2023-08-28
クーリエ・ジャポンpresents あの著名人の「推薦図書」フェア

講談社のウェブメディア「クーリエ・ジャポン」の人気コーナー「今月の本棚」では、日本を代表する著名な知識人の推薦図書をコメント付きで紹介しています。本フェアではその推薦図書の一部をご紹介します。 ※こちらの推薦文は、クーリエ・ジャポン読者のために寄稿いただいたものを転載したものです。
目次
クーリエ・ジャポンpresents あの著名人の「推薦図書」フェア
日本を代表する著名な知識人の推薦図書
池上彰さん推薦図書
蒙古襲来は「神風が吹いた」からなのか。本能寺の変で織田信長が殺害されたとき、備中高松城にいた羽柴秀吉は、どうやって短時間で京都に戻ることができたのか。日本史の出来事を科学 的に検証してみせるという奇想天外な企画。科学読み物ですが、推理小説を読むようです。
【池上彰さんプロフィール】
1950年、長野県生まれ。ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。報道記者としてさまざまな事件、災害、消費者問題、教育問題などを担当する。1989年、ニュース番組のキャスターに起 用され、1994年からは11年間にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍。2005年よりフリーランスのジャーナリストとして、執筆活動を続けながらテレビ番組などでニュースをわかりやすく解説し、幅広い人気 を得ている。著書多数。
酒井啓子さん推薦図書
こちらも、「イスラーム世界、なんてつい言っちゃうけど、そんなものは本当にあるの?」という自問から始まります。グローバル・ヒストリー研究の第一人者が、日本独特のイスラーム世界観の問題点を歴史を紐解いて論じますが、こうした空間措定が9.11の「自由で民主的な我々」対「テロリスト」という、二項対立的な考えにつながる危険性を指摘します。
【酒井啓子さんプロフィール】
国際政治学者。千葉大学グローバル関係融合研究センター長。東京大学教養学部教養学科(国際関係論)を卒業後、アジア経済研究所に勤務。24年間の同研究所在任中に、英国ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)で修士号、その後、京都大学で博士号(地域研究)を取得。1986~89年、在イラク日本大使館に専門調査員として出向。東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授を経て、現職。専攻はイラク政治史、現代中東政治。著書多数。
岸見一郎さん推薦図書
「わたし」とは「誰」かという問いへの答えは、自分の内部ではなく、他者との関係に見ていかなければなりません。「わたし」は「他者の他者」として、他者の中に意味のある場所を持ちたいと願うのですが、本書を初めて読んだ頃、いつも他者の期待に合わせようとしている若い人たちに、他者の期待に反する勇気を持とうという話をしていたことを思い出しました。
【岸見一郎さんプロフィール】
哲学者。1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門のギリシア哲学と並行し、アドラー心理学を研究。2013年に出版した共著『嫌われる勇気』は250万部を超え、アドラー心理 学を世間に浸透させた。著書に『子どもをのばすアドラーの言葉 』『幸福の哲学 アドラー×古代ギリシアの智恵』『人生を変える勇気』ほか多数。共著に『幸せになる勇気』。
松岡正剛さん推薦図書
量子力学は世界の見方を一変させた。そこには「極小のかたまり」や「確率的把握」や「不確定性」という見方がある。量子コンピュータ時代を前に、この世界の見方を味わっておいてほしい。
【松岡正剛さんプロフィール】
編集工学研究所所長、イシス編集学校校長。日本文化、芸術、生命哲学、システム工学など多方面におよぶ思索を情報文化技術に応用する「編集工学」を確立。また日本文化研究の第一人者として「日本という方法」を提唱し独自の日本論を展開している。『知の編集工学』、『日本文化の核心』、シリーズ『千夜千冊エディション』など著書多数。
山口周さん推薦図書
スピノザの思想はとても朗らかで明るい。その「朗らかさ、明るさ」こそ、現在のように先の読めない閉塞感のある時代において最も求められているものでしょう。さすがスピノザ研究者の 第一人者による解説と云うべきか、スピノザの言説が内包する「明るさ」を本書ほどわかりやすく解き明かしてくれた本はこれまでなかったと思います。一読した読者は雲間から指す光明を見たような気持ちになるでしょう。
【山口周さんプロフィール】
独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。慶應義塾大学文学部、同大学院文学研究科修了。電通、BCG等で戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。『ビジネスの未来』、『世界のエリートはなぜ「美 意識」を鍛えるのか?』、『自由になるための技術 リベラルアーツ』など著書多数。
