- 並木裕太(なみき・ゆうた)さん
- 株式会社フィールドマネージメント代表取締役。1977年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校でMBAを取得。2000年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社後、最年少で役員に就任。2009年、株式会社フィールドマネージメントwww.field-mgmt.comを設立。ソニー、全日空、楽天など日本を代表する企業の経営コンサルタントを務める。プロ野球では、オーナー会議へ参加、パ・リーグのリーグ・ビジネス、東北楽天ゴールデンイーグルスや北海道日本ハムファイターズのチーム・ビジネスをキーマンとともにつくり上げている。日本一の社会人野球クラブチーム「東京バンバータ」の球団社長兼GMでもある。
インタビュー

■ミッションを持つと毎日がより楽しくなる
- −−『ミッションからはじめよう!』を最初ビジネス書のつもりで読みましたが、航空会社入社4年目の大空翔子さんを主人公にした小説風の展開がとても面白いですね。おかげでいつしか翔子さんに自らを重ねて、「私の人生のミッションは?」と考えている自分がいました。
- 並木さんそう言って頂けるとうれしいです。というのも「問題解決本やロジカルシンキングの本を読んでも結局使えなかった」、という感想がとても多いので。それもあって今回は、読者の方には翔子さんと一緒に、この本で紹介したツールや図を使いながら自分のミッションを見つけて、最終的にはそれを実現してもらいたいと思いました。
- −−“ミッション”とは、いわゆる“志”ですよね?
- 並木さん簡単に言えばそうですね。もう少し説明すると、人は、たとえば「売り上げ目標を達成する」とか「40代で部長になる」など、数字や肩書きなど予めゴールを決めて動く“ゴール・ピープル”と、その場の流れに任せて進む“リバー・ピープル”に分けることができます。“ミッション・ピープル”というのは、数字や肩書きや会社にしばられず、自分が将来的にやりたいこと、つまり志や使命があり、それが日々の営みとどうつながるかを考えていく。いわばゴールとリバーの中間ぐらいの感じです。
- −−ミッション・ピープルには、たとえばどんな人がいますか?
- 並木さんスティーブ・ジョブズがそうですね。彼には世の中を便利にしたい、新しい世界を作りたい、という志がありました。有名な話ですが、普通は取る必要もないカリグラフィーの授業を受けたことがMacのコンピューターを設計する際、美しいフォントを生み出すことになり、そうしたデザインの美しさがアップルの人気につながっていった。パソコンをたくさん売ることだけをゴールにしていたら、こんな風に点と点が結びついて結果を出すことはなかったでしょう。
僕がこの本を通して伝えたいのは、まさにこのことでもあるんです。ジョブズのような天才にかぎらず、ミッションがあることによって、同じ毎日を繰り返すにしても、「これが積み上がって自分の行きたい方向に進んでいるのだな」という意識を持てる。すると、それまで面倒だった会社の資料作りも自分なりの工夫を加えたりできるようになったり、日々の仕事が楽しくなると思うんですよ。 - −−そもそも並木さんが“ミッション”に注目した理由とは?
- 並木さん経営コンサルタント、いわゆる問題解決の仕事を10年以上してきた中で、自分が関わった戦略がどれだけ実行されたかというと、実は決して多くはないんです。10の戦略があったとしたら、仮に半分が実行され、半分が実行されなかったとすると、実施されるのが2〜3つぐらい、そして実行された後、成功するかしないかも半々だと仮定すると、成功に至るのは、本当に1、2割なんですよ。
- −−そんなに少ないとは……意外です。
- 並木さん"本当にそうなんですよ。一つ例として、僕がマネージメントアドバイザーをしている東北楽天イーグルスについてお話しすると、球団の収入を上げようとすると、チケットを沢山売りたいから法人への営業を強化しよう、そのために法人別のニーズを分析して……と、これがいわゆる経営コンサルタント的な仕事のやり方です。ところがこうやって難しく考えた戦略は、まず実行されないんですよね(苦笑)。一方で、球場の現場の方がふと呟いた「来週の水曜日、球場の前で社員とじゃんけんをして買ったら入場無料にしたらどうか」というアイデアのほうが、やってみると人が集まって収益が出たりする。法人のニーズ云々より、じゃんけんのほうが単純に楽しいし、わかりやすい。しかも絵に描いた餅ではなくて現場の人の声だから、より実現しやすいんですね。何より、スポーツを通してお客さんを楽しませるという、イーグルスのミッションにも即しているわけです。
これは一例ですが、戦略が実行に至った他のケースを見ても、経営者がもともと何をしたかったのかという根本的なところから話していった場合が多いんですよ。志、つまりミッションから考え始めると実行に至るし、結果も出るということから『ミッションからはじめよう!』というタイトルにしました。"

■自分が何を実現したいのかを伝えるのも大事
- −−並木さんご自身は、もともとミッション・ピープルだったのですか?
