日常にすべりこむ不思議な出来事を描いた、4編を収録の短編集です。

同人誌即売会で強く惹かれた、奥付もないたった12ページの本。読むたびに内容が違う気がするけれど、記録にも残せず、なのに面白かったという記憶だけが残される。その感動をどうにか残しておきたいと思った主人公は…（「継ぎ穂」）

深夜に受信したのは、番組表にも存在しない、知らない地名が出てくるラジオ番組。（「混信」）

派手な展開があるわけでもないのに引き込む漫画表現の手腕が巧みで、「こういうのを読みたかったんだよー」という漫画好きの声が聞こえてきそうな良作揃いの作品集です。

「地下図書館探検譚」より

『室外機室　ちょめ短編集』©ちょめ／双葉社

『女の園の星』とともにマンガ大賞2021ランクイン！和山やまが描く、中学生とヤクザの奇妙な友情

「このマンガがすごい！2021　オンナ編」（宝島社）第5位獲得や「マンガ大賞2021」で2作品が同時にノミネートされた最注目作家、和山やま『カラオケ行こ！』。
合唱部に所属する中学3年生、岡聡実(おかさとみ)とヤクザの若頭補佐、成田狂児(なりたきょうじ)の奇妙な友情を描いた作品です。

地獄の罰ゲームを回避するため、組長が主催するカラオケ大会で絶対に勝ちたい成田狂児。
市民ホールで行われていた合唱部の大会で1番うまかった岡聡実を自分のカラオケ練習に誘い出します。
奇妙な形でヤクザと関係を持ってしまった岡聡実は、もちろん絶望。しかし、練習に付き合ううちに成田狂児の不思議な人柄に徐々に心を許していき…。

中学3年生。変声期を迎え、合唱部でも思うように歌えないという大きな悩みを抱えていた岡聡実。自分自身の悩みにもうまく対処しきれない年頃に、大人(しかもヤクザ)のカラオケ練習を手伝う！？
怒り、苦しみ、涙する…ヤクザとの出会いを通じて大きく成長する中学生の青春の1ページを描く、和山やまの珠玉の1作です。

現在、月刊コミックビームで不定期連載中の『ファミレス行こ。』は『カラオケ行こ！』の続編で主人公、岡聡実の大学生時代が描かれています。合わせてお楽しみください。

また、ドラマ化もされた和山やまの『夢中さ、きみに。』も発売中です！

©和山やま／KADOKAWA

「このマンガがすごい！2023　オンナ編」（宝島社）4位を獲得した、やまじえびね『女の子がいる場所は』。
生まれた国、宗教、人種、文化の違う少女たちが、オムニバス形式で描かれた、計5編の作品集です。

「女の子」「女性」は、社会的にも経済的にも弱い立場として差別された歴史があります。
この作品に登場する少女たちは、その社会構造や固定観念に疑問を抱き、意志をもってそれを打破しようとしています。

女の子だから、抱いていた夢を奪われる。
女の子だから、勉強よりも家のことのほうが大切。

父親や家によって将来の進路や結婚相手が決められ、それに従わなければいけない。
「女の子だから」というだけで、夢や幸せが奪われてしまう現実が、世界中のあちこちに存在します。
その中でも力強く生きようと悩み、もがき続ける少女たちの姿に胸が打たれます。

現代社会でもなおつづく、性差別を映し出す『女の子がいる場所は』。
日本をはじめとするさまざまな国の少女たちの物語は、私たちの社会に隠された重大な問題を気づかせてくれます。
性別によらず、多くの方に読んでいただきたい作品です。

©やまじえびねま／KADOKAWA

石黒正数が描く不思議系ミステリ！！ロボット、人工生命体が普及した世界でおこる奇妙な物語

石黒正数『外天楼』。『それでも町は廻っている』などで知られる石黒正数が1巻完結で描いたのは、「外天楼」と呼ばれる集合住宅にまつわる奇妙なSFミステリーです。

エロ本を入手したい3人の少年たちのコメディ要素たっぷりのやり取りで物語がはじまりますが、徐々にシリアスな展開になっていきます。
「外天楼」と呼ばれる集合住宅にまつわるお話を全9話構成で描き、一見それぞれが関係ない物語のように展開されますが、伏線が各話に散りばめられており、全話つながっています。
本作では科学が発達し、人間と同じ怒りや葛藤を覚えるロボットや人工生命体が登場します。

姉・キリエの謎を追い、弟のアリオ、そして刑事・桜庭冴子が奔走します。アリオの少年時代からの友人や科学者・鬼口獰牙と関わる中で明かされていく衝撃の真実に目が離せません。

