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日本財団 『これも学習マンガだ!~世界発見プロジェクト~』

余白の豊かさ ~能とマンガの共通点~

山内 マンガ制作にかかわる人の人数もポイントですよね。映画やアニメのように、関わる人が多すぎると場合によっては個人の強い想いが薄まってしまうことがあると思います。 マンガの具体的な表現についてはどうお考えですか?

川口 省略がとてもうまいですよね。子供の頃、父の職場にヨーロッパやアジアの若手マンガ家が作品を見せにくることがあって、その時に私も見せてもらっていたのですが、その作品がどうにもこうにも退屈なんですよ。なぜ退屈か?と考えてみると、このコマに描ききらなかったから次のコマに移る、という絵コンテのようなコマ運びがどうやら退屈の原因のようなんですね。日本のマンガは「飛ぶ」んです。例えば決戦シーンで、空の絵のコマがあって、次のコマでは次の日になっているとか、一気に「飛ぶ」。この「飛んだ」コマ間で起きたことは、読み手が頭の中で構築するわけです。

山内 たしかに、全体のストーリーをみせるための日本のマンガのコマ構成は洗練されていますよね。

川口 無意味のように思えるコマが、実はすごく効果を生むことがあります。それってどういうことかというと、省略するのがうまいからなんですよ。余白使いがうまいとも言えると思います。余白の正体はイマジネーションを呼び込む隙なんです。 マンガを読む行為って実は非常に知的な行為なんですよね。コマをつなげるイマジネーション、セリフをつなげるイマジネーションを働かさないと読めない。アニメだっだら全部動いてくれるところを、マンガはすべて頭の中で再構築して読むわけです。
余白を作るのは日本人の得意なところで、例えば、俳句は短歌の五・七・五・七・七の七・七すら取ってしまうことによって、七・七があるときよりも豊かな表現があるんじゃないかという考え方ですよね。
能もまさにそうで、例えば、悲しみを表すシーンでは涙を抑える形だけで、見ている人が、あの人は今悲しみの中にあるんだと理解して共感するんです。わからなくなるぎりぎりのところまで表現をそぎ落とします。

山内 なるほど、全てを表現しきらず、余白を作っておくんですね。

川口 そうです。今日、能面を持ってきたのですが、能面もまさに余白使いを活かした表現です。

左、江戸初期の「孫次郎」という面。作者は出目洞白。右、江戸初期の「般若」の面。こちらも作者は出目洞白。状態は良くないが味がある。

左、江戸初期の「孫次郎」という面。作者は出目洞白。右、江戸初期の「般若」の面。こちらも作者は出目洞白。状態は良くないが味がある。

能面ってよく無表情って言われますけど、「無」なんじゃなくて、中間的表情なんですよね。
悲しくも見えるし、嬉しくも見えるし、うつむくと少し悲しげで、仰向けると思いが晴れたような表情にもみえるように計算して作られているんです。これもやっぱり余白だと思います。笑っている顔、怒っている顔のそれぞれの面で1時間の演劇ってできないですよね。ずっと怒ってるわけにはいかないし。こういう中間表情の能面であれば同じ面で1時間もちます。ひとつの面でいろんな感情、シーンを表現できるというわけです。

山内そういわれて能面をみると、いろんな表情に見えてきますね。想像力が働きます。

川口これは師匠の受け売りですけど、10割の表現のうち、3割カットして7割で表現すると、その3割分に対して、それを見ている人がイマジネーションを働かせることになる。演者が10割の表現を見せるよりも、その受け手のイマジネーションによって3割が補完された10割のほうが豊かである、ということなんです。受け手のイマジネーションによって、受け手が100人いたら100通りの能の舞台が展開する。その方が豊かですよね。
同じような働きがマンガにもあると思っています。余白づくりがうまいのは、おそらく読み手のイマジネーションを信頼しているからです。なぜ信頼できるか?というと、日本が平和で、ずっと同じ土地に住んでいたということが大きいと思います。もちろん、何度も争乱はあったけれど、根こそぎ土地から民族がいなくなるようなことはなかったですよね。そこに2000年間以上生きてきた日本人にはイマジネーションを共有できているという安心感があって、その中で余白使いが洗練されていったのではないかと思うんです。

山内大変興味深いですね。マンガを読むと、余白へのイマジネーションの働かせ方が自然に身に着くかもしれないですね。

川口日本人はマンガを読むことでこどもの頃から訓練されているんですよ。余白ありきの表現を楽しむ方法を身につけているんだと思います。そういった意味で、日本のマンガは本当に洗練されているなあと改めて思います。

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