- 誉田哲也(ほんだ・てつや)さん
- 1969年、東京都生まれ。学習院大学卒。2002年、『妖の華』で第2回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞、2003年、『アクセス』で第4回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞。2005年から06年にかけて、『ジウ』全3巻と姫川玲子シリーズの第1弾『ストロベリーナイト』を立て続けに刊行。新しい警察小説の書き手として注目を集める。2007年には『武士道シックスティーン』を刊行。青春小説でも高い評価を受けるなど、幅広い作風で人気を博す。その他の著書に『国境事変』、『ドルチェ』、『世界でいちばん長い写真』など多数。『ストロベリーナイト』は竹内結子主演のテレビドラマに続き、2013年1月26日、映画版が全国公開。公式HP: http://strawberrynight-movie.jp/
インタビュー
■1ページから始まり、最後のページで終わる小説は書きたくない
- −−今年1月から「小説宝石」に連載されてきた『ブルーマーダー』が、遂に単行本化されました。姫川玲子シリーズを再始動させたお気持ちは?
- 誉田さんこのシリーズに関していえば、4作目の『インビジブルレイン』を発表した時、「これでシリーズは終わりか?!」という感想を結構頂いたんですね。あの作品で姫川班は解体され、玲子も警視庁捜査第一課から所轄に異動になったので、そう感じられたのでしょうが、いや終わっていませんよ、と(笑)。姫川班を解体したのは、玲子の任期も5年目となり、警察も組織なので異動があって当然で、それなら何か大きな事件に絡ませたいと思ったからなんです。
- −−今回は玲子が異動先の池袋署で、被害者の出自も所属もバラバラという、謎めいた連続殺人事件に直面します。物語の構想はどのように生まれたのですか。
- 誉田さん最初は、「護送車が事故に遭って被疑者が逃走する」というアイデアがあっただけで、他は何も決めていませんでした。でも、逃走犯なら手錠を切るために、工具がありそうな場所に忍び込むのではないか……と考え始めて、建築関係の知り合いの事務所を訪れて、資材置き場を見せて頂いたんです。そのうちに、凶器のアイデアを思い付いたというわけです。
- −−その凶器には、ネタバレになるのでここでは言いませんが、驚かされるとともに身震いがしました。今回の“逃走犯”のように、まず、物語のきっかけになるものが浮かぶのですか。
- 誉田さんそれは作品によってさまざまですね。今回の場合は、本などを読んでいるうちに「池袋のチャイナタウン化」というのが気になり始めた。玲子自身、池袋署にいますから、その街を舞台にして、となると暴力団対策法や排除法のことや、警察の威力の低下の問題なども書かないと、現代的ではないだろうなと。それから潜入捜査というのも一度考えましたが、日本ではあり得ないんですね。でも、元警察官がやくざになって、彼を警察が利用するのはありかなと。そして、その男の正体が知れた時、彼は一体何を恨むかが、物語のメインになってきたんです。
- −−ちなみにタイトルの由来は?
- 誉田さんイギリスのロックバンドに“ブルー・マーダー”というのがあるんですよ。ホワイトスネイクのギタリスト、ジョン・サイクスを中心にしたトリオのバンドです。このメンバーの構成が、この小説にもつながるところもあるわけですが。
- −−そこはぜひ、読んで楽しんで頂きたいですね。姫川班の解体後を描いた本作では、ファンにとっては気になる玲子と、常に行動を共にしてきた菊田との関係にも、新たな展開がありますね。
- 誉田さん実はドラマ化される前から、菊田の動向に敏感に反応して下さる男性読者の方が多かったんですね。玲子との関係がじれったい、という意見があったので、この二人に関して、一度クリアにしておきたいと思いました。それに今後、姫川班が再結集するとなれば、一番に玲子が声をかけるのは、菊田なんですよね。ただドラマ版で西島さんが菊田を好演して下さったおかげで、『インビジブルレイン』が文庫化された時、「菊田の影が薄い」という感想が多くて。もともとの小説がそうなので、どうしようもないんですけど。うれしい誤算ですね(笑)。
- −−なるほど。そもそも玲子とは、当初からシリーズキャラクターとして長くつき合っていくつもりだったそうですね。
- 誉田さんそうですね。ただ実は、デビュー前に構想していた玲子の最初の事件を書き直したのが『主よ、永遠の休息を』で、シリーズのいわば第0作なんです。なので『ストロベリーナイト』自体がすでにシリーズ化された、第二作目ともいえるんです。 何より僕は、1ページ目で始まり、最後のページで終わる小説は書きたくないんですね。登場人物たちの人生、日常はずっと流れているものであって、たまたま小説として、そのある地点から書き始めますけど、すっと物語に入っていきたい。一つの小説の中で描かれていない部分や、ベテラン刑事の下井、ガンテツの日常もあるわけで。いつ誰にスポットをあてるか、ということだけなんです。