『13・67』などで知られる陳浩基はSFミステリー短篇小説『ディオゲネス変奏曲』の著者あとがきにて、『外天楼』をミステリー、風刺、SF、パロディなどあらゆるをジャンルを融合した作品として大絶賛しています。
世にも奇妙な姉弟愛を描く『外天楼』。石黒正数の世界観をお楽しみください！

また、石黒正数が父娘愛を描いた1巻完結マンガ『響子と父さん』、「このマンガがすごい！2019　オトコ編」で第1位を獲得した『天国大魔境』も好評発売中です！

©石黒正数／講談社

『マロニエ王国の七人の騎士』の岩本ナオが贈る異国の青年と姫の恋物語

岩本ナオ『金の国 水の国』。『マロニエ王国の七人の騎士』を描く岩本ナオが贈る1巻完結マンガは、異国に住むお姫様と青年のときめきラブストーリーです。『金の国 水の国』は「このマンガがすごい！2017　オンナ編」で第1位を獲得しています。

昔々、隣国同士でいがみ合い、些細なことで争いを続けるA国とB国がありました。とうとう神様が仲裁に入り、A国は国で1番美しい娘をB国に嫁に与え、B国は国で1番賢い若者をA国に婿に与えるということを命じました。

しかし、そんな言いつけを守られることはなく…

商業が発展し、先端技術もあるA国、自然豊かなB国。両国が友好関係を結べばきっと素敵な世界になるはず…！
B国の設計技師で口が達者のナランバヤルの国交を結ぶ大きな挑戦に胸を打たれます。そしてA国の心優しきサーラ姫とのラブロマンスにときめきが止まりません。
国同士のつまらない争いに翻弄されながらも、愛を育む2人の若き男女。恋愛に国境はありません。

1巻完結で爽快な気持ちになれる、岩本ナオワールドをお楽しみください！

©岩本ナオ／小学館

『ジョジョの奇妙な冒険』の著者・荒木飛呂彦が描く傑作短篇集！

荒木飛呂彦『死刑執行中脱獄進行中』。超人気作『ジョジョの奇妙な冒険』、『岸辺露伴は動かない』の著者・荒木飛呂彦が描く1巻読み切りの衝撃作です。

女性を殺害し、死刑判決を下された被告人は、とある不思議な牢獄に入れられます。なんとそこには牢獄とは思えないとても豪華な部屋が存在しました。
しかし、その部屋にはとても恐ろしい仕掛けがあり…

次々と降りかかる恐怖。ここは牢獄ではない！すでに処刑ははじまっていた…
被告人は恐ろしい仕掛けを突破し、無事脱獄することができるのでしょうか！？

『死刑執行中脱獄進行中』では、表題作『死刑執行中脱獄進行中』含め、ほか3作品の読み切り短編集で構成されています。独特のタッチと、ハラハラ・ドキドキが止まらない荒木飛呂彦ワールドをお楽しみください。

©荒木飛呂彦／集英社

いろんな2人の関係を描く心温まる短編読み切り集！

穂積『式の前日』。父娘、双子…いろんな2人の関係を描く、計7話が収録された心温まる短編読み切り集です。

表題作『式の前日』では結婚式前日の2人の男女の生活が描かれています。

式の前夜、思わず泣き出してしまう女性。
その様子を見てそっと優しく手を差し出す男性。

今まで楽しかった2人の時間は過ぎ去り、明日からは新たな生活が始まる…

2人の男女のちょっぴり切なくも心温まる物語です。

『式の前日』では、その他にも幼い娘と父のお話や双子の兄弟のお話など「2人」に焦点を当てた作品で構成されています。
優しい気持ちになれる穂積ワールド、ぜひお楽しみください。

©穂積／小学館 

大学の食堂を舞台に学生と食堂で働く女性の年の差恋愛を描くピュアラブストーリー

えすとえむ『うどんの女』。大学の食堂でうどんを担当する35歳バツイチの女性・村田チカと、その大学の学生・キノの恋愛模様を描く作品です。

味、量、値段、すべてを兼ね揃えたうどんはビンボー学生の味方。
大学生のキノも例に洩れず、うどんばかりを頼む学生でした。うどんを担当していたのはきれいな大人の女性・村田チカ。毎日のように食堂で顔を合わせ、名前こそ知らないものの、相手のことが気になりはじめた2人。
ある日、食堂で席が隣になることがあって…

