2023-07-06
構想10年、すべてがメガトン級。小田雅久仁『禍(わざわい)』7月12日(水)配信開始
孤高の物語作家が放つ、中毒不可避の悪魔的絶品集。
2009年、『増大派に告ぐ』で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー。13年に受賞後第一作の『本にだって雄と雌があります』が第3回Twitter文学賞国内編第1位に輝き、スマッシュヒット。そして2021年、9年ぶりの単行本となる『残月記』では、2022年本屋大賞7位入賞を果たしたほか、第43回吉川英治文学新人賞と第43回日本SF大賞を受賞し、史上初の「W受賞」を達成しました。
そんな、一作ごとに大きな飛躍を遂げ、いま最も次回作を待望される小説家、小田雅久仁さんの最新作『禍(わざわい)』を2023年7月12日に新潮社より刊行いたします。
■人間の〈からだ〉以上に不気味なものはない
口、耳、目、肉、鼻、髪、肌……。ヒトの〈からだ〉をモチーフに、様々な技巧でありとあらゆる「恐怖」と「驚愕」が紡がれる本作は、豊穣な想像力と巧みな文章力で読み手を圧倒します。作家デビュー後、はじめて執筆し、『小説新潮』2011年9月号に掲載された短編が「耳」を題材にした怪奇小説であったことから本作品集の構想はスタートしました。そして、幾多の執筆と改稿を重ねること約10年、「これこそは自信を持って世に送り出せる」と著者自ら太鼓判押す7篇を精選し、このたびの刊行と相成りました。
なぜ長年にわたり〈からだ〉というモチーフにこだわり続けたのか。小田さんは次のように語ります。
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人間の〈からだ〉以上に不気味なものなど、この世に存在しません。「怪奇」という概念は、人間が他人の死体を目にし、死への恐怖を知った瞬間に生まれたのではないでしょうか。〈からだ〉は生きて動くものでありながら、つねに〈死〉を孕んだものとして存在していると僕には思えます。誰でも、街行く人びとの顔の奥にひそむ無数の髑髏を想像したことがあるでしょう。人類の発祥以来、一千億の人間が生まれたという説を読んだ憶えがありますが、その数字の正確性はともかくとして、いま現在、生きている人間よりも、死んだ人間のほうが遥かに多いことは間違いありません。そう考えると、〈生〉は奇跡であり、〈死〉こそが常態であるという気づきが生まれます。〈からだ〉は〈生〉の象徴である以上に〈死〉の象徴でもあるわけです。そう考えれば、〈からだ〉ほど怪奇小説にふさわしいモチーフはないように思えます。そしてこのたび十年以上をかけてようやく一冊分を書きためることができました。
ただ、今後も同じだけの熱量で書いてゆけるか、正直自信がありません。本書が僕の怪奇小説集の最高到達点を示すものなのか、あるいは最初の怪奇小説集に過ぎないものなのか、もちろん後者であることを望むわけですが、いまのところは、『禍』は紛れもなく怪奇小説における僕の全力です。
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■日常の「違和感」から恐怖を育ててゆく
各話に共通して驚かされるのが、なによりもその「想像力」の豊かさです。生々しくも鬱々とした都市生活者の日常から一転。突如、〈からだ〉に巻き起こる変異を通じて、超常的かつ怒濤の展開へと跳躍していく様は、ある種の爽快感すら抱かせ、緻密な心理描写が独特のグルーヴ感を生み出すことで、唯一無二の世界を構築します。果たして、そのイマジネーションの源泉はどこにあるのか。
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たとえば「髪」をモチーフにした作品の場合。子供の頃に風呂場で母親に髪を切ってもらっていたのですが、つねづね切り落とされた髪は気持ちが悪いと感じていた、という経験が発想の原点にあります。他にも、もしも「鼻」を削がれてしまったら、という恐怖。目という感覚器に対する違和感……。日ごろ抱えている〈からだ〉にまつわる生理的な嫌悪感や違和感を種に、物語を育ててゆきました。
また、視覚的な表現力においては、小説は映像作品に大きく劣りますが、言葉によって心の動きを追うときには、力を発揮します。小説だからこそ表現できることは何か、という問題については、僕もつねづね思い悩んでおりますが、小説という手法で「怪奇」を描くことに意義を求めるならば、まずは登場人物の「驚愕」を丁寧に言葉にしてゆくということになろうかと思い、本作品集を執筆するうえで、こだわり続けた点でもありました。
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■各氏激賞!早くも翻訳版の刊行が決定!
すでに国外からも注目されており、『禍』も日本での発売前にもかかわらず、韓国と台湾で翻訳版が刊行されることが決定しました。
また、いち早く本書を読んだ漫画家の伊藤潤二さん、ゲームクリエイターの小島秀夫さん、作家の恩田陸さんからも以下の推薦コメントが寄せられています。
・「禍」の悪夢の侵襲によって私は永遠の万華鏡の中に迷い込んだ。――伊藤潤二(漫画家)
・文藝を侵食する異次元文学! 読者の身体に澱のように溜まる、艶かしい肉体感覚! クローネンバーグ×伊藤潤二×安部公房?! この著者、まさしく文藝界の“禍”になる。――小島秀夫(ゲームクリエイター)
・この想像力、極限。――恩田陸(作家)
■『禍』書籍内容
「俺はここにいると言ってるんだ。いないことになんかできねえよ――」。恋人の恭子が失踪した。彼女が住むアパートを訪れた私は、〈隣人〉を名乗る男と遭遇する。そこで語られる、奇妙な話の数々。果たして、男が目撃した秘技〈耳もぐり〉とは、何なのか (「耳もぐり」)。とある便所。女は、本を貪り食っていた。女が残した言葉に導かれるように、家の蔵書に手を伸ばした男が視る光景とは――(「食書」)。ほか、読み手の五感を侵蝕する神がかりな全7篇を収録。
執筆:新潮社 編集チーム