- 加藤嘉一(かとう・よしかず)さん
- 1984年静岡県生まれ。2003年高校卒業後、北京大学留学。同大学院国際関係学院大学院修士課程修了。英フィナンシャルタイムズ中国語版コラムニスト、北京大学研究員、慶應義塾大学SFC研究所上席所員、香港フェニックステレビコメンテーター。年間300以上の取材を受け、200本以上のコラムを書く。中国での著書多数。2011年には日本での『中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか』を出版。
インタビュー
■僕が中国で有名になった理由- −−普段テレビや新聞では報道されない生の中国の息遣いが聞こえてくるようで、大変興味深く拝読しました。お堅い中国本とは一線を画していますね。
- 加藤さん 自分で言うのもなんですが、面白いでしょう?(笑)。僕はまだ27歳になったばかりなので、中国問題の専門家と同じ視点で本を書いてもしょうがないと思ったんです。だから中国に8年間暮らしてきた僕ならではの視点を取り入れたかった。それにこの本は、「中国ってよくわかんない」「餃子危ない」といったほとんど中国のこと知らない方に読んでもらいたかったんです。特に若い方、そして主婦の方。結局今の日中関係を支えてるのは台所外交だと思うんですよね。100円ショップは中国製品であふれてるし、日本に来る中国人観光客も多い。それに、僕や中国人の生き方を見て子供の教育についても考えをめぐらせてもらえればなと思ったんです。
- −−加藤さんは今や「中国で一番有名な日本人」と言われ「加藤現象」と呼ばれるブームまで起きましたね。加藤さんが中国でここまで有名になった理由とは何だとお考えですか?
- 加藤さん これは先に話しておきたいんですが、「加藤現象」や「中国で一番有名な日本人」は、いろんなメディアのかたが言ってくださっているだけで、僕自身がそんなことを言ってるわけではないんです(笑)。ただ、僕が有名になった理由をあげるとするならば「中国語が抜群にうまい」こと、そして「日本の問題点も指摘しつつ中国に媚びない」姿勢が新鮮だったということがあげられるんじゃないでしょうか。これまでは中国を批判するだけ、もしくは媚びるだけ、そういった人が多かった。僕のモットーは「中立、自立、独立」。どこの組織にも属さず加藤嘉一個人の意見を中立の立場から述べている、その辺の姿勢が評価されているのかもしれません。
- −−中国といえば、反日感情が強いイメージもあり、コミュニケーションをとるのが難しい印象がありますが、その中国で8年間やってこられた秘訣とは?
- 加藤さん 僕自身、8年間生活していても中国の方とのコミュニケーションに難しさを感じることはあります。感情的な方も多いですから、同じように感情的にやりあってるとあることないこと書かれたりしますしね(笑)。だからといってビクビクしてるとなめられる。むしろガンガン向かっていく人が好まれる傾向がありますね。僕自身も攻撃的なほうだから受け入れられたのかもしれない。中国においては主張する中で妥協点を見い出す、その中で信頼関係が生まれる気がします。
- −−中国に進出する日本企業が増加するなかで様々な問題も生じています。中国におけるビジネスを成功させるためには?
- 加藤さん 中国に関する色んな報道に接する中で、日本人も中国に対して色んな偏見があると思うんですよ。だけど実際に自分の目で見て確かめること、相手を知ることが大切です。相手を知るにはまず相手の言語を学ぶ。下手でもいい。一生懸命学ぼうとしているという姿勢、熱意が重要なんです。中国の方って結構相手の姿勢を見ますからね。そして中国といっても広いですから、地方によってビジネスの慣習もまったく違います。だから出来るだけ実際に現地に足を運んで一定期間暮らしてみて、そこの風土、料理、人を感じること。本当にその土地でやっていけると肌身に感じて初めてそこでのビジネスを始めるべきだと思いますね。
- −−著書にも「中国式ダブルスタンダード」という言葉が出てきましたが、なかなか本音のつかめない中国の方とのやりとりに苦労している日本企業も多いと思います。
- 加藤さん 確かに、彼らの発言と真意は別にあると疑ってかかったほうがいいですね。大風呂敷を広げている可能性もあるし、矮小化しているかもしれない。だけどその判断ができるようになるためには、場数を踏んで経験するしかないと思います。そして交渉を成立させたいのであれば、次の4人を交渉の席に連れていくことを提案します。まず1人は決定権のある人間。1人は中国語がしっかりできて相手のことをわかっているプロジェクトの担当者。もう1人は社内の各部門に精通していて分析力のある人。そして最後にお酒が飲める若い人。さらに、きれいな女性であれば言うことはありません(笑)。
- −−お酒ですか(笑)! お酒は中国で仕事をする上で重要ですか?
