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日本独自の電子書籍文化を作っていけばいい

 

『遠野物語』の続編を“語りなおした”作品
――もともと柳田國男さんがお好きだったそうですね。 はい。すごく好きでした。小学生のころから『定本 柳田國男集』を読んでました。こんな風にいうと、よく「すごいですね」なんて言われるんですが、全国の駅名を言える鉄道好きの子とか、やたら昆虫に詳しい子とかもいますよね? あれと同じで、僕は民話や昔話が好きだっただけ。まだ『まんが日本昔ばなし』が放送される前ですからね、本を読むしかなかった。ただ、子供向けの民話集って非常にぬるくて、面白いものは限られていたんです。民話を語り口調のままつづった松谷みよ子さんの本などは好きでしたが、あとはもう民俗学の本しかないという感じで。旧仮名遣いだし、漢字も多いから難しかったけれど、なんとか読んでました。
京極夏彦さん
――『遠野物語』も読まれましたか?

もちろん。ただし、「思い入れはありますか?」と聞かれたら、「まったくない」と答えます(笑)。柳田國男の著作って、基本論文なんですよ。さまざまな物事について考察している。ところが『遠野物語』に関しては、ただ話が羅列してあるだけで論文ではないし、タイトルに「物語」とついているものの小説でもない。だからとりわけ好きということはなかったし、あまり印象に残っていなかったんですね。それが大人になってみると、「代表作」とか「名著」と言われていて、ほかの柳田作品は読んでいないのに、読んでいる人が多いので意外でした。ただし、途中で挫折した人も多いみたいですが。

――そんな京極さんが、去年『遠野物語remix』を執筆することになったきっかけは?

出版社から「『遠野物語』の現代語訳を書いてほしい」と依頼されたんですが、それは誰にでもできることだし、小説家である僕の仕事ではないだろうと思ってお断りしたんです。そもそも『遠野物語』は民俗学の資料的価値以上に、文学的価値を認める人が多い作品。それを書き直すなんて恐れ多いという気持ちもありました。ところがどうしてもというので(笑)、だったら書き直すのではなく、『遠野物語』を材料にして新しく構成する、つまり音楽でいうところの“リミックス”ならばできるかもしれないと言ったんです。『嗤う伊右衛門』とか『覗き小平次』といった古典に題材を取った作品を書くときもまったく同じ手法でやってきたので、それでいいのならお引き受けしますと言った。ただ、僕の視点で書くのではなく、柳田國男がわざと隠蔽した“柳田の視点”で書くとことを目指しました。

京極夏彦さん
――まるで柳田國男の自伝小説を読んでいるような感覚になりました。『遠野物語』を読み通せなかった人にも好評だったとか。また、最新作『遠野物語拾遺retold』はその続編ですね。『遠野物語』は有名でも、20数年後に出版された『遠野物語拾遺』があったことはあまり知られていない気がします。

そうなんですよ。『遠野物語拾遺』は佐々木喜善の原稿を弟子にまとめさせただけのもの。弟子も自分の作品ではないわけだから迷ったろうし、「先生が手直ししてくれだろう」と思っていたら、そのまま出版されてしまった……という経緯がある。柳田國男の占める割合はもともと低い。だから前作と同じにはできませんでした。完成作を素材に戻して組み直すのではなく、素材しかないわけですから、リミックスではなくて、ただのミックスです。柳田が依頼して、喜善が記し、弟子がまとめた素材を、今の人たちに向けて組み直しただけですね。だから今作には「retolod=語りなおし」と付けました。

――『遠野物語拾遺』の中で面白かった話はありますか?

『遠野物語拾遺』は299話もあって、『遠野物語』より100話も多い。でも多いからといって、面白いネタがいっぱいというわけではなく、ちっとも面白くない話も多い。たとえば、隣に住んでいる変なおじさんのあだ名なんて、別に知りたくないでしょう(笑)。「だから何?」って感じですね。でも、もともと小説というものは、筋書きはつまらなくても、順番を変えたり、表現を変えるだけで面白くなるものなんだと思うんです。だからなんとかならないかなと。娯楽小説に近づくよう心がけて書きましたが、どうでしょう。ただ、僕とは解釈が違う人もいるでしょうから、ぜひ読後は原典である『遠野物語』や『遠野物語拾遺』も読んでほしいです。

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もっと電子書籍でワクワクしたい
――普段、電子書籍を読まれていますか?

