2023-07-19
第169回芥川賞受賞作『ハンチバック』
第169回芥川賞受賞作『ハンチバック』
「私の身体は生きるために壊れてきた」。
ミオチュブラー・ミオパチーという難病とともに生きる井沢釈華。
釈華の背骨は右肺を押し潰すかたちで極度に湾曲し、歩道に靴底を引き摺って歩くことをしなくなって、もうすぐ30年になる。
両親が終の住処として遺したグループホームの、十畳ほどの部屋から釈華は、某有名私大の通信課程に通い、しがないコタツ記事を書いては収入の全額を寄付し、18禁TL小説をサイトに投稿、零細Twitterアカウントで「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」とつぶやく。
ところがある日、グループホームのヘルパー・田中に、Twitterのアカウントを知られていることが発覚し——。
著者の市川沙央さんも筋疾患先天性ミオパチーによる症候性側彎症で、人工呼吸器を使用し、電動車椅子に乗る当事者。市川さんの紡ぐことばは、肉体の不自由さを抱えた人の切実さをたたえていて、健常者の想像を打ちのめします。
それだけではありません。ヘルパーの田中が釈華に接近してからの展開は、見えている世界がひっくり返るくらいの面白さ。
衝撃の話題作をぜひお楽しみください。
執筆者:文藝春秋 デジタル・マーケティング部