主人公の賢一は、母親を早くに亡くし、仕事に忙しい父と2人で暮らしていました。賢一の遊び相手となったのは、隣の家に住む“弟”の春彦、愛称は“はる”。

寂しい家庭環境で育った賢一にとって、はるは、かけがえのない家族のような存在でした。しかし、はると一緒にいると、かわいいと思う気持ちを止められません。かわいい、抱きしめたい、キスをしたい。けれど“おにいちゃん”である自分が、“弟”のはるに、そんな想いを抱いていいはずがありません。この気持ちは、絶対に隠しとおさなくては。そう決意した賢一の心を、神様は汲んでくれたらしく……。

はるへの気持ちを整理できないまま大学３年生になった賢一の前に、ふたたびはるが現れました。偶然にも同じ大学に進学し、隣の部屋に住み始めたはるは、幼いころと変わらない振る舞いで賢一のことを慕ってきます。賢一は、まだ生活が整わない彼のために食事を作り、風呂を貸し、ベッドを提供してやろうとするのですが、床で寝ようとする賢一に、はるは上目遣いで「昔みたいに一緒に寝よ？」。……人の気も知らないで！！！

それからというもの、はるはなにかと賢一のあとをついて回るようになります。初恋の相手との、半同棲生活の始まりです。無邪気にくっついてくるはるはかわいいけれど、賢一の理性はもう限界。“弟”に、「好き」だなんて言うわけにはいきません。そう考えて踏みとどまる一方で、賢一は、半裸のはるが自分に迫ってくる夢を見てしまい──!?

初恋モノとしてオーソドックスな展開ながら深く感情移入できるのは、賢一やはるの心の動きが丁寧に描かれているからです。想いを伝えたい、でもできないという恋の痛みや切なさはもちろん、想いが通じたときの幸福感も、自分のことのように味わえます。

恋する心の予習にも復習にも、最適と言える本書。出会いの季節の今、恋の喜びをしっかりと楽しめる本作で、胸キュン予行演習してみてはいかがでしょうか？

文＝三田ゆき