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『角川シネマコレクション』を斬る(2)

没後25年、松田優作の命日に蘇える身体に批評性を持たせる役作り

 11月6日ーー松田優作没後25年を迎えるこの日、『角川シネマコレクション』から松田優作主演&大藪春彦原作「蘇える金狼」(79)「野獣死すべし」(80)のブルーレイがリリースされる。いずれも仙元誠三撮影監督監修の下、オリジナルネガを4Kという高解像度でスキャニング、デジタルニューマスター仕様に。この2作品が公開された当時、松田優作は『太陽にほえろ!』『探偵物語』などのTVドラマでカリスマ的人気を博していた。役者として脂が乗りに乗っていた当時の彼を偲び、小誌に掲載した助監督による「蘇える金狼」の撮影後記と、そこに行きつくまでの彼の役者としての軌跡を辿る。


 松田優作の芸歴を改めて覗くと、せわしないというか、目まぐるしいというか。


 その初期、文学座の附属演技研究所に入所叶わず、劇団六月劇場の研究生(とプロファイルにあるが、この劇団にそんなシステム化されたものがあったかどうか)となり、次いで新演劇人クラブ・マールイ(丹阿弥谷津子金子信雄夫妻が主宰)に入団。まもなく、念願(たぶん!)の文学座の演技研究所に入所叶い、同所終了後、同座研究生となるが、やがて辞め、再び六月劇場に舞い戻る。その間に自らのF企画の立ち上げも挟まっているのだが、わずか5年の間に劇団を転々と放浪。尻の温まらないヤツと思われても仕方がないが、それ以前の、自らの居場所を模索してきた延長上に劇団放浪もまたあったのだろう。


 ひとまず六月劇場に落ち着いたのは、察するところ、この演劇グル―プは一応アングラ系に分類されるものの、成熟したメンバーで構成され、といって既成劇団のようなしがらみを免れていたからではなかろうか。


 それに、ここには佐藤祀夫という敏腕の俳優マネジメントがいた。大映倒産間近をその半年前に氏に私は教えられたものだったが、優作氏の当初の芸能活動は佐藤氏の働きに負うところ大きいはず。


 優作氏はさらにここからも独立していくのだが、最初に氏が六月劇場に加わった69年、山元清多〈ルビ=きよかず〉・作『海賊』が俳優座劇場(前の老朽化した建物)で上演された際、カーテンコールで演出の津野海太郎さんが裏方一同を舞台に上げた。裏方の労に報いる、その民主的(?)なところがこの劇団らしかったが、舞台に引き出された裏方一同がまぶしげに客席を見ていたのが思い出される。中で飛びぬけてノッポがおり、身の丈を持て余すかのように少し身をよじるような風情。他ならぬ後年の松田優作で、これが輝かしき舞台デビュー(!)なのだった。


 俳優は自らの身体の外側に宿命を持つ、という若尾文子さんの名言があるが、松田優作はその身長(185センチとか)が与える異質性(?)に縛られただろう。彼に刑事役が多いのはその身長ゆえだろうし、探偵、並外れた野心家、殺し屋、凶暴なやくざ、ヘロイン中毒の作家、など異質な役柄を、さらにキザ・不機嫌・不服従を無防備にさらすという異質の上塗りをする優作氏。


 トレードマークのようになった煙草の先を上向きにした吸い方(『太陽にほえろ!』)をはじめ、強烈な自意識と受け取られるものは、自己愛に似ながら、少し違うようにも思う。役柄という他者性が自己決別の裏地として演じるに結集させているかもしれないから。
その意味において「ひとごろし」(76)は初期の優作氏のターニング・ポイントになったのではなかろうか。自意識は丹波哲郎の毒気に譲り、自らはその身体に批評性を持たせる役作り。ここにおいて俳優・松田優作は自由になったのではなかろうか? 「蘇える金狼」(79)「野獣死すべし」に漲る身体性は、その身体からの解放の凱歌を歌っている、と。(文=浦崎浩實)


蘇える金狼」撮影後記(『キネマ旬報』1979年8月下旬号より抜粋再録)


チーフ助監督●小池要之助


◯汗
 朝、四時。  街はまだ深い眠りに、その鼓動をとめ、新宿の高層ビル群は、頂上を小雨に煙らせ、我々にその姿を見せない。
 静寂を破るように、村川監督の「ヨーイ・スタート!」の声がかかる。
 五月十五日「蘇える金狼」の、最初のカットが廻る。
 ――そして、七月三日。「終」のエンドタイトルを撮り了えるまで、楽しくも大変であった撮影も、ようやくクランク・アップを迎えることが出来た。
 終盤、演出部でサウナに行った。監督は、体重が四キロも減ったそうで、なるほど、痩せ細ったその身体を見ていると、文字通り粉骨砕身の激戦であったことが一目瞭然と判る。
 村川監督は、この撮影中、その痩躯を異ともせず、只々走りに走り、叫び狂い、撮りまくった。
 そして、スタッフも俳優も、この作品を少しでも良いものにしようと、日々、奮斗したのである。
 二時間十分。
 そこに凝縮された我々の血と汗は、いま劇場の暗闇の中で、まぎれもなく蘇える。


◯銃
 大藪さんの作品を読まれた方は御存じのように、銃と車のことが実に克明に書かれており、それがこの「蘇える金狼」に於ても大きなポイントを占めている。
 村川監督も、この点については特にやかましく指示され、一点の嘘もないように良く調べ集めるように、我々に厳命した。 車はまだしも、銃については本物はもちろん、プラモデルまで厳しい規制のある日本では、本物らしさを表すことは実に難しい。
 幸いこの度、トビー門口さんと云う銃について大変詳しい人の参加を得られ、大いに助かった。
 朝倉を演ずる松田優作さんも、本物の銃をどうしても知っておきたいと云うことで、クランク・インする前に、ハワイへ一週間、トビーさん共々、実射訓練に行ったのである。
 ハワイでは劇中で使う本物のパイソン357や、M16ライフル等を射って訓練し、その使用した実弾は五千発にも及んだそうである。


 私はその時に撮った16ミリを見せて貰ったが、松田さんの銃を射つ時の豹のように精桿な目と、躍動する肉体を見て、その緊張感みなぎる画面に本物はやはり凄いものだと思った。
 その時の感触をそのままに、この作品に於ての松田さんの銃に対する扱いは、実に神経の行き届いたリアルな動きをしているので注目して頂きたい。
 色々の銃が出て来たが、代表的なものをここに挙げてみる。
 白バイ警官に扮し現金運搬人を射殺したのが〈コルト・ウッズマン〉のサイレンサー付。
 クラブ・ドミンゴで今井健二さんたちと射ち合い、左の足首に隠し持っている銃が、ドイツ製の〈ワルサーPPK〉と云う小型拳銃。


 そして、第二海堡の孤島で南原宏治さんの配下たちと斗うのが、有名な〈コルト・パイソン357〉である。
 クラブ・ドミンゴや第2海堡、石炭埠頭などでの激しい銃撃戦の場面だけでなく、一方ではショパンの「ノクターン」が流れる中で繰り広げられる磯川邸での対決シーンなどは、ガンマニアならずとも、静寂の中に発する〈M2カービン〉等の異様な効果音に、思わず生唾を飲む程の緊迫感を醸し出している。

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