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DVD Collection ファーナス/訣別の朝

徹底した心理描写で現代米国を描く

文=三浦哲哉



 ピッツバーグ近郊の老朽化した鉄工所を象徴的な背景に、二一世紀アメリカの暗部を真正面から描いた話題作のDVDリリースである。



 主人公兄弟の兄ラッセル(クリスチャン・ベイル)は近く閉鎖することが決まった鉄工所に勤め、弟ロドニー(ケイシー・アフレック)はイラク戦争から帰還した後、裏社会の住人たちが取り仕切るストリート・ファイト賭博での闘いに身を投じている。うす曇りの空の下、錆びついた工場と木々の緑の対比が印象的だ。



 かつて数多くのベトナム帰還兵映画が作られたが、本作はその約三十年後にその記憶を反響させる。とくに、戦場で地獄を体験した元兵士が死の衝動に取り憑かれ、ロシアン・ルーレットで命を散らす「ディア・ハンター」が参照されているのは明らかだろう。ロドニーが死闘に赴くシーンは、その兄ラッセルが鹿撃ちをするシーンと並行して描かれる。



 しかし本作がかつての帰還兵の物語とは異なるのは、心理描写に徹底して背を向けている点だ。彼らからは、いまや人間ドラマさえも奪われる。ここに本作の現代性がある。 



 賛否両論があって然るべきだろう。よれよれのTシャツ姿で黙って逆境に耐えるクリスチャン・ベイルをはじめとして俳優陣の熱演には目を見張らされるが、しかしゾンビたちを見ているような、どこか虚ろな雰囲気がじっとりと残る。情念のうねりがひとつながりになって観客の心をふるわせる、そのような理想を演出家はおそらく目指していない。殺伐とした殴り合いの場面も動作が単調で、格闘ゲームのように消耗的なだけだ。「不毛な生」は人間ドラマへと昇華されずただひたすら「不毛な生」のままである。しかし、それら描写の一つひとつが、重い打撃として観客の腹に効いてくる。



 後半、愛する者の死を引き金に、もはや自分を止められなくなった男が、闇夜の下を復讐のために自動車で疾走しだすところから、映画が真に動き始める。本作は車の映画、ドライブ(=衝動)の映画だ。冒頭のドライブイン・シアターの場面から一貫して、心理劇の代わりに、本作は深い闇の下で蠢く車、その不気味な疾走を描き、そのとき観客をどす黒い反復強迫の力で巻き込むだろう。



暴力から暴力へ、その連鎖を止めることのできない男たちは、やがて運命に導かれるようにして決着の場所へと辿り着く。その「訣別の朝」に、誰と誰が、どのような目配せを交わすのか。未見の方にはぜひ確かめていただきたい。

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