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日本財団 『これも学習マンガだ!~世界発見プロジェクト~』

絶対的な価値観なんて本当は存在しない?

山内ファンタジウム』は比較的最近の作品です。

津口読字障害の少年が主人公ですよね。なかなか目に見えにくい障害だと思うので、これを読んで、なるほどこういう障害があるのだなと知るのにとても良い作品だと思いました。

山内親世代がよく読んでおくのも良いですよね。

津口それはありますよね。あと、もちろん子どもにも読んで欲しい。鞆の津ミュージアムでは、いわゆる一般的には「おかしい」「変」「無意味」「無駄」と思われるかもしれないような表現を展示しているんですが、その展示空間に子どもたちが入ってくると「見てはいけないものを見た」みたいな反応をして、ギャーって言いながら館内をぐるぐる回り出したりするんです。でもそのような「おかしい」「無意味」と思われるかもしれないけれど、現実に存在している多様な表現を子どもの頃に大量に浴びておくと、生きていくうえで心が広くなるんじゃないかと思っていまして。「この世にはいろんな人がいて、いろんな生き方があるんだな」みたいな感じで。鞆の津ミュージアムの展示にはそういう学校では教えてもらえないような混沌とした現実のあり様を伝えるという教育的な意味があるといいな思っています。逆に価値観の幅が広がりすぎて、混乱しちゃう可能性もあるかなとも思いますが。

山内そこは難しいところですね。

津口はい。でも、子どもの頃からいわゆる「きれいなもの」ばかり与えられていると価値観がカチッとはまっちゃって、そのせいで生きにくくなってしまうことがあるかもしれないと。そういう意味で、マンガという切り口で多様性を見せてくれる「これも学習マンガだ!」は、いいやり方だなって思います。

山内興味の違いは人それぞれにあると思うけれど、1作でもビビッとくるものがあったら嬉しいですよね。例えば『聲の形』にはほとんど耳の聞こえないヒロインが出てきますが、障害者が出てくるマンガというよりは一般の少年マンガとして話題になった人気作品。絵も今風です。

津口放浪息子』も今風の絵柄ですよね。物語として凄く上手く出来ていると思いました。「服を着る」ということと「性を取り換える」ということが同じレイヤーで語られている感じ。僕らが身に付けているジェンダーも不変ではなくて、実際には服を着るみたいなものなんじゃないかと。着替えることができるということを忘れているだけで。そう気づかせてくれる素晴らしい作品です。価値の底が抜けている世界観が僕は好きなので。

山内価値の底が抜けるというのは?

津口この世界には変えることのできない決まりごとなどはない、という感じでしょうか。私たちはある既存の価値観にもとづいて、ものごとの善し悪しなどを判断しながら生きているわけですが、実はその価値観も絶対的なものではありえないという考え方です。性別についてもそう。絶対的な「これ」というものなんてないんですよね。交換可能だったり、脱いだり、重ね着したりできるようなものなんじゃないかと。

山内たしかに。「多様性」の作品を見渡してみるとどの作品も固定観念を一度考え直すきっかけになりそうですよね。『すみれファンファーレ』はどうでしたか。

津口家族をどうやって作っていくかという話だと思いました。主人公の両親は離婚して母子家庭ですけど、友達のお父さんや家庭教師のお兄さんが出てきたりして、事実上の父や兄に近い存在として描かれている。そういうゆるく繋がっているものを家族と称することにすると、もっと生きやすい部分があるんじゃないかと思ったりして。例えば、私が今働いている施設などでもそうですが、そこで生活している人たちはお金を払って施設を利用するかたちで福祉的サービスを受けているので、ある種の「お客様」という面があるんですよね。そういうこともあるので、支援上、ある程度の「距離」を保つべきだと一般的に言われるのもわかります。でも、生活している皆さんにとっては施設が家でもある。だから職員ともいわば疑似家族みたいになっていくところもあるんじゃないかと。そういう場合の適切な距離感とか関係性をどうやってつくっていくのかということや、血縁じゃない家族の在り方について非常に興味がありますね。

山内光とともに…〜自閉症児を抱えて〜』は自閉症児とその家族の物語です。

津口どんぐりの家』にも出てきましたが、この作品でも描かれているように、障害のある子どもが親亡き後にどうやって暮らしていくかというのは大きな問題です。実際、どこも入所施設の受け入れ先は不足していると言われますし、障害とともに日常の生活を送ることにはやはり様々な困難があるわけですよね。そこをわずかでも良いものにするのがまずは最も大事なことなので、鞆の津ミュージアムのような文化施設の重要性が相対的に小さくなるのは、一般的に言っても確かにあるだろうなと。でも、文化的なものを通してしか人の心のあり方を変えられないってことも絶対にあると思っているので、そういう意味でも美術館やマンガの存在は必要なんだと思います。

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