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DVD Collection チョコレートドーナツ

振りかざさない“正義”

取材・文=那須千里

トラヴィス・ファイン[監督]インタビュー「伝えたい物語と出会った」




差別、常識、勇気に思う




1979年、アメリカ・カリフォルニア。一組のゲイのカップルがダウン症の少年を預かり、一つの家庭を築こうと懸命に社会と立ち向かう「チョコレートドーナツ」。単館劇場での公開ながら、口コミで評判が広がり、スマッシュヒットとなったことも記憶に新しい。



 ベテラン脚本家のジョージ・アーサー・ブルームが書いたオリジナル稿は、母親に育児放棄された障害児と家族のように過ごすゲイの物語で、かつて彼と同じアパートに住んでいた男性の実話が元になっている。これを1968年生まれのトラヴィス・ファイン監督がさらに脚色。ショーダンサーのルディにアラン・カミング、パートナーである弁護士のポールにギャレット・ディラハントを迎え、映画化へと漕ぎ着けた。
「ルディのモデルとなった人は、子供を養育して学校に入れる活動をしていましたが、自分の養子にしていたわけではなかったんです。じゃあ実際に引き取って育てるとしたらどうなるか? というところから、フィクションとして作っていきました。それにはこの映画の二人のエグゼクティブ・プロデューサーの体験が大きなヒントになっています。彼らは家庭に事情を抱えた子供たちを養子にしようとして州から却下され、5年の年月と費用をかけてその権利を勝ち取りました。二人がこの脚本を読んだとき、どうして自分たちのしていることを知っているんだろう? と驚いたそうです」



 キーパーソンとなるマルコ役のアイザック・レイヴァはオーディションで選ばれた。ダウン症を抱え、薬物依存症の母親に置き去りにされてしまうというハードな運命を背負った少年の役どころだが、いるだけで人の心を温かくしてくれるような優しい佇まいがある。それだけに彼に与えられた過酷な試練は重くこたえる。
「とにかく笑顔が素敵で、人を惹きつける魅力があると思いました。当初マルコはダウン症という設定でもなく、もっと情緒の不安定なキャラクターだったのですが、アイザックはどちらかというともの静かな子だったので、彼自身のパーソナリティに合わせて脚本のほうを書き換えたんです」



 そのマルコが初めてルディとポールの家に来て、自分の部屋に案内されたとき、彼は嬉しさのあまり、しかし二人に背を向けたまま静かに涙を流す……。



 「あのシーンで泣くのは、アイザックの自然な反応でした。自分の役であるマルコの気持ちを理解して、カメラの前で泣き出したんです。撮影の時には振り向いて泣いたのですが、編集の段階で背中を見せたほうがその気持ちが伝わると思って、そのカットを使いました」


 ルディとポールのキャスティングはアランが先で、ギャレットが決まったのはクランクインの一週間前だったという。撮影直前に会ったにもかかわらず、すぐに意気投合したという二人。歌手志望のルディを演じたアランは見事な美声も披露している。マルコを預かったことで彼らの関係も変わっていくが、トラヴィス監督はとりわけポールの変化を指摘した。 「ルディとポールは対照的な資質を持った人物にしようと思っていました。ルディは一貫して自分に正直で、高貴な心を持った人間として描かれますが、ゲイであることを隠して生きるポールは劇中で誰よりも大きく変わっていきます。それもあからさまにではなく、さり気なく。序盤のクラブに入ってくるシーンで登場したときは、世間の差別や常識に対して慎重に気を配っていますが、ルディとマルコに出会って常識と正義の間で葛藤し、最終的には法廷で闘うことを決意する。それは一人の人間の変化として、とても大胆で勇気のある行動です」



伝えたい物語と出会った




 オリジナルの脚本が書かれたのは70年代のこと。当時は同性愛者に対する偏見や差別が、今以上に厳しかったのではないか。
「この40年間で同性愛や養子の問題を取り巻く社会の状況を見ると、変わったこともあるし、変わらないこともあります。アメリカでは19州で同性婚が可能になりましたが、その他の州ではいまだに違法です。でも同性愛者もお年寄りも若者も、どんな人にも誰かを愛し、自分の好きな人生を送る権利がある。変化は徐々に起きていくもので、一夜では変わりませんが、社会や宗教に左右されることなく、自由に自分の人生を選ぶ権利が、認められる世の中になること――僕がこの映画で描きたかったのは、そういう正義についてです」



 そういうトラヴィス監督自身も、エンターテインメント業界でキャリアを積んでいた2001年、同時多発テロ事件の後に「すべてが儚いものに感じられ」て一旦は映画の世界を離れたことがある。しかしその間に伝えたい物語と出会って再び戻ってきた。そんな紆余曲折の先に本作は生まれた。もともと俳優出身で、ジョン・カサヴェテスが大好きというだけに、準備中の次回作では自ら出演もするとか!



 「テーマは『人生で“遅すぎる”ことはあるのか?』ということ。かつてロックバンドを組んでいた三人の女性が40代になって再結成しようとする物語で、若い頃にやり残したことがあるとき、人は年をとってからでも当時のような情熱やマジックを取り戻せるのか、ということを描きたいと思っています」



ブロフィール

TRAVIS FINE/1968年生まれ、米ジョージア州アトランタ出身。「チャイルド・プレイ3」(91)や「シン・レッド・ライン」(98)「17歳のカルテ」(00)などで俳優として活動する一方、脚本・演出のキャリアも積む。

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