の連続ドラマ小説『おしん』が、最高の視聴率62・9%を記録した。そしてヒット曲では、第25回日本レコード大賞を受賞した細川たかし『矢切の渡し』や、松田聖子『SWEET MEMORIES』『瞳はダイアモンド』、安全地帯『ワインレッドの心』、わらべ『もしも明日が』、ラッツ&スター『め組のひと』、チェッカーズ『ギザギザハートの子守唄』、原田知世『時をかける少女』などを記憶されている方も多いだろう。


 社会的にも戸塚ヨットスクール事件での体罰や、『積木くずし』などで描かれた家庭内暴力など、子ども教育が大きくクローズアップされる中、映画「家族ゲーム」が公開された。


 本作を配給したATG(日本アート・シアター・ギルド)はこれまで、鈴木清順「ツィゴイネルワイゼン」(80)を配給し、森崎東「黒木太郎の愛と冒険」(77)や、増村保造「曽根崎心中」(78)などを製作していたが、根岸吉太郎「遠雷」(81)や、石井聰亙「逆噴射家族」、池田敏春人魚伝説」(共に84)など、若手監督を積極的に起用する方向に大きく転換、その中でも満を持して送り出されたのが、「家族ゲーム」だった。


 高校受験を控えた中学生のいる一家にやってきた家庭教師が、平穏な家族に波紋を広げていく、本間洋平の原作小説を、8ミリ映画から出発し、本作が劇場用映画第5作目になる森田芳光監督が脚本も手がけた。全篇にわたって、登場人物同士のささやくような会話、音楽を一切使わず(何しろレコードが、かかっていても、あえて、その音を流さないほどの徹底ぶり!)、現実音を誇張した音処理、時にはセリフの声さえもOFFにする大胆さで、観客を驚かせた。中でも、きわめつけだったのは、横一列のテーブルに並んで食事する家族の構図で、映画全体の実験性を見事に象徴していた。ラスト近く、高校合格の祝いの席となる晩餐シーンは、7分間にわたる長回し撮影だったが、森田監督は、地上波テレビの初放映時、番組の時間枠に合わせた編集に抗議するため、自ら、この最大の見せ場を丸ごとカットして、さらに観客を驚かせた。


 結果として、第57回本誌ベスト・ワン、監督、脚本、主演男優、助演男優の各賞を受賞、第26回ブルーリボン監督賞や、第21回報知映画賞の作品、主演男優、助演男優の各賞を受賞した。それまで「遊戯」シリーズ(78~79)や「蘇える金狼」(79)「野獣死すべし」(80)などで、アクションスターとして活躍していた松田優作は、本作で俳優としての幅を大きく広げることに成功した。拳銃を持たなくても、日常の何気ない仕草の中で、不気味なサスペンスやユーモアを醸し出し、見る者の目を釘付けにしたのだ。個性的なバイプレーヤーとして活躍していた伊丹十三も、本作が大きな転機になった。この年は「細雪」や「居酒屋兆治」にも助演したが、この「家族ゲーム」への出演から、刺激を受け、劇場用映画第一作「お葬式」(84)を撮り、本格的に映画監督としての道を歩むことになる。


 第5回ヨコハマ映画祭でも、本作は作品、監督、主演男優、助演男優、技術(撮影)などの各賞を受賞。授賞式のトークでは、筆者が「家族ゲーム」のコーナーを担当し、進行させてもらったのだが、奇しくも壇上では、受賞者が横一列のテーブルに並んで座り、「まるで映画のようですね」と言ったら、大受けしたことを覚えている。あの時、元気に、これからの抱負を語ってくれた森田監督や、松田、伊丹両氏も、今は、ない。


エンタメ・ベスト3から見た1983年の世相

〈映画〉
キネマ旬報ベスト・テン 日本映画
1 家族ゲーム
2 細雪
3 戦場のメリークリスマス

キネマ旬報ベスト・テン 外国映画
1 ソフィーの選択
2 ガープの世界
3 ガンジー

興行ベスト3 日本映画
1 南極物語
2 探偵物語時をかける少女
3 汚れた英雄伊賀忍法帖

興行ベスト3 外国映画
1 E.T.
2 スター・ウォーズ/ジェダイの復讐
3 フラッシュダンス

〈TVドラマ〉 ●高視聴率TVドラマ
1 積木くずし
2 おしん
3 スチュワーデス物語

〈本〉
ベストセラー
1 気くばりのすすめ(鈴木健二)
2 積木くずし(穂積隆信)
3 探偵物語(赤川次郎)

〈音楽〉
ヒット曲
1 さざんかの宿(大川栄策)
2 矢切の渡し(細川たかし)
3 めだかの兄弟(わらべ)


〈主な出来事〉
2月 横浜浮浪者連続襲撃殺傷事件で未成年10人逮捕
3月 TSUTAYA1号店「蔦屋書店枚方駅前店」オープン
4月 「アクエリアス」「カロリーメイト」「G-SHOCK」発売
東京ディズニーランド開園
5月 日本海中部地震
6月 戸塚ヨットスクール事件
7月 「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」発売
8月 桑田真澄&清原和博の1年生コンビ活躍でPL学園が全国高校野球選手権大会優勝
9月 大韓航空機撃墜事件
10月 三宅島大噴火
ロッキード事件・丸紅ルート裁判第一審判決公判で田中角栄元首相有罪
12月 愛人バンク「夕ぐれ族」摘発

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