三牧聖子さん推薦図書
自分を否定して人生を送るのはつらいが、自分を丸ごと愛するのも難しい。「分人主義」は、このジレンマにこう答える。唯一無二の「本当の自分」などいない。家庭や職場、友人、SNS空間、対人関係ごとに見せる複数の顔すべてが「本当の自分」であり、1つでも愛せる「分人」がいれば生きていける、と。ヴァーチャル空間やアバターの発展を受け、今日も進化し続ける「分人主義」の不変のエッセンスを収めたベストセラー。
【三牧聖子さんプロフィール】
高崎経済大学経済学部准教授。アメリカ外交・平和運動研究。1981年生まれ、2012年東京大学大学院総合文化研究科より博士号取得。著書に『戦争違法化運動の時代―「危機の20年」のアメリカ国際関係思想―』など。
斎藤幸平さん推薦図書
コロナ禍で救世主として注目される現代貨幣理論(MMT)。だが大胆な財政出動で、本当に財政破綻しないのか?インフレが起きたらどうするのか?異端とされる反緊縮理論の仕組みをわかりやすく説明し、新しい社会の可能性を問う。フルオートメーション化とベーシックインカムで資本主義を突破する日本版加速主義者による決定版。
【斎藤幸平さんプロフィール】
1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。専門は経済思想、社会思想。『大洪水の前に』によって、権威ある「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞。2021年の新書大賞を受賞した『人新世の「資本論」』は45万部を超えるベストセラーに。
松尾豊さん推薦図書
社会学の流れが、古代ギリシャから現代まで、物語風に読める。ひとつひとつのコンセプトが平易に説明されており、理解しやすい。社会学といっても、哲学や心理学、また、人工知能に関わる概念も含まれており、本書ではそれらを俯瞰して捉えた大きな思想の流れ、時代の流れを感じることができる。
【松尾豊さんプロフィール】
1997年、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年、同大学院博士課程修了。博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員を経て、07年に東大大学院工学系研究科准教授。19年、教授に就任した。専門分野は人工知能、深層学習、ウェブマイニング。17年から日本ディープラーニング協会理事長。19年、ソフトバンクグループ社外取締役。20年、人工知能学会、情報処理学会理事。
中野信子さん推薦図書
大栗先生には一度お会いしたことがあり、丁寧で謙虚だけど鋭いところを目の当たりにして「こういう人を天才というのか」と感じて以来、ずっと“推し”です。物理の難解な内容を広く伝えていこうという態度からは、科学者はこうあるべきという姿を学ばせていただいています。この本を読んで、大栗先生のすごさをぜひ多くの人に知ってほしい!
【中野信子さんプロフィール】
1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに、人間社会に生じる事象を科学の視点をとおして明快に解説し、広く支持を得ている。著書多数。
成田悠輔さん推薦図書
「何かを「変える」ことが革命なのではない。むしろ、革命がすでに起きていることを、思考の転換によって見つけ出すことができる。それは「変える」というよりも「拡げる」方法論である。生き方は無数にあるということを気付く技術」だという気づきからはじまる「独立国家のつくりかた」には、天下国家の政治の話も経済の話も外交の話も出てこない。トップダウンの国家変革より、隣のおっさんの生態観察からボトムアップの国家工作を目指す唯一無二の書。
【成田悠輔さんプロフィール】
専門はデータとアルゴリズムを使ったビジネスと公共政策の改造。サイバーエージェントやZOZOなどと共同研究・事業に携わる。米イェール大学助教授、半熟仮想株式会社代表。
中島岳志さん推薦図書
現代を代表する日本の哲学者である鷲田は、早い時期から「弱さ」に注目してきた。いまの私たちは強いリーダー、周囲を牽引していくリーダー論を掲げがちだが、リーダーが弱さを認め、助けてほしいと言えることで、周囲にも関わる余地が生まれる。
私たちはガチガチに鎧を固めて、強く見せようとするけれど、鷲田は周りのポテンシャルを引き出す力である「弱さ」こそがいろんなことを生み出していくと説いている。いまの時代に必要とされているメッセージだと思う。
【中島岳志さんプロフィール】
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院/環境社会理工学院・社会人間科学コース教授。現代日本政治や日本思想史、インド政治などを研究。
