- 加地倫三(かぢ・りんぞう)さん
- 1969年生まれ。神奈川県出身。上智大学卒業後、92年にテレビ朝日に入社。スポーツ局に配属後、96年より編成制作局に異動してバラエティ番組の制作に携わる。現在、「ロンドンハーツ」「アメトーーク!」の演出・プロデューサー。
インタビュー
■すべては面白い番組を作るため
- 「ロンドンハーツ」「アメトーーク!」を毎週楽しみに拝見しています!普段は番組作りの裏方を務める加地さんですが、本の著者として表舞台に立ってみていかがですか。
- 加地さん視聴率よりも、本の反応のほうが気になりますね(笑)。テレビの場合は面白いと感じる人と、そうでない人がいて当たり前だと思って作っていますけど、本は僕個人の考えを書いたものなので。どう受け止められているかが気になってしかたなくて、一日2、3回ツイッターをチェックしちゃってます(苦笑)。
- −−この本を書こうと思ったきっかけとは?
- 加地さん 僕はなるべく取材を断らないようにしていて、この6、7年ぐらい結構取材を受けてきたんですね。それは自分が話すことで、この仕事に興味を持って志す若者が一人でも増えたらいいなという思いからで。その延長として、今の自分が言えることを全部書いたのがこの本です。もう一つには、インタビューで若い人向けにアドバイスしたりしているのに、一緒に仕事をしている後輩達に、ちゃんと自分の思いを伝えられていないなと感じていて。面と向かって言うと説教じみるので、1冊の本にまとめて読んでもらうことで、何か仕事の役に立ててもらえたらいいなと思いました。
- −−そもそもご自身がテレビ業界に興味を持ったわけとは?
- 加地さん何か大きなきっかけがあったわけではないですが、幼稚園の頃から大のテレビっ子だったんですよね。母親にご飯を食べ終わらないと見ちゃダメだと言われるので、できるだけ早く食事を終えて、テレビにかじりついていたという。今もガリガリ体型なのは、テレビのせいだともいえますね(笑)。
- −−どんな番組を見ていたんですか?
- 加地さん「8時だョ!全員集合」をはじめ、ザ・ドリフターズの番組は好きでよく見ていましたね。荒井注さんの「This is a pen!」のギャグとか。小学生の時には漫才ブームで、テレビを録音して漫才を覚えたりしていました。その後、ドリフのウラ番組で「オレたちひょうきん族」が始まって、そちらに移りました。
- −−ちなみに大学時代はどんな学生でしたか?
- 加地さん勉強はほとんどしなかったですね。バンドとバイトと恋愛がすべてでした(笑)。
- −−卒業後はやはり大好きなテレビの仕事がしたいと?
- 加地さんそうですね。とはいえ狭き門なので、本当にテレビ局に入れるとは思っていませんでした。ゼロから企画を生み出すことにもまったく自信がなく、入社当初は食らいついていくだけで精一杯という感じでしたね。
- −−テレビ朝日入社後、最初の配属はスポーツ局だったそうですね。
- 加地さん入社試験で希望の部署を聞かれた時に、バラエティとは言わずに「スポーツ局です」と答えたんです。大学生なりに考えた採用してもらうための“たくらみ”の一つでした。それに僕は野球やサッカーといったメジャースポーツ以外にも、アメフトやラグビーやゴルフなど、大抵のスポーツは好きでテレビで見ていたので。それがスポーツ局ですごく役に立ちましたし、楽しかったですね。よくよく思い出すと子供の頃は、ニュースも含めてテレビでやっているものすべてが好きだったんですよ。 僕がこうしてテレビの仕事について語ったり、本を出すのは単純に、自分が現場を離れた時に、面白い番組がないといやだからなんですよ。僕自身、面白いテレビを見て育って、今この仕事ができているので。面白いものを見なければ感性が磨かれないし、面白い番組を作れる人もいなくなってしまう。隠居した後、面白い番組がなかったらどう過ごせばいいかわらないですから(笑)。
- −−なるほど(笑)。「視聴率はあまり気にしない」ということですが、どの業界でも売り上げ、数字が厳しく問われる昨今、気にしないでいられるのはなぜでしょうか。
- 加地さんまず、僕の根本には「番組を終わらせない数字を取っていればいい」というのがあるんですね。極端にいえば「7%でも終わりません」と言われれば、毎週7%でもいいんです。ただ、それだとゴールデンだと終わってしまうので、12%ぐらいは必要だなとか。4月から6月のワンクールで10%でも、年間で平均12 %取れれば継続できるし、最初のクールが15%なら、次は多少数字が減っても大丈夫だから、もっと面白いことができるなと思っちゃうんです。いい数字が出たら、それは新たに面白いことにチャレンジできる貯金になるんです。本音を言えば、視聴率は邪魔なものだし、数字が出た時点ですべては過去なんですよね。だから、反省の材料として向き合うのはいいが、あまりベッタリ付き合いすぎるとチャレンジする気持ちがなくなって、良くないと思うんです。
■“芸人“という存在のすごさ
- −−『たくらむ技術』にはテレビの裏側も書かれていてとても興味深かったのですが、1本のバラエティ番組が出来るまでには、本当にコツコツとした作業の積み重ねがあるんですね。
- 加地さんそうなんですね。僕は本来まじめではないのですが、バラエティ作りに関してはクソマジメと言えるかもしれないです(笑)。
- −−プロデューサーとして喜びを感じる瞬間は?
