- 三上延(みかみ・えん)さん
- 1971年神奈川県横浜市生まれ。『ビブリア古書堂の事件手帖』で舞台となった北鎌倉周辺は青春の地。大学卒業後はフリーターとして中古レコード店、古書店などでアルバイトをする。古書店勤務中に第8回電撃小説大賞に応募、三次選考で落選するも編集部の目に留まり、2002年にデビュー。電撃文庫で『ダーク・バイオレッツ』、『モーフィアスの教室』、『偽りのドラグーン』などホラー、ファンタジーなどのシリーズ物を執筆。
インタビュー
■栞子は僕の若い頃のドリーム- −−今回の第2弾は第1弾に比べると、より古書店の日常が細やかに描かれていますね。
- 三上さん 第1弾では山場が必要かなと思い最後のほうで大きな事件を起こしたんですが、必ずしも毎回そうでなくてもいいかなと思いまして。今後も続く長いシリーズになるだろうということもあって、今回はその長いお話のはじまりとしてキャラクターの掘り下げに重点を置いたんです。
- −−キャラクターという意味ではヒロインの栞子、大輔ともにユニークな人物ですね。
- 三上さん 思いついたのは栞子のほうが先だったんですけど、栞子は僕の若い頃のドリームですね、こんな古本屋さんがいたらいいなあという(笑)。実際には古書店の店主に若い女性ってほとんどいらっしゃらないと思うんですけどね。昔、古書店でアルバイトしていた時に僕に仕事を教えてくれたのが、たまたま僕より年下の女の子で、すごく仕事に厳しい方だったんです。その時の経験も織り交ぜつつヒロイン像を作り上げました。
- −−もしかして栞子は三上さんの好みのタイプですか?(笑)
- 三上さん うーん、僕の若い頃の好みですね。今はちょっと違います。嫌いではないんですが、実際に付き合いたくは…ないかもしれません(笑)。
- −−対する大輔は古書店員でありながら「本が読めない」という致命的な欠陥がありますね。
- 三上さん 古書に詳しくない方にも読んでほしかったので、読者の視点を代表する人物を登場させたかったんです。それで「本に興味はあるのに本のことがわからない」という一見矛盾した性向を持つ大輔を登場させたんです。でもよく考えたら本に興味あるなら普通は本読むだろう、ということで大輔が本を読めなくなった経緯を後から導入して。だから1話書いた時点では、まだ大輔が本を読めないという設定はなかったんですよ。
- −−第1弾で取り上げた本が夏目漱石の『それから』、太宰治の『晩年』など誰もが知る名作だったのと比べると、今回の第2弾はアントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』、福田定一『名言随筆 サラリーマン』、足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』など知る人ぞ知る、的な作品も多いですね。
- 三上さん 第1弾に関しては古書に興味がない方でも読みやすいように、と誰もが知っていてかつ高価な本を取り上げたんです。でも第2弾を書くにあたっては本のうんちくを重視したかったので、本が書かれた背景に特色があるものを基準に選びました。第1弾の反応を見ると必ずしも名作文学でなくてもいいのかなとも思い、それ以外のものにもジャンルを広げてみたんです。結構、僕の趣味も入ってます。
- −−題材にする本はどのようにして選ばれているんでしょうか?
- 三上さん 実は毎回、ものすごく調べながら探してるんですよ(笑)。今回とりあげた3冊に関しても決まるまでにかなり紆余曲折があったんです。最初は10冊くらい候補があったんですが、読んで面白くてもストーリーが思い浮かばないとか、背景に興味深いものがないとか…。選んでみたはいいけど、やっぱりお話が作れなかった本もあり、毎回本選びには苦労しますね。
- −−第1弾、第2弾を通して読むと、大輔と祖母の関わり、栞子と母親の謎など家族関係もサブテーマになっているように感じます。
- 三上さん そうですね、これも最初はあまり意識していなかったんですが、古書を扱っていると、その性質上どうしても親とか上の世代から引き継がれてきたものに注目せざるをえないんですよ。家族だけじゃなくて先生でもいいんですけど、上の世代と下の世代の関わりみたいなものがどうしても重要になってくるなあと。
- −−そもそもこのシリーズは、三上さんご自身の古書店員経験が元になっているということですね。
- 三上さん 古書店では3年くらいアルバイトしたんですが、その時の経験をもとに本を書いてみたいという思いはずっとありました。実は大学卒業後、小説家を目指してたんですが、全然うまくいかなかったんですよ。それで28歳の時に一旦小説を書くのをやめて古書店で働くことにしたんです。で、古書店で「社員にならないか」と言われた時にもう一度だけ小説を頑張ってみようと思い、古書店で働きながら小説書いて賞に落ちて…、ようやく電撃文庫さんに拾い上げてもらう形でデビューが決まったんですよ。だけど今回とっておきの古書店ネタを使ってしまったので、今後どうするんだっていう悩みはありますね(笑)。
- −−なかなか仕事が決まらず古書店で働く大輔にかぶる部分もありますね。
- 三上さん そうですね、多分大輔には自分が無意識に投影されてると思います。古書店の仕事は基本的に肉体労働なので、大輔みたいな人がまさにぴったりなんですよ。もうちょっと本のことを知ってたほうがいいかな、というのはありますが。
- −−小説に反映された古書店員時代のエピソードはありますか?