小林武彦さん推薦図書
新型コロナウイルスのワクチンもそうですが、日本はなかなか自前で薬やワクチンが作れない国です。外国製の薬は日本人にはしっくりこないこともあるのかもしれません。この本を読むと、その理由がよくわかります。
ではどうすればいいのか。その解決方法も日本人の生まれ持った体質的特徴を踏まえて、薬にあまり頼らずに生活習慣、環境の改善など、私たちの身近な事柄から提案されています。各章の最後にわかりやすい「まとめ」があるのも嬉しい。
【小林武彦さんプロフィール】
東京大学定量生命科学研究所教授(生命動態研究センター ゲノム再生研究分野)。九州大学大学院を修了後(理学博士)、基礎生物学研究所、米国ロシュ分子生物学研究所、米国国立衛生研究所、国立遺伝学研究所を経て、現職。前日本遺伝学会会長。現在、生物科学学会連合の代表も務める。著書に『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)、『DNAの98%は謎』(講談社ブルーバックス)など。
宇野重規さん推薦図書
小熊英二の本といえば、『単一民族神話の起源』にせよ、『<民主>と<愛国>』にせよ、ともかく分厚い。徹底して文献や史料を読み込み、独自の文体で語る。気づいてみると、いつの間にか大部の本を読み終えていたという経験のある読者も少なくないはずだ。
近年の本はそこまで厚くないが(とはいえ、本書も新書としてかなりボリュームがある)、テーマを広く渉猟し、魅力的なストーリーにまとめる力技は変わらない。この本はポスト産業化社会における社会運動という視点から、「社会を変える」ことの可能性を説く。コロナ後の社会においてこそ意味を持つ本だ。
【宇野重規さんプロフィール】
1967年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。現在、東京大学社会科学研究所教授。専攻は政治思想史、政治哲学。主な著書に『政治哲学へ 現代フランスとの対話』(2004年渋沢・クローデル賞LVJ特別賞受賞)、『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社学術文庫、2007年サントリー学芸賞受賞)、『民主主義とは何か』(講談社現代新書)など。
慎泰俊さん推薦図書
日本の文房具の品質は世界最高だ。世界中の大都市の大きな文房具店に入っても、日本ほど品質と量がそろった文房具店は見かけられない。その日本の文房具文化の担い手は間違いなく伊東屋であり、その伊東屋のスタッフらが万年筆について書いたものが本書。本書では、伊東屋の店員たちの万年筆への愛がほとばしっている。私は今も万年筆を使うが、自分にとって一生使い続ける一本を探していたときにまず読んだのは本書だった。
【慎泰俊さんプロフィール】
五常・アンド・カンパニー代表執行役。1981年生まれ。朝鮮大学校法律学科卒業、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタルおよびユニゾン・キャピタルを経て起業、途上国の貧困層にマイクロファイナンスを提供している。本業のかたわら、2007年にNPO法人Living in Peaceを設立し、国内外の貧困削減のために活動してきた。著書に『働きながら、社会を変える』『ソーシャルファイナンス革命』『外資系金融のExcel作成術』『ランニング思考』など。
平野啓一郎さん推薦図書
2015年の安保法制反対デモの際には、「民主主義って何だ!?」という叫びが度々発せられたが、本書はタイトル通り、古代ギリシアを起源とするこの制度を、歴史的に辿り、その紆余曲折を簡要な言葉で解説している。共和政と民主政との違い、自由主義と民主主義との緊張関係、議会と身分制度、代表制と普通選挙、……など、今日の民主主義を巡る議論の根底に横たわる混乱が、一つずつ丁寧に解きほぐされてゆく。危機に瀕する民主主義の可能性を探る上で、二度、三度と読み返され、踏まえられるべき書。
【平野啓一郎さんプロフィール】
1975年生まれ。京都大学在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。40万部のベストセラーとなる。以後、一作毎に変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2004年には文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在。美術、音楽にも造詣が深く、各ジャンルのアーティストとのコラボレーションも積極的に行っている。『マチネの終わりに』『私とは何か「個人」から「分人」へ』など著書多数。
海猫沢めろんさん推薦図書
古今東西の書物を引用しつつ「内面の影」について考察する。影とは自分の暗黒面であり、希望であり可能性でもある──ここで展開されるユング心理学をベースにした考えは魅力的であるが、近年では、深層心理概念自体を否定する説もある(ニック・チェイターの『心はこうして創られる』など)。