- 加地さんいっぱいありますよ。自分が面白そうだなと思ってやった企画がハマって、現場で大爆笑している時、芸人の皆さんが「今日は楽しい!」とワイワイ乗ってくれているのを見たりするとたまらないですし。カンペを出して、ドーッと受けた時もたまらないですね。
- −−「アメトーーク!」をはじめ、加地さんが手掛ける番組からは芸人さんたちの仲の良さが伝わってきて、「いいなあ、楽しいな」って思うんです。
- 加地さんそうなんですよね。ただ収録前は意外とピリピリしている人もいますよ。芸人ほど繊細な生き物はいるのかなと思いますよね。キャリアを積めば慣れてくるけれど、その分、スベることへの恐怖心も生まれるし、これを言ったらスベるというのが全部わかるんですね。10のうち2つスベったら、みんな「すみません」って言いながら帰って行ったり、それも言わずに暗い顔をして去る人もいて。芸人ほどプレッシャーのかかる仕事はないんじゃないかなって思います。だからすごくデリケートに扱っていい空気を作らないと。空気がちょっとでも重いと感じると、みんなスベらなよいように警戒してしまう。逆に今日は何でもウケるとわかればボケの数も増える。だからスタジオでの空気作りにはすごく気を遣います。
- −−加地さんが思う、芸人という存在の魅力とは?
- 加地さん何もないところから人を笑わせられるって、こんなすごいことはないですよね。僕自身、収録中によくヒザから崩れるぐらい笑い転げたり、こんないい仕事はないです。僕はハゲの家系なんですね。今までハゲずにいられたのは、たくさん笑ってるからノーストレスなんです(笑)。何より芸人さんには毎回、本当に助けてもらっています。芸人さんがいなかったら本なんて出せないし、こんなに偉そうにしゃべったりできてないですよ。
- −−好きなことを仕事にしてきた加地さんから、これから仕事に就く読者に向けてアドバイスを頂けますか?
- 加地さん就職の場合は受かる、受からないがあるので難しいですが、短所を補うよりも長所を伸ばす方が楽なので、まず自分の長所を理解することが大事だと思いますね。この本にも書いたように、僕がいくらトレンドだからと言われても、自分が面白いと思えない企画は扱い方がわからないのと同じで、やりたい欲求が生まれないものは、どうコントロールしていいかわからない。得意なこと、好きなことならそれが出来るから、仕事の上ではプラスにしかならないと思うんです。もし食べることが好きなら、グルメ雑誌の仕事でも食品関係、農業も当てはまるでしょうし。入り口を間違えさえしなければ、チャンスは増えるのかなと思います。
- −−ご自身の仕事を「一つひとつの作業を丁寧に行い、納得のいくものを作り、常に一定以上のレベルをクリアしてそれ以外は店に出さない、饅頭作りの職人さんのようなもの」と述べられていますね。そんな加地さんの今後の目標は?
- 加地さん芸人さんたちから「いらない」と言われたら潔く外れるつもりですが、そう言われないかぎりは生涯、一職人として最前線にいたいなと。あとは若いスタッフが仕事をしやすい環境を作りたいし、いろんな芸人さんをもっと世の中に出せる番組も作っていきたい。そういう番組を作れる後輩も育てていきたいなと思っています。
独自のテロップ作り等、ヒットの秘密が満載の『たくらむ技術』。「ここまで手の内を明かしていいんですか?」という問いに、「真似されたとしても面白いテレビが増えるだけで、マイナスなことは一つもないから全然いいんです」と加地さん。その言葉にテレビへの深い愛を感じました。たんなるビジネス書とは違う、共に働く人々への敬意も伝わる1冊。仕事をとことん楽しみたいと思っている人は必読です!
取材・文/宇田夏苗













