最初にご紹介するのは鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』。(全5巻)
「このマンガがすごい！2019 　オンナ編」（宝島社）1位を獲得し、実写映画化も決定している作品です。なにも関わりがなかった75歳の女性と、高校生が、BLマンガを通じて仲を深めていく、年の差友情物語です。

夫を亡くし、ひとり暮らしをしながら自宅で書道教室を開いている市野井雪。彼女が久しぶりに立ち寄った書店で出会ったのは、なんとBLマンガでした。

その書店でアルバイトをしていたのが、高校生の佐山うらら。BLマンガに興味を抱き始めた雪は、うららと連絡を取り、2人でBLマンガを語る仲となっていきます。

作品を前にさまざまに表情を変える雪から目が離せません。また、BLについても雪とうららが2人で語り合うシーンも印象的で、引き込まれます。
普段コミュニケーションを取るのが苦手なうららが、BLマンガを通じて、雪との距離を詰めていく成長ぶりも垣間見えます。

58歳差。交わることのなかった2人が、BLを通してどのように絆を深めて行くのか注目です。
実写映画化も決定している『メタモルフォーゼの縁側』。公開前に読んでみてはいかがでしょうか。

©鶴谷香央理／KADOKAWA

つづいてご紹介するのは、谷口菜津子『ふきよせレジデンス』。

単身者用のアパートを舞台に、その住人たちがひとりで生きることと、表裏一体の自由と寂しさと向き合い、生きている日々を描いた作品です。

物語は連作短編集のように進行し、各回で異なる視点の中心となるキャラクターを通じて、ある一つの大きな物語へとつながっていきます。

登場するのは、恋人に振られ夢も破れてしまったリク、独身で生きていくことへの不安を抱えるミミ、そして両親を亡くし叔父と暮らす女子高生の紺、など。
同じ屋根の下、隣り合わせで生活していても、悩みや幸せを共有することもあまりなかったそれぞれが、近所のコンビニで働く可愛いギャルのきらりとの出会いを通じて、心の傷を癒していきます。

しかし、きらり自身にも突如ピンチが訪れ……。

そんな彼女を中心とした人間模様と、それぞれが抱える「ひとり」の物語が、読者の心に深く響くでしょう。

『銀河の死なない子供たちへ』(全2巻)は、「このマンガがすごい！WEB」（宝島社）2017年11月オトコ編1位を獲得した作品です。

作者は施川ユウキ。
2014年に『オンノジ』などで、第18回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した実力者です。

シンプルな線で魅せる絵柄と、シュールな間合いが流れる作風は『銀河の死なない子供たちへ』で磨きがかかっています。

不死の姉弟・π（パイ）とマッキは、人類が滅亡した星で、不死ゆえにいつまでも続く日々を送っています。

天真爛漫なパイと、知識豊富なマッキはある日、不死ではない少女・ミラに出会います。
パイとマッキは、ミラの成長をそばで見守り、家族のように愛を育んでいきます。

終わりを迎えない人生を歩んでいるパイは、ミラの成長を横目に自分との運命のたどり方の違いに悩み苦しみます。
パイ、マッキ、ミラ、それぞれの歩む運命とは。

壮大なスケールで描かれる『銀河の死なない子供たちへ』。
不死と家族愛を紡ぐ哲学的なストーリーと、かわいらしいタッチの絵のギャップにも注目です。

©施川ユウキ／KADOKAWA

次のご紹介はたかみち『百万畳ラビリンス』。(全2巻)
ゲームオタクの女子大学生2人が、ゲームのバグの世界から脱出を試みます。
脱出ゲームの要素があるミステリーファンタジーです。

ゲームが大好きで、ゲームメーカーでアルバイトをしている玖波島礼香とルームメイトの庸子は、突然謎の迷宮に迷い込みます。
そこは、永久に和室が続く異空間で、突き進んでも、突き進んでも、出口が見えません。

2人は、ある部屋で、天才ゲームデザイナーと言われる「多神大介」からの置き手紙を見つけます。その後2人は多神との接触に成功しますが、彼は異空間について知っている様子を見せながらも、そこからの脱出や部屋について語りません。
礼香と庸子は、多神からヒントを貰いながら、この空間の謎を探求していきます。

この異空間に隠された真実とは一体…
好奇心が強く、常にポジティブな礼香と、冷静沈着な庸子が力を合わせて、この異空間を脱出できるのかに注目です。

©たかみち／少年画報社

次のご紹介は幸村誠『プラネテス』。(全4巻)
『ヴィンランド・サガ』の幸村誠が描く、日常系SF作品です。

スペースデブリと呼ばれる宇宙ゴミが無数に漂っている空間で、ゴミ回収船船外作業員である「ハチマキ」こと星野八郎太は、宇宙ゴミを拾い続ける生活を送っていました。

無重力空間宇宙空間では、事故や病気などとも隣り合わせで、ハチマキは足首を骨折してしまいます。
これを機に、宇宙空間で生活をする意味を自問自答していきます。

ハチマキは、自分自身とどのように向き合い、何を決断したのでしょうか。
そして、宇宙で起こるさまざまな事件、トラブルにどのように立ち向かって行くのかが見どころです。
宇宙の描写がダイナミックに描かれており、登場人物のキャラクターも個性的で、一気に読んで楽しめます。

