- 太田光(おおた・ひかり)さん
- 1965年埼玉県生まれ。日大芸術学部演劇科中退。88年に田中裕二と漫才コンビ「爆笑問題」結成。97年、『爆笑問題の日本原論』(宝島社)は、50万部を超えるベストセラーに。現在、「サンデー・ジャポン」「爆笑問題のニッポンの教養」などの人気番組のMCを務める。2010年、『マボロシの鳥』で小説家デビュー。そのほかの著書に『トリックスターから、空へ』『禁煙バトルロワイヤル』『パラレルな世紀への跳躍』『爆笑問題太田光自伝』ほか。
インタビュー
■「俺の文章はなくていい」
- −−藤城さんが『絵本マボロシの鳥』のために作った影絵をご覧になっていかがでしたか?
- 太田さん なかなか言葉にするのは難しい。……きれいだなあ、と思いましたけど。
- −−藤城さんの原画を見たのは『絵本マボロシの鳥』が初めてですか?
- 太田さん そうですね。これまでは絵本と、ケロヨンショーで見ていたので。大きな絵で、光を当てて見ると圧巻ですよ。本来はああやって見るものなんでしょうね。ふと思ったんですけど、デジタル書籍。あれはまさに光を発光しているので、ぴったりだと思いますね。
- −−太田さんは子供の頃から藤城さんの大ファンだったそうですね。
- 太田さん
ええ。藤城さんが作ったキャラクター、ケロヨンが大好きで、ケロヨンカーニバルによく行っていたんです。日生劇場でやっていたんだけど、あきこお姉さんという狂言回しのおねえさんがケロヨンと一緒に真っ赤なトヨタ2000GTに乗って登場するんですよ。大人になってこの仕事をすればするほど、ケロヨンカーニバルの演出の凄さがわかるんです。日本であんな演出が子供向けにできていたなんて不思議ですよ。その頃はテレビでもケロヨンをやっていたし、天気予報も藤城さんの影絵を使っていたんです。
藤城さんの絵は日本の表現と全然違うんですよ。かといって外国のものでもない。なんであんなに洗練されていたんだろう。思い出すたびに、あれはすごかったな、と。それが僕の原点なんです。『マボロシの鳥』を書くときも、意識してはいなかったにしろ、自分の記憶のどこかにそういうファンタジーがあったんだと思います。たまたまなんですが、小説を書くちょっと前に、俺が藤城さんのファンだということで、ラジオにゲストで呼んだんですよ。そのとき、そんな思いをいろいろ語ったんです。 - −−藤城さんを心から尊敬しているんですね。
- 太田さん
僕に言わせれば藤城清治という人のいまの評価があまりにも低いんですよ。もちろん、勲章も貰うくらいは評価されてるけど、いまの人たちにその凄さが知られていない。世界的にも、もっと評価されていい人だと思うんです。
小説を書こうと思ったとき、藤城さんは読んでもらいたい人の一人でした。もちろんそのときは藤城さんに絵本にしてもらえるなんてまったく思っていなかった。ところが、藤城さんからお手紙をいただいて、「僕の世界にすごく近い。ぜひ絵本にしたい」と書かれてあったんです。こんなことが人生に起こるのか、というくらい驚いたし、もちろん嬉しかったですね。 - −−お手紙は宝ものですね。
- 太田さん そうですね。いま、どこに行っちゃったかわからないですけど。
- −−(笑)。じゃあ、絵本化の許可はふたつ返事で。
- 太田さん もちろんです。
- −−絵ができあがるまでお会いしたりは。
- 太田さん していないですね、まったく。
- −−では、ある日、突然、影絵ができあがってきたんですか?
- 太田さん 途中経過をチラッと見せてもらったりはしましたけど、その絵に対して注文をつけたりはまったくしていないです。完成するまでは、楽しみにしたいと思っていたから。
- −−ご自身が書いた物語が一人歩きをして絵本になったわけですが、新しい発見はありましたか?
- 太田さん 新しいものを見るような感じですね。藤城さんの絵を邪魔したくない、というのが最初に思ったこと。「俺の文章はいらないんじゃないか。絵だけでいいじゃん」って思いました。
■マボロシの鳥がビジュアル可能になった理由

- −−原作を読んだ読者の多くは、タイトルにもなっているマボロシの鳥は「ビジュアル化不可能」と思ったはずです。ところが、藤城さんの手によって見事に「ビジュアル化」されました。それはなぜなんでしょうね。
- 太田さん 藤城さんの絵が「影絵」だからじゃないかな。マボロシの鳥が光っている。マボロシの鳥は光っていなくちゃダメなんです。 もともと僕は映画を撮りたいって言っているんだけど、いざ小説を書いてみると、リアルな人間で映像化しようと思うとセコくなるなって思うんですよ。どんなにすごい特撮を駆使したってショボくなる。そういう意味では映像化できないと思っていたんだけど、藤城さんの影絵に関してはそれと逆のことが起こっている。イメージが足されていくんだよね。 文章で書いたものをみんながイメージするというところで小説は成立しているんだけど、藤城さんは絵にすることで、イメージをもっと膨らませてしまう。それは、やっぱり光を当てていることに秘密があるんじゃないかなあ。単なる絵じゃない。「影絵」なんです。
- −−子供の頃に藤城さんの世界に触れた太田さんが、いま、こうして藤城さんの作品を大勢の人に見てもらえる機会を作ったことは、不思議なつながりですね。
- 太田さん 誇らしいですね。『マボロシの鳥』を書いて本当によかたっと思えた瞬間でしたね。『マボロシの鳥』は100万部くらい売りたいと思ったけど、同じ頃に出た『KAGEROU』にぜんぜん及ばなかった。駄作だ、と落ち込んでいたから、藤城さんのおかげでようやく報われたと思えました。
- −−テレビで観ている太田さんよりも、小説は複雑で微妙な世界を表現していると思いました。やはり、テレビとは違う表現がしたかったんですか?