- 並木さんいや、違います(笑)。子供時代に野球選手に憧れたぐらいで。大学には進学したものの自分が何をしたいのかがわからず、ぷらぷらとアルバイトをしていました。当時の目標はアルバイト先のお店の店長になることで、要するにリバー・ピープルですよね。
- −−マッキンゼーに入って経営コンサルタントになったきっかけとは?
- 並木さん僕が働いていたお店に当時のマッキンゼーの役員が来て、声をかけてもらったのがきっかけです。何をやりたいのかがわからないという僕に、「経営コンサルタントは通常3ヶ月ごとに一つの企業を扱うから、まずはマッキンゼーで働いてみなさい」と。「その間にいろいろな企業や業界を見て、好きなものが見つかったらそこに行けばいいから」と誘って下さったんです。
とはいえ働き始めた当初は3ヶ月でクライアントが変わってしまうので、コンサルタントの仕事の面白さも、それぞれの業界の魅力も正直、実感できませんでした。少しずつ立場が上がって、同じクライアントのプロジェクトを幾つも扱うようになり、相手との付き合いが密になって初めて、人を中心に戦略を考えられるようになった。コンサルタントの仕事が俄然面白くなったのは、その頃ですね。 - −−それにもかかわらず、マッキンゼーをお辞めになったのはなぜですか。
- 並木さんマッキンゼーも企業なので、会社の方針に従って、取引先の優先順位を付け、契約期間にしばられたりしながらコンサルをするわけです。でもある時から僕は、自分が好きになった経営者がミッションを実現するまで、支えたいと思い始めた。従来のコンサルのやり方では、限界があると感じていたこともあります。そこで“ステップ・ゼロ”の存在になることを目指して、3年前に会社を立ち上げました。“ステップ・ゼロ”とは、例えばアメリカの大統領には、重要な意思決定からプライベートな相談までを補佐するスタッフがいて、彼らをそう呼ぶんですね。そんな風に、経営者の方たちが最高のパフォーマンスができる環境を作るお手伝いをする存在になりたいんですよ。企業の規模で優先順位をつけたり、契約期間で歩みを止めたりは、絶対にしません。
- −−経営コンサルタントと聞くと堅いイメージがあったのですが、こうしてお話を伺うと、人と向き合い、一緒に考えていく、非常に人間力が問われる仕事でもあるんですね。
- 並木さんそうなんですよ。基本的にはお客さんから問題ばかりを言われる役割ですが、自分が好きな相手だと頑張れるし、活躍できますよね? 実際に会社を始めて、そういういい関係が少しずつ増えてきています。直接仕事に関係なくても、どこにでも顔を出すので「雑談カンパニーですね」と言われたりもしますが(笑)。
- −−あらためて並木さんご自身のミッションとは?
- 並木さん日本がこれまで培ってきた多くのものが壊れそうな今、企業、そして個人レベルで、本来何をしたかったのか、というミッションに立ち返ることが大事だと僕は思っています。ですから日本の企業が生き残るために何をミッションにして、それを実現するためにどうするかを考える時に支えて、応援できる、“ステップ・ゼロ”の存在になるための活動をしていきたいですね。
- −−最後に、さまざまな企業を見てきた並木さんから、この春、社会人になる人に向けてアドバイスを頂けますか。
- 並木さん何か仕事を頼まれた時に、嫌々仕事をこなすのではなく、自分のミッションを意識して「自分が実現したいことは……」とちゃんと自分のミッションを説明したほうがいいと思いますね。新入社員にかぎらず、何がしたくてその会社にいるのかを考えて、周囲に伝えていく。まともな上司なら、それが実現できるように助けてくれるはずですから。まずはこの本を通してノウハウを吸収して頂き、そこからミッションを見つけてもらえたら。そして最終的には自分で戦略を描き、人を巻き込み、実行できる本当のビジネス・パーソンになって頂けたらうれしいです。
- −−ミッションを考えることから始めたいと思います。本日はありがとうございました!
『ミッションからはじめよう!』を通して、また実際にお話を伺って感じたのは、何事も“人”を中心に考える並木さんの姿勢であり、あたたかなお人柄でした。おそらく多くの人は学校を出て、就職活動をする時に、初めて真剣に自分のミッションについて考え始めるのではないでしょうか。そんな時、さらに社会人生活を送る中で本当にやりたいことがわからなくなった時、並木さんのアドバイスが前に進む手助けをしてくれるはず。読み物としても楽しい1冊、ぜひ手に取ってみて下さい。 取材・文/宇田夏苗