©幸村誠／講談社

次のご紹介はこうの史代『この世界の片隅に』。(全3巻)
広島県呉市を舞台にした戦争時の日常作品で、映画化され話題になりました。

戦時中の広島で育った主人公すずは、当時日本海軍の一大拠点で、軍港として栄えていた呉へ嫁ぎ、海軍勤務の文官だった北條周作の妻となります。

北條家の優しい両親と、少し厳しい義姉・径子、その娘・晴美と戦時中の苦しい状況、生活をともにしていきます。
食料が配給制となるなかで、さまざまな工夫を凝らしながら食事を作ったり、持ってきた着物で衣服を直したりなど、苦しい中でもすずらしく生活する様子が見られます。

この作品には、空爆から避難するための防空壕や、食料品や衣類などが売られていた闇市など「戦時中の日常風景」が多数登場します。
マンガとして楽しむだけではなく、当時の暮らし、人々の様子、広島で起こったことを学べる作品です。

©こうの史代／コアミックス

次のご紹介はたじまこと『水曜日のトリップランチ』。(全3巻)
次世代VRを開発中のとある会社。古いビルの一室を個人研究室としている「とわさん」こと十和博士と、彼女の「ランチ係」兼社長秘書・岸田くんの、ほのぼのグルメ恋物語です。

研究に没頭し不摂生な生活を送るとわさんのために、社長の命を受けた岸田くんは、毎週水曜日のお昼時に研究室を訪れ、手料理をふるまいます。
具がカラフルな小さいおにぎり、小麦粉とだしから作るたこ焼き、フルーツたっぷりパンケーキ…

お店で出てくるような豪華さはなくても、楽しさがいっぱいつまったスペシャルなランチです。

そんな水曜日のランチは、とわさん開発のスペシャルなVRによって、メニューを引き立てるシチュエーションで彩られます。

たとえば、2人で焼いた熱々のたこ焼き。
ラムネと一緒にいただけば、気分はもう「お祭り」ですよね。

部分的なカラーの魅せ方がとても印象的です。

楽しくごはんを食べることは幸せそのものだなという改めての発見と、明日からも頑張ろうというすっきりとしたパワーを与えてくれる『水曜日のトリップランチ』。
ごはんと人生が楽しくなる、魔法が感じられる作品です。

『水曜日のトリップランチ』©たじまこと／COMICポラリス

次のご紹介は戸賀環『雨の日も神様と相撲を』。(全3巻)
『虚構推理』の城平京の同名小説の、コミカライズです。不思議な神事を持つ村で起きる事件と少年少女の出会いを描くミステリーです。

両親を突然の事故で亡くした逢沢文季は、唯一の肉親を頼り、母方の叔父で刑事の浅沼悟に引き取られ、久々留木村にやってきます。
久々留木村は、古くからカエルの神様に守られてきたとされ、カエルを「カエル様」と呼び、崇め奉っている不思議な村でした。

この村の神様であるカエル様は相撲が好きで、カエル同士で相撲をとっています。
そのようなことから村では祭事で相撲が取られたり、男子たちも日常的に相撲を取ったりしていました。

文季が転入してきた頃、村に外来種のカエルが現れ、どのカエルでも相撲で勝てず、村の秩序に影響を及ばす事態となりました。これを危惧したカエル様は、村を治める遠泉家の長女・真夏を通して、相撲経験が豊富な文季に助けを求めます。

時を同じくして、久々留木村と隣村の県境で、トランクケースに入った女性の死体が見つかり殺人事件とされました。
文季は、相撲を通して村を守ることができるのでしょうか。そして殺人事件の真相とは…
ファンタジーとミステリーが混ざり合う、奥深い作品です。

©城平京・戸賀環/講談社

2021年12月に「ジャンプ＋」で連載が始まるや話題沸騰。
更新のたびにSNSのトレンドに関連ワードが連なった『タコピーの原罪』は、その話題の大きさに反して全16話・単行本上下巻で完結のボリュームです。

みんなにハッピーを届けようと地球にやってきたハッピー星人と、今があまりハッピーとはいえない小学生・しずかちゃん。

2人が出会い、タコピーと名付けられたハッピー星人が現状をハッピーに変えたいと奮闘しますが…？

一気にまとめて読むと作者が仕込んだ描写や伏線、登場人物たちの変化などがよく分かり、連載時とは違う感想を持てるかもしれません。

次のご紹介は篠原健太『彼方のアストラ』。(全5巻)
マンガ大賞2019で大賞に輝いた、『SKET DANCE』篠原健太のSF作品です。
宇宙を舞台に、少年少女たちがサバイバル生活を送りながら絆を深めていきます。