大学生のキノは今どきの草食系男子。女性に興味はあるのもの、奥手でアプローチが苦手。
一方のチカは、年齢が一回り下の学生が自分に対してどう思っているのか気になるも、キノの煮え切らない態度でもどかしい日々。

実は、チカの元旦那が同じ大学で働く教授で、この恋愛の行方は一筋縄では行かなくて…
ピュアでかわいい大学生・キノと大人の女性・チカの甘酸っぱい恋愛ストーリーです！

「うどんの女」©えすとえむ／祥伝社フィールコミックス

日本版あしながおじさん！？昭和初期の甘酸っぱいラブストーリー

勝田文『Daddy Long Legs』。『あしながおじさん』を原作にした『Daddy Long Legs』のほか2作品を収録した恋愛短編集です。

表題作『Daddy Long Legs』では、若き実業家であり大富豪の御曹司である辺見が孤児院で作文の才能があった井手いつきの高校進学を自分の顔、本名を知らせずに援助するという、まさに『あしながおじさん』をオマージュした作品になっています。

辺見は援助する条件として「月に一度の手紙を書くこと」を義務として与え、いつきの成長を見守ることにしました。
しかし、手紙をもらううちに彼女の人柄が気になるようになり、別人になりすまして彼女にしばしば接触するようになります。

純粋で可愛らしかったいつきは、都会での高校生活を通じて成長していき、一層美しくなります。
その姿を見届けてきた辺見は彼女に対して徐々に恋心をいだき、偽りの姿でいつきと会うことに苦しむようになります。

 2人の恋は実るのでしょうか？

昭和初期を舞台に甘酸っぱい恋愛模様を描いた『Daddy Long Legs』。どうぞお楽しみください。

©勝田文／集英社

戦乱の世を舞台に、家臣と姫の絆、恋を描く！

和泉かねよし『二の姫の物語』。表題作『二の姫の物語』は、戦国の世を舞台に、運命に翻弄されながらも一国の姫とその家臣がお互いの強い絆で結ばれる恋愛ストーリーとなっています。

権力を手に入れることを夢見ていた宰相の息子・青推。
父の命令で愚図姫(ぐずひめ)として有名であった二の姫に仕えることになります。

当初は嫌がる青推でしたが二の姫の素質、そして人間的な魅力を見出すようになります。
青推自身も権力よりも大事なことに気づきはじめ、徐々に2人は惹かれ合うように。

しかし、戦国の世は残酷です。
青推は敵国との無謀ともいえる戦いに駆り出さえることに。青推は戦いから無事に帰ってくることができるでしょうか？

運命に翻弄されながらも、長年連れ添ってきた姫と家臣の強い絆を感じてください！

『二の姫の物語』では表題作のほかに2作品の恋愛ストーリーを収録しております。
また、『二の姫の物語』の100年後を描いた作品『女王の花』も好評発売中です！合わせてお楽しみください！

©和泉かねよし／小学館

お盆が終わらない奇妙な世界に迷い込むサマーファンタジー

スケラッコ『盆の国』。主人公・秋がふと頭に浮かんだ妄想の通り永遠にお盆が終わらない世界に迷い込んでしまう奇妙なサマーファンタジーです。

秋は六堂町に住む中学3年生。
六堂町ではお盆に帰ってくるご先祖様のことを「おしょらいさん」と呼びます。秋にはその「おしょらいさん」が見える不思議な能力がありました。

8月15日、秋は「もうずっとお盆のままならええのに」と妄想します。そして本当に、お盆が永遠に続く世界に迷い込むことに。
秋はそこで出会った謎の青年・夏夫とともにこの世界から脱出する冒険にでます。

物語が進むにつれ、夏夫の悲しい過去、そして雷で亡くなってしまった学校の友人・新見くんとの再会を通じて秋はおしょらいさんの住む世界の神秘に触れていきます。

お盆が永遠に続く世界から脱出することができるのでしょうか？
ノスタルジックでちょっぴり切なさのある秋のひと夏の冒険をお楽しみください。

©スケラッコ／リイド社

戦後間もないヒロシマを舞台に、1人の少女の葛藤を描く物語

こうの史代『夕凪の街　桜の国』。戦後間もないヒロシマを舞台に、1人の少女に焦点を当て、原爆の悲劇、戦争とは何だったのかを考えさてくれる物語です。

第1部の『夕凪の街』では、建設会社の事務所で働く主人公・平野皆実を中心に昭和30年のヒロシマを描いています。
平野皆実は学費を肩代わりしてくれた石川の伯母に返金するために懸命に生きる少女。