自分の作品も販売しているので、チェックもしなきゃいけないから、ちゃんと買っています。ただいまひとつ、魅力に欠けるんですよね。「これならもう(紙の)本は買わないよ!」くらいの気持ちにさせて欲しいんだけれど、そんな気持ちになったことはまだ一度もないですね。ただ、電子書籍には電子書籍にしかなし得ない可能性があることは確実なんですね。流通ひとつとっても、リーダーさえ持っていれば世界のどこにいても読める。エージェントがいなくても、国外で販売できるわけですよね。そういう利点は他にもいくつもあって、そこを生かせる発想で基本から整えていくことが大切なのだと思いますが。

――具体的にはどのように?

そうですねえ。いったい何を売っているのか、はっきりわかっていないんじゃないかと思うんですね。配信元や出版社が競うにしても、結局価格競争になっちゃうのじゃあんまり意味はないですよね。でも、じゃあ海外資本に市場が蹂躙されちゃうのかというと、どうもそれもない気がするんです。日本人のニーズにあわせてカスタマイズされてないと、スタンダードになりにくいんじゃないかと思う。もともと器用なんだから、日本のスタイルを国際基準にしちゃうくらいのものが作れるんじゃないかとも思うんですが。そのためには法整備なんかも必要だろうし、なら何ができるのか、何を売っているのかもっと明確にしなくちゃいけないですよね。そうなればそれに応じたクリエイターがたくさん出てくるだろうし、コンテンツも充実するでしょう。僕自身はどちらかといえば読者として期待しています。もっと電子書籍でワクワクしたいですね。


京極夏彦さん

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京極夏彦さんの作品
冥談

冥談

庭に咲く艶々とした椿の花とは対照に、暗い座敷に座る小山内君は痩せ細り、土気色の顔をしている。僕は小山内君に頼まれて留守居をすることになった。襖を隔てた隣室に横たわっている、妹の佐弥子さんの死体とともに。しかしいま、僕の目の前に立つ佐弥子さんは、儚いほどに白く、昔と同じ声で語りかけてくる。彼女は本当に死んでいるのだろうか。「庭のある家」をはじめ、計8篇を収録。生と死のあわいをゆく、ほの瞑(ぐら)い旅路。

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幽談

幽談

怖いものとは何だろう。本当に怖いものを知るため、とある屋敷を訪れた男は、通された座敷で思案する。完全な暗闇の世界、思いもよらない異形のモノ、殺意を持った猛獣や殺人鬼、己が死ぬこと、幽霊ーー。不安でも嫌悪でも驚きでも不思議でもなく、純粋な怖いものを。恐怖に似たものではい、真実の“こわいもの”を知るという屋敷の老人が、男にさし示したものとは。「こわいもの」ほか、妖しく美しい、幽(かそけ)き8つの物語を収録。

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書楼弔堂 破暁

書楼弔堂 破暁

古今東西の書物が集う墓場。移ろい行く時代の中で迷える者達。誰かが〈探書〉に訪れる時、一冊の虚(うそ)は実(まこと)になる。明治20年代の本屋が甦る、新シリーズ! ーー立ち止まって眺めるに、慥(たし)かに奇妙な建物である。櫓(やぐら)と云うか何と云うか、為三も云っていたが、最近では見掛けなくなった街燈台に似ている。ただ、燈台よりもっと大きい。本屋はこれに違いあるまい。他にそれらしい建物は見当たらないし、そもそも三階建てなど然う然うあるものではない。しかし到底、本屋には見えない。それ以前に、店舗とは思えない。板戸はきっちりと閉じられており、軒には簾が下がっている。その簾には半紙が一枚貼られている。近寄れば一文字、弔ーー。と、墨痕(ぼっこん)鮮やかに記されていた。

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プロフィール
京極夏彦さん 京極夏彦さん(きょうごくなつひこ)
1963年北海道生まれ。1994年「姑獲鳥の夏」でデビュー。1996年『魍魎の匣』で第49回日本推理作家協会賞長編部門、1997年『嗤う伊右衛門』で第25回泉鏡花賞受賞。2004年『後巷説百物語』で第130回直木賞受賞。2011年『西巷説百物語』で第24回柴田錬三郎賞受賞。
編集後記
京極さんが小学生のころから柳田國男作品を読んでいたというのには驚きましたが、今回の作品も、そういう読書体験の積み重ねで実現したのだなと実感しました。また、電子書籍の活用について、書き手としてはもちろん、読者として「もっとワクワクしたい」とおっしゃっていたのが印象的です。

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