2024-03-05
自分が書いた黒歴史小説の悪役に転生、死亡フラグを回避せよ!? 『転生悪女の黒歴史』
誰にでも一度はあるでしょう。空飛ぶ魔女に憧れて、こっそりホウキにまたがってみたことが、手を触れずに目の前の物を持ち上げられないか、強く念じてみたことが。さらに読書が好きな人なら、一度は書き出してみたことがありますね、自分の考えた架空の世界の設定を。学校の休み時間に、隠れてノートに書いているぶんにはいいんですよ。妄想するのは自由ですし。でもそれを、大人になってから他人に知られたときの恥ずかしさといったら…!『転生悪女の黒歴史』(冬夏アキハル/白泉社)の主人公・佐藤コノハも、そんな「黒歴史」を持つ大人のひとり。
佐藤コノハには「黒歴史」がある。中学時代の全てを懸けて書いたそれは・・・ 伯爵令嬢コノハが騎士に愛される、恋と魔法の冒険ファンタジー! ある日、「黒歴史」を母親に見つけられそうになったコノハは、焦って交通事故で本当に死んでしまう!! 次に目を醒ますと、そこは自分の創作した「黒歴史」の世界で、コノハの妹である、自分の考えた最強の悪女・イアナに転生していて?
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会社帰り、実家からの電話で「押入れに小説を書いたノートが入っていた」と告げられたコノハだって、焦っていたに違いありません。電話を受けているまさにそのとき、事故に遭ってしまったコノハは、自分が書いた小説の世界──黒歴史そのものの世界に転生します。
けれどコノハが転生したのは、美少女ヒロイン、コノハ・マグノリアではありませんでした。その妹であり、コノハの命を狙う最強の悪女、イアナ・マグノリアだったのです!
不本意な転生を遂げた佐藤コノハ、いえ、イアナの周囲にいるのは、純真無垢で誰からも愛されるヒロイン・コノハだけではありません。「なりたい女の子」を具体化したヒロインの側には、理想の男子が揃っています。佐藤コノハの好みの権化・伯爵家次男のギノフォードと、執事のソルです。
実は、ヒロイン至上主義だった佐藤コノハが考えたイアナは、プロローグで死ぬことになっていました。ヒロイン・コノハに恩のある、ソルの手で殺されてしまうのです。いわば転生時点のイアナは、死亡ルートを爆走中。コノハが傷つくようなことがあれば、ソルはイアナを疑うでしょう。死亡フラグを回避するには、コノハを害するつもりはないと、ソルに証明するしかありません。コノハに降りかかるさまざまな危険から、彼女を守らなくては!
考えてみれば、これを読むわたしたちだって、イアナと状況は同じかもしれません。誰もがみんな、主人公のポジションに生まれたわけではないでしょうから。それでも、望まないフラグを見つけてはへし折って進むイアナを見るうちに、ふと気づくことがあります。人生にどんなフラグが立っていようとも、みずから行動することで、物語は修正できます。そんなふうに運命にあらがう人物こそが、悪役だろうと端役だろうと、物語の主人公たりうるのです。
恋と魔法と“自分の黒歴史”が痛気持ちいい、悪役冒険ファンタジー。日ごろ、「自分なんて群衆その1だから」と感じている人にも、ぜひ読んでほしい1冊です。
文=三田ゆき