しかし、彼女は原爆のことに触れない周りの人に疑問を感じていました。

平野皆実のなかにある戦争のトラウマ。

原爆当時、多くの苦しむ人を見殺しにし、平気で死体をまたいだり、踏んだりした自分。
自分は本当に生き延びてもいい人間なのか？
せっかくの求愛も当時のことが思い出されて受け付けられない平野皆実。

こうの史代は、『夕凪の街　桜の国』の後にも『この世界の片隅に』にて、ヒロシマを舞台とした戦争に翻弄される家族を描いています。両作品とも戦争の悲劇に目をそむけることなく描いており、私たち読者は胸を打たれることでしょう。

©こうの史代／双葉社

帰宅途中の女子高生2人組を謎の怪奇が襲う世にも恐ろしいグロテスクホラー

田口翔太郎『不死身のパイセン』。先輩(小さい方)と後輩の鬼龍院(大きい方)が毎日の帰宅途中に世にも恐ろしい怪奇現象に見舞われるホラーマンガです。

 女子高生2人組に次々と降りかかる怪奇。災難に見舞われるのはいつも先輩。
しかし、先輩は次の帰宅日には何事もなかったかのように過ごす不死身ぶり。彼女自身も怪奇です。

各話に描かれる怪奇はまさに恐ろしさを凝縮したようなもの。作中のグロテスクな描写はもはや芸術的です。
物語の中盤からは、さらに恐ろしさが加速して一味違う先輩の恐怖体験を堪能できます。

1巻完結でサクッと世にも恐ろしい体験をしたい方におすすめのホラーマンガです。
どうぞお楽しみください。

©田口翔太郎／小学館

僕にしか見えない彼女との切ない恋物語

須藤佑実『ミッドナイトブルー』。亡くなってしまった同級生と2年に一度の同窓会で再開するノスタルジックラブロマンスです。

舞台は高校の天文部。部員は4人しかいませんでした。高校3年の夏、4人はある約束をします。
それは火星観測の会という名の同窓会で2年に一度みんなで集まること。しかし、提案者のみのるはその2日後に交通事故で亡くなってしまい…

残された3人は約束を守り、2年に一度思い出の場所で集まることに。しかし、そこには亡くなってしまったはずのみのるの姿が。見えていたのは暁人にだけ。

2年毎に会う彼女はずっと女子高生のまま。そして自分たちは年をとっていく。
もう戻れない日々。亡くなってから知るみのるの本当の思い…。

青春時代を振り返り、ノスタルジックで切ない恋模様を描く『ミッドナイトブルー』。表題作『ミッドナイトブルー』ほか6作品を収録しております。

「ミッドナイトブルー」©須藤佑実／祥伝社フィールコミックス

現代の日本と中世の異国を舞台によしながふみが描く家族愛

よしながふみ『こどもの体温／彼は花園で夢を見る』。『大奥』、『きのう何食べた？』なでで知られるよしながふみが1巻読み切りで描いたのは現代の日本と中世の異国を舞台に家族愛です。

『こどもの体温』は現代の日本の父と息子の家族愛を描いた作品です。
息子がまだ小さい頃に母を亡くした父。父は男1人で厳しくも優しく息子を育ててきました。

そんな息子がある日、一大事件を起こしてしまい…

父と息子の2人家族。母がいないことはまったく負い目ではありません。
息子が悪さをしたときはきちんと叱る。しかし、息子が危機のときはしっかりと愛情をもって守る。
父が育てた息子は失敗を繰り返しながらも大人になっていきます。

よしながふみの描く家族の形は私たちに勉強になります。ぜひお手にとってご覧ください。

©よしながふみ／白泉社

4ページの掌編あり（「よかったね」）、web媒体公開後100万PVをまたたく間に記録した話題作あり（「大好きな妻だった」）の、バラエティに富む全7編の短編集です。

細部にこだわった作画と、その作画的なこだわりを敢えて主張することなく楽しめるように練られたストーリー。

ふたつの要素が経糸と緯糸となり、緻密ながら軽やかな織物のように仕上がっています。

個人的には第1番目に収録の「その時がきたら」がイチオシです。
拐かされたある国の若き王女。王女が目隠しされていたため「左手の小指がない」ことしか分からない、犯人グループで世話役だった誰か。
読了後、タイトルを思いまた読み返すと、またいっそう胸に迫る82ページです。

いかがでしたか？

名作1巻完結マンガ、興味を持っていただけたら幸いです！
どの作品も1巻で大満足のボリューム感です。ぜひこの機会にお楽しみください！