- 太田さん そのつもりはまったくなくて、単純に、自分が読みたい物語を書いただけ。だけど、世間の反応としては、「太田、うるさい」(笑)。それに関しては落ち込んだりもしましたね。今回、絵本にすることで、藤城さんが俺のダメな部分をなくしてくれた感じはありますよ。
- −−「マボロシの鳥」の物語はさまざまな意味を読み取れますね。人によってさまざまに見える。持っていると願いがかなう。いつ、どこへと飛び立ってしまうかわからない不安をもたらす。
- 太田さん
この小説を書いたときには、自分がいま直面していることをストレートな言葉じゃなくて、物語として書きたいという思いがあったんです。
漫才をやっていて、同じネタでもそのとき、その場所でウケたり、ウケなかったりするんですよ。その違いって何なんだろう、と思ったんです。それは技術じゃなく、その劇場の雰囲気だったり、その時間や場所の力だったりする。自分の体調、お客さんの体調も関係してると思う。昨日と同じようにやったつもりでも、ちょっとしたことで違う。練習してどうこうできることでも、理屈でどうこうできるものでもないんです。
マボロシの鳥はそういうものの象徴的なイメージなんですよ。それがあるとないとでは大きく違う。やっていると、俺にはもうそういうものがもうなくなっちゃったのかなあ、と思うこともある。心の奥底とか、細胞の奥に隠れているんだけど、実は。
■科学と直感、どちらも否定したくない
- −−今回の東日本大震災が起こったことで、「マボロシの鳥」の読み方も変わるのではないかと思いました。マボロシの鳥を手放すことは、人間のなかの欲望を放つという読み方もできるのかな、と。
- 太田さん
僕はそれは難しいと思うんですよ。こういう大きな災害が起こると、どうしても人間が創り上げてきた文明を否定したくなると思うんです。でも、俺はそうともいえないと思うんです。
藤城さんが書く影絵のなかにも、高層ビルがわーっと立っていて、そのてっぺんに木馬が載っていて、こっちに観覧車がある、というような街があります。人間が作った文明を否定しない。僕は藤城さんのそういうところが好きなんですよ。
藤城さんは童話の世界の人だから、海や空や、自然の世界への愛着が強いと思われがちなんだけど、街や文明もすごくきれいに描く。藤城さん自身もビルの窓の光のなかに人がいて、そこに生活があるのと心が躍るよね、って言うんですよ。
僕は文明批判みたいなものにどうしても違和感があるんです。事故があれば人間が創り上げたものはしばしば悪魔の装置のように言われてしまう。でも、それが人間の命を救ってきたとのも事実だと思うんですよ。電気があることで温められてきたし、明るく照らされてきたじゃないか、と。どんなことがあっても、人間がつくってきたものを全否定はしたくない。新しいものを作り出すことによって問題が解決するように考えていったほうがいい。藤城さんはそういうメッセージを子供だった僕に伝えてくれたと思う。
だからといって科学万能主義ではないんですよ。「マボロシの鳥」ではタンガタという青年が世界に平和な文明を築きます。その文明を築くことになったきっかけは直感なんです。科学万能主義になると、神秘的な人間の直感を否定する。どっちも肯定できないか。どっちか片方だけではダメなんじゃないか。物語を書くことで、そんな疑問を表現したかったというところはありますね。 - −−なるほど。どちらも否定すべきではないという考え方は太田さんが書く物語のベースにある考え方のような気がします。とくに今回、絵本を読んで、僕には太田さんのもとの小説がよりくっきりと輪郭を持って感じられました。藤城さんの絵があることで、僕らが子供の頃から親しんできた、物語の豊かな世界を思い出させてくれたような気がします。今日はありがとうございました。
テレビでの軽快な印象とはひと味違うシャイなたたずまいと、身を乗り出してしゃべり出すときの熱量のギャップは、太田さんの繊細で複雑なキャラクターを感じさせた。この作品は太田さんにとってあこがれの巨匠によって自作を絵本化されたものだが、原作のイメージを膨らませ、小説の持つ面白さまで引き出す見事な作品となっている。思えば、彼は「爆笑問題」では田中裕二さんという唯一無二のツッコミを得ている。太田さんはつくづく、「相方」に恵まれる人だと思った。絵本と原作小説、どちらも手元に置きたくなる見事な作品だ。(タカザワケンジ)
















