ページトップへ戻る
  • フェイスブックでシェアする
  • ツイッターでシェアする

日本財団 『これも学習マンガだ!~世界発見プロジェクト~』

「社会」と「個」で行き来する人間の何を描くか?

山内 「社会」ジャンルで選出された作品をご覧になった印象をお聞かせください。

江口選書作品を見渡してみると、生活保護を題材にした『健康で文化的な最低限度の生活』や『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』(以下、『いちえふ』)など、題材として、過去にあまり扱ってこなかったもの入っているところがまず面白いと思いました。あと、『ヘタリアAxis Powers』(以下、ヘタリア)はこの中だと異色ですね。

山内ヘタリア』はずっと読んできた作品とお聞きしました。

江口マンガだけでなくアニメも見ています。世界各国を歴史や文化、習慣を踏襲して擬人化しているところや、キャラクターのデフォルメが面白いですよね。イギリスとアメリカの微妙な関係性や、イタリアのいいかげんさ、ドイツの真面目さ、日本のキリっとした感じとか。

山内擬人化することで、圧倒的なわかりやすさがありますよね。

江口ヘタリア』は実は外国でもウケてるんですよね。アニメエキスポとかでヘタリアを模して自国や好きな国の民族衣装を着ているレイヤーさんがいたりとか。

山内日本では『艦隊これくしょん』も流行っていますけど、このタイプの擬人化マンガは現状日本じゃないと描けないと思いますね。ある程度マンガの文化が根付いていないと、これほど思い切ってデフォルメはできないのではないかと。

江口「キャラ化する」というのは日本の八百万の神という考え方の影響があるかもしれませんね。それは手塚先生や水木先生が築いてきたのではないでしょうか。

山内では、『ヘタリア』と全く違うタイプの作品、『土佐の一本釣り』はいかがでしたか?

江口当時の「男のあるべき姿」や、職業倫理が描かれていますよね。この作品が発表されたのは、昭和50年ですね。あ、私、生まれてないですね(笑)。この作品を「社会」というキーワードで切り取ったのはユニークですよね。

山内私が最近読んだ『男一匹ガキ大将』でも「男のあるべき姿」が描かれていました。どちらの作品も現代の青年誌マンガのようなストーリーの緻密さよりも「魂」を伝えようしていたのかな、と。「社会」で選出された作品の多くが、当時の世相や社会情勢を色濃く反映していますよね。

江口たとえば『沈黙の艦隊』は、描かれた1990年前後の当時の原子力の考え方や国連のあり方、日本とアメリカの関係を反映していますよね。『加治隆介の議』では当時の日本の政治の現場や国際情勢、政策的な話が描かれている。『サンクチュアリ』もそうですけど「社会」ジャンルは90年代のマンガが多いですね。

山内たしかにそうですね。経済の急激な成長の一方で歪とそれから生じる社会不安が潜在的にあった時代。その不安を読者の代わりにマンガが代弁していたのかもしれないですね。

江口でも、この時代のマンガは、不安という「マイナス」なものを表現する一方で、同時に人間の可能性を信じるような「プラス」のものも描いている気がします。『沈黙の艦隊』では、主人公である海江田が国際平和を目指し国連の現状を打開しようとする話が出てきます。そこには、人類や世界はもっと分かり合えるんじゃないかという希望も込められているように感じます。90年代という時代は、インターネットなどのテクノロジーやコミュニケーションの多様化が今ほど発達していなかったですよね。その分、人間の「想像力」で補っていた部分があったんじゃないかと。希望を伴った想像力を持つ人がいる限り、人の延長線上にある社会はもっと良くなるんじゃないか、と考えていたような時代かもしれませんね。

山内なるほど。では、それと比べて2010年代の作品についてはどうですか?

江口90年代と比較すると2010年代は希望的観測を含めた想像力が乏しくなってきているのかもしれません。だからこそ、より具体的な事象を描くものが受け入れられやすくなっているような気がします。具体的には『いちえふ』『健康で文化的な最低限度の生活』などですね。 『土佐の一本釣り』の時代は個人の生き方が中心に描かれて、『沈黙の艦隊』の時代には社会のあるべき姿が描かれるようになり、2010年代の今は、具体的な事象の中で、もがく個人を描くという大まかな系譜があるように思います。

山内面白いですね。確かに『土佐の一本釣り』や『男一匹ガキ大将』で描かれるキャラクターは強烈な個としての憧れの対象ですよね。でも、最近は個を強くして、個として社会で戦っていくことにリアリティを持てない時代かもしれませんね。

江口そうですよね。『いちえふ』と『健康で文化的な最低限度の生活』は不安定な個やもがきながら葛藤をする人間関係や社会課題を描き出すことが主軸なんですよね。そうした意味で、個それ自体よりも他者や社会との関係性が描かれていますよね。
「社会」って何か?を考えたときに、複数いる人間の間でやりとりをしながらどうにかして調整して行っていくという姿があって、その調整のために法律や国があるんですよね。その「社会」がありながら、一方で自分自身である「個」がある。そして、それぞれに「あるべき姿」を求めようとする。誰しも、社会の「あるべき姿」と個の「あるべき姿」を行ったり来たりしているわけです。その行き来の過程や苦悩の切り取り方が、マンガなり、小説なりの作品の魅力を決定する重要な要素になるんだと思います。

  • フェイスブックでシェアする
  • ツイッターでシェアする
このページをお友達に教える
  • ツイート
現在地
トップ > 特集 > スペシャル特集vol.04:ジャンル別インタビューシリーズ「社会」

オススメのキャンペーン&特集

もっと見る

  • 買い物かご
  • お気に入り
  • 閲覧履歴
  • 購入履歴
  • クーポン