2025-02-13

伊吹亜門氏デビュー10周年を飾る勝負作!『路地裏の二・二六』

伊吹亜門氏デビュー10周年を飾る勝負作!『路地裏の二・二六』

青年将校たちの決起の裏で起きていた「もう一つの事件」とは!?

楽天Kobo

昭和史を揺るがす重大事件の謎をめぐる圧巻の歴史ミステリ

昭和10年(1935)8月12日、陸軍省にて相沢三郎歩兵中佐が軍務局長・永田鉄山少将を惨殺する事件が起きる。そのとき、部屋にはもう一人の人物がいたーー。
憲兵大尉・浪越破六【なみこし・ばろく】は、この事件には、語られていない「真実」があると確信する。
そんな折、浪越は渡辺錠太郎陸軍大将から、密命を受ける。
そして運命の日に向けてのカウントダウンが始まった。

気鋭のミステリ作家が、2.26事件と同時進行していた「ある事件」を大胆に描き出した本格長編。

間もなく車扉が開き、一人の軍人がトランクを携えて姿を現わした。
背が高く、頑強な身体つきの男だった。頰骨の張ったその面貌から察するに、歳の程は四十半ば頃か。カーキ色の将校服では、陸軍中佐の証として三つ筋に星二つの肩章が輝いている。歩兵科を示す緋色の襟章には、アラビア数字で「41」とあった。
腰から下げた軍刀は余程重量があるのか、男が動く度に重々しく揺れていた。どうやら指揮刀のような装飾品ではなく真剣のようだった。息をするだけで汗が滴るようなこの炎暑にも拘わらず、男は左手に将校用のマントを提げていた。
マントを左腕に掛け直し、男は軍帽の縁を上げた。堅牢な煉瓦造りの門越しに、陸軍省の偉容を望む。男は円タクが走り去った後も、暫くの間、地面に突き刺さった棒のようにその場で佇んでいた。止めどなく湧き出る汗が、男の軍衣を忽ち黒く濡らした。
どれほどそうしていただろう。男は深く軍帽を被り直し、俯きがちに門を潜った――昭和十年八月十二日午前九時三十分。歩兵第四十一連隊附の相沢三郎歩兵中佐は、こうして陸軍省に足を踏み入れた。

■著者

伊吹 亜門(いぶき あもん)
1991年、愛知県生まれ。同志社大学卒。在学中は同志社ミステリ研究会に所属。2015年、『監獄舎の殺人』で第12回ミステリーズ!新人賞を受賞。18年に同作を含めた『刀と傘 明治京洛推理帖』でデビュー。19年、同書で第19回本格ミステリ大賞(小説部門)を受賞するとともに、「ミステリが読みたい! 2020年版」国内篇で第1位を獲得。21年、『幻月と探偵』で第24回大藪春彦賞の候補、24年に『焔と雪 京都探偵物語』で第77回日本推理作家協会賞の候補になる。その他の作品に、『雨と短銃』『京都陰陽寮謎解き滅妖帖』『帝国妖人伝』がある。

執筆:株式会社PHP研究所

このカテゴリーのピックアップ記事

このページの先頭へ