物語の舞台は、宇宙航行が当たり前となった近未来。その世界で、カナタ・ホシジマ、アリエス・スプリングら高校生9名が惑星キャンプに出発することになります。
カナタたちは目的の惑星に到着したところで、突如謎の球体に襲われ、宇宙空間に放り出されてしまいます。

お互いにほぼ初対面の高校生たちが、助け合いながら元の惑星に戻ろうと奮闘します。
投げ出された宇宙空間で偶然見つけた船、そこにあった数日分の食料、そして意図的に切られた通信機…
この事件には何か裏があるのかもしれません。
カナタ・ホシジマは、個性的なメンバーをまとめながら、母星への帰還を目指します。

少年少女9人たちは、無事に帰還できるのでしょうか。
そして、彼らを襲った謎の球体の正体とは？
遭難自体が、なにかの意図をもって仕組まれたことなのか？

SFマンガでもありますが、ミステリー要素もあり、読みごたえがある作品です。

次のご紹介は東村アキコ『かくかくしかじか』。(全5巻)
少女マンガ家を目指し、美大受験に挑む女子高生と、絵画教室のスパルタ教師との二人三脚を描く、『東京タラレバ娘』などヒット作を連発する東村アキコの自伝的作品です。

『かくかくしかじか』の舞台は宮崎県。主人公の林明子は少女マンガが大好きで、美術部に所属している高校3年生。進路を決める時期も迫っていましたが、勉強が苦手な明子は、美大受験をすることを決めます。

そんな中、クラスメイトの二見からの紹介で、絵画教室に通うことになります。その絵画教室の先生が日高健三で、この絵画教室の先生が後に、東村アキコの恩師となる先生となります。

日高先生はジャージ姿で竹刀を持ついわゆる「スパルタ教師」でした。絵に対して、竹刀を振り下ろしながらダメ出しをし、時には怒号が飛び交うことも。
そのような指導に明子はうんざりし、投げ出そうとしますが、なんとか日高先生の指導の元、成長をしていきます。

明子は金沢の美大に進学し、夢だった少女マンガ家になるために奮闘していきます。
故郷に帰った際には、日高先生のところへ顔を出しに行くなど、親交を深めていきます。
絵の先生としてはもちろん、明子の人生の恩師として日高先生の存在がとても大きく、2人の関係性に注目です。

次のご紹介は冨樫義博『レベルE』。(全2巻)
『HUNTER×HUNTER』冨樫義博の諧謔が存分に発揮された、山形が舞台のSF作品です。
数話ごとのオムニバス形式となっています。

野球男児・筒井雪隆は、高校入学と同時に一人暮らしをすることになりました。これから始まる新しい生活に期待をしながら、自身の部屋に着くと、そこには見ず知らずの男が。
謎の男は、何かと理由をつけて雪隆の部屋に居座ってしまいます。

宇宙からやってきた男は、どのような理由があって地球にいようとしているのでしょうか。そしてこの男の正体とは一体…

『レベルE』は、オムニバス形式となっているため、さまざまな人々が宇宙人によって翻弄されている様子が楽しめます。
1作品内で、いろいろな味の物語が楽しめるのも、おもしろいところです。

次にご紹介するのは中村尚儁『伝説の勇者の婚活』。(全4巻)
伝説の勇者が婚活に奮闘する、RPG・ファンタジー作品です。

主人公のユーリ・シャンバラヤは、魔王を倒し、世界に平和をもたらした勇者です。ユーリは平和になった世界で、周囲から感謝されながら暮らしていました。
その中で、ユーリは一緒に旅をしていた戦士タッセンと僧侶ソーニャから、結婚の報告を受けます。ユーリは、自身も愛すべき人に出会いたいと思うようになります。

自分を勇者としてしか見ていないよう、女性に魅力を感じられなかったユーリは、勇者であるという身分を隠しながら婚活を始めます。

婚活パーティーに参加するも、勇者として生きてきたユーリにはデートの方法も、来ていく服もわからず、話も噛み合わず、さんざんな結果となってしまいます。

そして、ユーリは自身のことを心から愛してくれる人と出会うため、婚活の旅へ出ます。
自分のことを勇者として見ず、自分自身を愛してくれる人を見つけ、無事結婚することができるのでしょうか。
RPGで一冒険終えた勇者が歩む、一風変わった冒険物語です。

5巻以内完結マンガ特集いかがでしたか。
読み始めたら止まらず、あっという間に読み終えてしまう作品ばかりです。ぜひこの機会にお楽しみください！