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日本財団 『これも学習マンガだ!~世界発見プロジェクト~』

混沌が凝縮される『天才バカボン』

山内お持ちいただいたおすすめマンガについて教えてもらえますか。

津口まずは『天才バカボン』。めちゃくちゃな話なんですよね、これ。現実世界であれば「おかしな」「狂った」人だとされてしまうような人たちが本当にたくさん出てくる。バカボンのパパがまず、そうですよね。この人はさっきの話で言うと価値観の底がぽっかり空いちゃっている人。論理性も何もない。昨日の俺は俺じゃないみたいな話をする人なので、この人とは約束もできないし、規範という規範を全部すっ飛ばしちゃっている。読者が信じているものをどんどんこの人がぶっ壊していくと。そして今とは別の形をした現実があるんだよって示しているわけです。この世の混沌が凝縮されているって感じの作品ですよね。

山内確かに掃除をひたすらしているレレレのおじさんとか、実際いたら変人扱いされますよね。バカボンは天才じゃないのに、タイトルが『天才バカボン』なのもおかしい。

津口そうそう。はじめちゃんのほうが天才なのに(笑)。あとよく言われるのが、後半になっていくとどんどんメタフィクションみたいになって、コマ自体を外から眺めたりするような表現になっていくんです。このマンガ自体がマンガの枠組みを壊して外に逸脱していく感じで。

山内ですよね。特に後半は赤塚先生の思考実験に近い感じがしますよね。

津口ほぼマンガの体をしているだけっていう感じになっていますよね。赤塚不二夫本人はアンディ・ウォーホルになぞらえられたりすることもあるようですが、『天才バカボン』を現代美術的な枠組みでとらえるのもありなんだろうなとも思います。とにかく笑いのためには、私たちがもっている枠組みを揺らす必要がある。でも、それをやり続けると自分の世界が混乱するわけじゃないですか。だからギャグマンガって一般に連載が長く続かないのかもしれませんね。

山内諸星大二郎の『夢の木の下で』もおすすめマンガとして持ってきていただきました。

津口哲学者の永井均さんは『マンガは哲学する』という本で、藤子・F・不二雄のSF作品の中に、現実をメタな視点から見つめて疑い、相対化する力を読み取っていますが、この『夢の木の下で』も、まさしくそういう世界を描いています。巨大な岩壁に囲まれている場所で暮らす人々の話なのですが、その壁は個人や文化を断絶するものの比喩として描かれていて、その内に住んでいる人は壁を壁だとも認識していない。だけどある時、壁の向こうから一人の男がやってくる。やがてこの男と壁の中にいた女が一緒になって壁の外へ出ていこうとするんです。そこで見えたものは、自分たちがいた世界を「世界A」とすると、その他に「世界B」、「世界C」…というような感じで異なる無数の世界が並列に存在しているような光景だったと。たまたま自分たちがいるのはこの世界だったけど、可能性としてはこの世界とは違うあり方をしている他の世界に生まれることもありえたよねっていう神の視点の話なんです。

山内たしかに「世界A」では評価されないものでも「世界B」では評価されるということはあるかもしれない。こんな風にSFマンガを世界の多様性マンガとして読んでみたら、また新鮮な気づきがありそうですよね。

構成・編集 岩崎 由美

対談中に紹介された作品一覧

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