しかし、だからといって心理学や精神分析が無意味であるとは言えない。無意識や深層心理が存在しないとしても「自分が心をどうデザインしたいのか」という問題は残り続ける。いま本書を読むことは、学問以前の倫理の問題として、より本質的なものを考えるきっかけになる。
【海猫沢めろんさんプロフィール】
文筆家。1975年、大阪府生まれ。兵庫県姫路市育ち。2004年『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。『キッズファイヤー・ドットコム』で第59回熊日文学賞受賞。著書に『零式』『全滅脳フューチャー!!!』『愛についての感じ』『ニコニコ時給800円』『夏の方舟』などがある。
石倉洋子さん推薦図書
副題の「日本社会はなぜ息苦しいのか」を、この数ヵ月の間に海外に行って強く感じた。そして本書を読んだことが、息苦しい日本に今後ずっといるのは心身の健康にもよくないのではないかと考え、今後はある程度の期間を海外で過ごそうと決めたきっかけとなった。
以前から「皆が同調する」「出る釘は打たれる」日本の傾向は認識していたが、「コロナ」でさらに明らかになったこの特性がさらに強くなりそうなこと、ここにいる限りこの閉塞感からは逃れられない、個人がユニークさを発揮する環境にはならないという確信につながったという意味で本書をあげた。「同調」の背景には「個人で判断しない」という、より大きな問題があると思う。
【石倉洋子さんプロフィール】
一橋大学名誉教授。1949年生まれ。専門は経営戦略、競争力、グローバル人材。バージニア大学大学院経営学修士(MBA)、ハーバード大学大学院経営学博士(DBA)修了。青山学院大学国際政治経済学部教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授などを歴任。資生堂、日清食品ホールディングスの社外取締役を務める。初代デジタル監。
篠田真貴子さん推薦図書
本書を読み、日々の暮らしに直結する「物価」なのに知らないことだらけだったと痛感した。経済学の基礎理論。レシートデータ分析を用いた物価のリアルな姿。さらに著者独自の仮説からバブル期に物価が上昇しなかった構造に迫ろうとする思考。ともすれば硬くて抽象的になりそうなテーマなのだが、著者は平易な文体、丁寧な論理の運び、身近な事例を用いて、「私」を主語に楽しそうに生き生きと語りかけてくる。楽しい講義を聞くようだ。
【篠田真貴子さんプロフィール】
エール株式会社取締役。社外人材によるオンライン1on1を通じて、組織改革を進める企業を支援している。2020年3月のエール参画以前は、マッキンゼー、ノバルティス等を経て、2008年〜2018年ほぼ日取締役CFO。米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。『LISTEN──知性豊かで創造力がある人になれる』監訳。
宮沢和史さん推薦図書
第二次世界大戦における“特攻”という考え方がまったく理解できず敵は震え上がったというが、これも日本人の死生観からくる特殊なものかもしれない。だが、この美意識は国民一人一人が一様に望んだものでもなければ、洗脳という形で植え付けられたものでもなくて、あくまでも二重の価値観、ダブルスタンダードを持ちながらも「お国のため天皇陛下のため」という大義から逃れることの困難な状況下に日本はあった、という言い方ができる。
9回特攻に出て9回生還したという佐々木友次さんの強い意思を知り、沖縄戦時に慶良間諸島で敵が来る前に集団自決せよとの軍事教育に多くの島民が盲目的に従おうとするなか、それは違うと声を上げた人たちの意思を思い起こした。
相変わらず、ただ現状を維持することしか選択できず、変化する勇気を持てない我が日本社会は激動の今世紀において、すっかり周回遅れの様相にある。
【宮沢和史さんプロフィール】
1966年生まれ。バンドTHE BOOMのボーカルとして89年にデビュー。2006年にバンドGANGA ZUMBAを結成。14年にTHE BOOMを解散後、休止期間を経て18年より活動再開。19年6月にデビュー30周年を迎えた。沖縄県立芸術大学非常勤講師。『足跡のない道』『BRASIL-SICK』『沖縄のことを聞かせてください 』(双葉社)など著作多数。
斎藤哲也さん推薦図書
法哲学に入門する「最初の1冊」として超オススメだ。「勉強したくない。働きたくない。結婚したくない。子育てしたくない。だけど楽しく暮らしたい」と思っていたはずなのに、なぜか法哲学者になってしまった著者。そのヤンチャな語り口が大きな魅力で、難解に思える法哲学の理論や論点もぐっと身近に感じられてくる。
具体例も興味を惹かれるものばかりだ。各章の扉には、「『指示待ち人間」はなぜ犯罪を犯してしまうのか?」「『スーパー義足』は能力の補填か、増強か?」など、章の内容をガイドするような問いが付されている。これもじつに上手い!
