2023-07-19
第169回芥川賞が本日決定! 候補作『それは誠』(乗代雄介)も好評配信中
第169回芥川賞候補作『それは誠』
いま最も期待を集める作家、乗代雄介さんによる『それは誠』が6月29日に紙書籍・電子書籍で同時刊行されました! 『最高の任務』『旅する練習』『皆のあらばしり』に続き、本作『それは誠』も、本日(2023年7月19日)に発表される芥川賞の候補作にノミネートされています。
修学旅行の班分けの日を欠席した佐田誠は、翌日の登校で自分の班のメンバーを知る。その班は、スクールカースト上位のサッカー部員や、誠がひそかに意識している女子を含む7人の妙なメンバーで構成されていた。ホームルームにおいて、かつての先輩が勝ち取った1日の「自由行動」についての話し合いがなされるなか、誠は行きたいところがあるとおもむろに提言する。かくして、修学旅行を利用した「ある人物」への訪問の旅路が開かれた。学校にも先生にも秘密で決行される、高校生たちの小さな冒険。
クラスの中で決して目立つ存在ではない主人公の誠は、班のメンバーとも当初は少し距離があります。しかし、班での話し合いや、修学旅行中に知ったメンバーの背景や会話を通して、徐々に新しい関係性が築かれてゆきます。言葉や仕草は何気ないものながら、その空気感や心の動きが秀逸に描き出されます。
学校から持たされるGPSや、平日の昼間の制服での移動など、不安要素の多いなかで進む「訪問」の道程には、ドキドキさせられ、急いで先を読み進めたくなるのですが、一方で「このキラキラした瞬間が終わってほしくない」と願わずにはいられない眩しさもあります。
高校生活における一大イベントの修学旅行、さらにそのなかの濃密な「1日」を描いた、熱い気持ちがこみ上げる小説です。
生活の中で何かしらのしんどいことがあっても、人生にはこういったかけがえのない1日というものが存在する、そんな希望を忽然と思い出させてくれるような小説です。
未読の方はぜひ、この機会にお読みください。
執筆者:文藝春秋 デジタル・マーケティング部