- 三上さん僕も大輔と同じく買い取りにはしょっちゅう行ってたんですが、亡くなった方の本を引き取りにいくことは多かったですね。そういう意味では今回の第二話、大輔が故人の本を買い取りに行くシーンは、まさに僕の実体験が元になっています。
- −−三上さんご自身もやはり古書はお好きなのでしょうか?
- 三上さん 最近は取材とかネタ探しと称して、大手を振って古書店に行けるようにはなりました(笑)。ただ置き場所がないので、あまり集めすぎないように努力しています…。たまに絶版の文庫を買うくらいですかね。
- −−絶版の文庫といえば第1弾で、栞子が絶版の文庫を読むシーンがありましたね。
- 三上さん あれは僕が絶版の文庫が好きだからなんですよ。昔の方って買った日の出来事を本に書きこむ事が多かったみたいで、前に買った本には「ストの最中」という書き込みがあったんです。調べてみるとちょうど出版された時期に国鉄のストがあったらしくて、本の持ち主はよっぽど暇だったんだろうなあとか。書き込みから色々想像を膨らませるのも楽しいんですよね。
- −−その姿には、一冊の古書から謎を読み解く栞子にかぶる部分もありますね。ところで、三上さんの考える絶版文庫の面白さというのは?
- 三上さん ハードカバーでは出版されていない変わった本が、世に出ることがあるんですよ。第1弾でも紹介しましたが「サンリオSF文庫」なんかだと、ちょっと毛色の違うフランスあたりのSF小説とか幻想文学が結構出版されてたり。あと、旧字体で読みたいと思うと古いものを探さざるをえないんですよ。最近復刊された本だと旧字体が現代仮名づかいに修正されてるものが多いので。出版された当時の息吹が伝わってくるようなあの旧字体の読みづらさがたまらなくいいんですよね(笑)。
- −−さて、『ビブリア古書堂』の今後ですが、栞子と大輔のほのかな恋愛模様も気になるところですね。
- 三上さん 栞子と大輔の関係は少しずつ発展させようと思ってます。栞子がそのあたり鈍い人なのでどうなるか僕自身も心配ですが(笑)。『ビブリア…』はある程度長く続くシリーズにしたいと考えているのですが、今回の第2弾はその底辺に流れるお話の始まり、という位置づけですね。
- −−第1弾は若い世代のみならず幅広い世代から大きな反響があったと聞きます。
- 三上さん 最初は若い方からの感想が多かったんですが、次第に年配の方からも感想が来るようになって…正直ここまで反響があると思わなかったので僕自身も驚いています。今までの作品と何が違ったんだろうって(笑)。考えられるのは、題材の選び方や、設定をわかりやすくしたのが当たったのかな、と。あとは装丁ですね。越島はぐさんに描いていただいた栞子のイラストがまさに僕のイメージどおりで、よくやってくれた!という感じです。
- −−お話を楽しみながら古書や本についての知識も自然についていく、というのも本書の魅力ですね。
- 三上さん そう言っていただけると本当にうれしいですね。主人公たちの関係も楽しんでほしいし、古書も楽しんでほしいし、できれば3巻も読みたいと思っていただけると大変ありがたいです(笑)。
- −−今後挑戦していきたいジャンルなどはありますか?
- 三上さん 『ビブリア古書堂の事件手帖』だけで作家をやめるわけではないので、色んなことをやっていきたいと思ってます。とりあえずいただいた仕事は何でも(笑)。電撃文庫でもメディアワークス文庫でも、ジャンルを問わずいろいろなことをやってみたいですね。いずれは江戸時代後期をテーマに何か書けたらなと思ってるんですよ。
- −−本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。『ビブリア古書堂の事件手帖』の3巻はもちろん、時代物も楽しみにしています!
Written by Shinobu Nakagami
- ★古書店店主の栞子と本が好きなのに本が読めない体質の大輔。ある事がきっかけで大輔は栞子の古書店「ビブリア古書堂」で働くことになります。古書を介し、それに関わった人たちの物語(人生)を読み解いていくような物語です。
連作短編で、続編もあるのかなと気になりました。また、ここに登場する本も実際に手に取ってみたくなりました。 - ★主人公のキャラクター設定が面白い。よく考えると現実離れしていながら、実際にいそう。セドリ屋さんの生態なども同様。「男爵」というあだ名はこの種の古典作に敬意を払ったのかな?続編が読みたい。
- ★タイトルからわかるように、事件解決・推理系の読み物です。内容としては古書店の店主とバイトに入った主人公の話で、短編の集合で構成されていると思います。キャラクターが良い、雰囲気が良い、読みやすいという感じでしょうか。どなたでも読みやすくなっています。…(後略)