【斎藤哲也さんプロフィール】
1971年生まれ。東京大学文学部哲学科卒業。ライター&編集者。著書に『試験に出る哲学』(NHK出版新書)、『読解 評論文キーワード』(筑摩書房)、編集・監修に『哲学用語図鑑』(田中正人・プレジデント社)など。文化系トークラジオLife(TBSラジオ) にサブパーソナリティとして出演。
沼野恭子さん推薦図書
遊廓の見取り図、四季折々の行事、遊女たちの日常、しきたり、人となり等、吉原遊廓についての情報が満載の本である。遊女がたんに「身体」を提供していただけでなく、和歌をよみ、見事な手紙を書き、三味線や琴を弾き、唄や踊りを身につけ「芸術精神」を体現していたこと、遊廓が「日本文化の集積地」だったことが明らかにされている。もちろん著者は、遊廓文化をたんに称揚するのではなく、現代から見た問題点や歴史的背景を踏まえて「あってはならない場所」であるとも明言している。樋口一葉の『たけくらべ』について「吉原の明と暗の両方を、実に的確に描いた作品」であると述べられているが、これはそのまま本書にもあてはまる。
【沼野恭子さんプロフィール】
東京外国語大学名誉教授。 東京外国語大学卒業、東京大学大学院博士課程単位取得満期退学。 NHKラジオやテレビのロシア語講座や「100分de名著 アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』」の講師を務めた。著書に、『ロシア万華鏡──社会・文学・芸術』(五柳書院)『ロシア文学の食卓』(ちくま文庫)など。訳書に、『ヌマヌマ──はまったら抜けだせない現代ロシア小説傑作選』(沼野充義と共編訳、河出書房新社)、リュドミラ・ウリツカヤ『ソーネチカ』(新潮社)など。
音部大輔さん推薦図書
恒常性を保つために、頭蓋骨の中で脳を満たす脳脊髄液が流れ続ける様子を「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」という方丈記の一節を交えて説明する、ウィットにとんだ記述がやさしい入門書。その流れが、睡眠中に脳の老廃物を掃除しているかもしれないとの説に、ぼんやりした寝不足が、いかにも老廃物が溜まっていることに起因するように感じられて印象深い。ちゃんと眠る必要を、仕組みとして実感させられる。にわかにAIの議論が盛んになっているが、人工知能はあっても、人工知性はないという。知能は答えのある問いに対して正確に答えを求めるものであり、知性は答えのない問いに答えを探すものだ、という指摘に得心する。
【音部大輔さんプロフィール】
株式会社クー・マーケティング・カンパニー代表取締役。17年間の日米P&Gを経て、ダノンやユニリーバ、資生堂などでマーケティング担当副社長やCMOなどを歴任し、ブランド回復やマーケティング組織構築を主導。2018年より現職。家電、化粧品、輸送機器、食品、日用品、広告会社など国内外のさまざまな企業にマーケティング組織強化やブランド戦略立案の支援を提供。博士(経営学 神戸大学)。 日本マーケティング本大賞2022の大賞に選ばれた『The Art of Marketingマーケティングの技法』など著書多数。