■経験を重ねて、一皮向けた姫川玲子を描く
- −−刑事生活9年目、33歳となった玲子はご自身にとって、どんな存在ですか。
- 誉田さん事件ごとに成長しているなと思いますね。シリーズ3作目の『シンメトリー』の中で、「法で裁けない人間は、殺すしか無い」という意見に、「そうではない結論を、私は警察官として探したい」と玲子は言っている。つまり、当時はその答えが見つかっていなかったのですが、今回、玲子はその結論を言えているんです。これは彼女が一皮むけた証拠だなと。17歳の時、ある事件の被害者となったトラウマも少しずつ薄らいでいるでしょうが、ゼロではないし、それを書いていけるのは、シリーズの面白さですね。
- −−17歳の事件から本物の殺意を自分の中に抱えるようになり、それゆえに犯人に同調できる力を持つという、玲子のキャラクターはミステリアスでもあり、非常に興味深いですね。
- 誉田さん被疑者に同調し、心を見抜くのは玲子の才能ですが、一方で、彼女は犯人を言い当てるけれど、そこに行き着くまでのプロセスは、警察組織にはそぐわなかったりするんですね。そこはフィクションですから、こういう刑事がいてもいいのかなと。
- −−そうかといって、玲子は女性的な感性に頼って仕事をするわけでもないんですね。男性以上に気が強く、けれど男性社会の中で、女性として生きている姿は、同性から見ても実に魅力的です。
- 誉田さん玲子には、女性が社会進出すれば、当然受ける苦労はもちろんしてもらいますし。ただ、僕にとっては執筆する際、男性か女性かはあまり関係ないんです。常に見ているのは、その人物、個人であって、女性、男性のかせをかけられた中で、どうなるかを考えているだけなんですね。
- −−玲子は、ご自身の“ミューズ”だともおっしゃっていますね。
- 誉田さんデビュー前から、僕が一つハードルを越える節目には、必ず玲子が絡んでくるんですよ。初めて重版になったのも、連続ドラマ化されたのも『ストロベリーナイト』でした。僕の作品全体の大黒柱という意味で、彼女はミューズだと言えるでしょうね。
- −−その玲子は、来年1月に初めてスクリーンに登場します。原作は『インビジブルレイン』ですね。
- 誉田さんそうですね。以前は、原作と映像化された作品との関係を、音楽でいう、オリジナルとカバーだと表現していましたが、最近はレシピかなと思うんです。読者の方達が、僕の考えたレシピを読んで下さることで、それぞれの味が再構築されていく。映像もそのうちの一つだと思います。ただ、ドラマや映画となると、大量にレシピが広まるので、それを誉田印とする上で、外して頂きたくないことはお伝えしますよ。今回の映画は、連続ドラマを経てのことだったので、不安はありませんでした。試写を見せて頂きましたが、いい意味で真面目というか、「このくらいでいいだろう」という妥協が一切目につかなかった。全編テンションが落ちることがなく、すごく濃密な2時間7分でした。ぜひ楽しみにして頂きたいですね。
- −−最後に読者へのメッセージと、今後のシリーズの行方をお聞かせ下さい。
- 誉田さん『ブルーマーダー』は、所轄に異動した玲子が、ここから警視庁本部に再び上がって行く、その布石の話でもあります。法治国家というものに対していろいろな人間が考え、玲子自身も答えを出すところもあり、シリーズの次へのステップにつながる作品だと思っています。 シリーズの今後ですが、「小説宝石」で発表した『アンダーカヴァー』も含めた、連作短編集『インデックス』を2014年に出す予定です。構造的には『シンメトリー』に近いですね。その後にも、ちょっと大きな!?企画を考えていますので、楽しみにしていて下さい。
- −−どんな企画なのか……本当に楽しみです。本日はありがとうございました!
姫川玲子しかり、個性あふれるヒロインを生み出し続ける誉田哲也さん。男性作家としては異例にも思えますが、「小説を書く上で、男女は関係ない」という言葉に、一人の人間として、誰もが強く惹かれるキャラクターが誉田ワールドに存在する理由が分かった気がしました。気になる玲子と菊田の関係も描かれた本作、さらに映画と、ますます玲子の動向から目が離せません!取材・文/宇田夏苗

【映画 ストロベリーナイト 2013/1/26 ロードショー】
降りそそぐ苦しみは愛か狂気か―
幾重にも隠蔽され、複雑に絡まった事件。 姫川班、最後の試練!
卓越したストーリーと息をつかせぬ展開で、
ミステリーファンからも評価の高い
誉田哲也の小説・姫川玲子シリーズ。
ファンを熱狂させ、
刑事ドラマ界に新しい風を吹き込んだ
「ストロベリーナイト」がスケールアップしてついにスクリーンに登場!