- 加藤さん 僕自身も通訳していた頃、お酒が飲めるというので重宝がられましたからね。僕が考える中国におけるビジネスの最大のポイントは「言葉と酒」だと思います。お酒の席でビジネスが進むことも多いので、お酒というのは中国ではかなり重要なコミュニケーションツールなんです。飲むことで相手の懐に入って信頼される。そしてビジネスの場においては必ずこちらで通訳を用意すること。相手側が用意した通訳はスパイである可能性も高いですから…。今の僕があるのは「言葉と酒」、その2つの力も大きいと思いますよ。
■超えたいのはもう一人の「加藤嘉一」
- −−いまや北京大学で教鞭をとり、テレビのコメンテーター、コラムニストと八面六臂の活躍をされていますが、ここまで大変なご苦労があったと思います。
- 加藤さん 僕は特に何かが人より抜きんでているわけじゃないですから、できること、できないことの境界線をきっちり見極めて取捨選択してきました。「選択と集中」ですね。でもできないこともたくさんあるんですよ。これだけしゃべるので意外だと思われるんですが、異性との付き合いが苦手で(笑)。2人になると何をしゃべればいいかわかりません。さらにIT関係。エクセルもパワーポイントも3年練習したけどできませんでした…。あとは事務的な手続き。この3つは本当に苦手なんです。
- −−異性とのお付き合いが苦手というのは大変意外でしたが(笑)、中国でのプライベートの時間はどう過ごされているんですか?
- 加藤さん かなり忙しいので実はプライベートの時間ってほとんどないんですよ。生活の基本は仕事と毎日続けてるランニング。強いて言うなら旅行が趣味なんですけど、それも結局は旅先で感じたことをコラムに書いたりしてるので、公私の境がほとんどないんです。ランニングしつつも街や人の様子を見て、色々と仕事のインスピレーションが浮かんできますしね。
- −−毎日の瞑想も日課だとか。
- 加藤さん 朝晩の瞑想は幼い頃から20年間ずっと続けています。まず朝起きたら10分間、その日の理想の過ごし方を頭の中で思い描くんです。そうやって20年間毎日イメージしていると、自分の理想のあり方というものがだいたい見えてくるんですけど、超えたいのはそこにいる自分ですね。だから基本的に僕は人と比較しません。比較するのは常に自分。今まで2回だけ超えられたなと思うことはあるんですけど…。
- −−それだけ掲げている理想が高いんでしょうね。今後も中国を拠点に活動を続けていくご予定ですか?
- 加藤さん いえ、実は近々アメリカに行く予定です。日本が今後国家としてどう歩むべきかを考えた時、アメリカという国の存在は非常に重要になってくると思うので。それに一旦中国を離れてみることで、より対中観を磨くことにもつながると思うんです。基本的には今後10年間は日本に戻らず海外から日本を見て発信していきたいと考えています。
- −−お伺いしていると日本の未来について非常に考えていらっしゃる印象を受けましたが、将来的に政治家を目指すお気持ちは?
- 加藤さん 現段階ではノーコメントですね。よく将来何になりたいのかって聞かれるんですけど、そもそもその前提から違うと思うんですよ。政治家、ジャーナリスト、僕はそういった肩書にとらわれるつもりは一切ないんです。今の日本の問題点はどの業界もすべて縦割で、業界や世代を超えた交流が極めて少ないこと。僕が政治家になったら政治しかやっちゃいけないのかと。業界を超えた橋を作る、橋を架けるっていうのが僕の役割だと思ってるんですよ。
- −−ご自身をあえて表現するならば「ランナー」だとおっしゃっていましたね。
- 加藤さん フェイスブックには一応ジャーナリストとありますが、それは便宜上肩書きがあったほうがいいと思うからであって、僕が自分を表現するならばやはり「ランナー」ですね。最近、名刺を持ってる学生がよくいるんですけどあれは違うと思うんですよね。○○大学の○○、それで思考停止するなら名刺を渡さないほうがいい。それよりも自分の言葉で、自分は何者で何をしていきたいかを語れるようになることのほうが大事なんですよ。僕はジャーナリスト、学者、といった枠に自分を安易にあてはめたくはないんです。
- −−常に自分の頭で考え、発言する…加藤さんのそういった姿勢が、知名度を上げるきっかけとなった2005年フェニックステレビでの発言につながったんでしょうね。
- 加藤さん 実力は発揮してなんぼですから。僕がいつも思うのは日本でも小学校1年生のうちからホームルームなんかで1分間自己紹介をやるべきだと思うんです。30秒でもいい。高校からは英語で。自己紹介って永遠にアップデートされていくものだし、何のコストもかからない。小学校〜高校まで12年間続ければ絶対日本人は変わりますよ。
- −−本書でも若い世代に向けて様々な提言をされていますが、最後に今後の日本を担う若い世代に向けてメッセージを。
- 加藤さん とにかく恰好をつけないこと。泥臭く生きること。今の日本を見ていると、みんな人生ショートカットしよう、楽をしようとしすぎているように思えるんです。泥臭く生きれば生きるほど返ってくるものも大きいんだから。誰よりも走って、誰よりも本を読んで、誰よりも悩んで、誰よりも汗をかいて、誰よりも考える。そういう人間が最後に勝つと思いますよ。誰もが人生という名のマラソンを走り続けるしかないんです、そうでしょう?
Written by SHINOBU NAKAGAMI
中国でこれだけの知名度を誇りながら、おごることなく走り続ける。一見自信にあふれた語り口調から想像もつかない謙虚な姿勢。日々の瞑想、ランニング…謙虚たればこそ、これだけ努力できるのだと納得。いつか日か日本に戻りこの国を導いてほしい…そう願わずにはいられませんでした。














