- 阿川佐和子(あがわ・さわこ)さん
- 1953(昭和28)年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部西洋史学科卒、81年『朝のホットライン』のリポーターに。83年から『情報デスクToday』のアシスタント、89年から『筑紫哲也NEWS23』(いずれもTBS系)のキャスターに。98年から『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)にレギュラー出演。99年檀ふみ氏との往復エッセイ『ああ言えばこう食う』(集英社)で第15回講談社エッセイ賞を、2000年『ウメ子』(小学館)で第15回坪田譲治文学賞を、08年『婚約のあとで』(新潮社)で第15回島清恋愛文学賞を受賞。12年には新書『聞く力 心をひらく35のヒント』が130万部を超える大ベストセラーに。
インタビュー
■こんなに取材して、こんなに相談した本は初めてでした
- −−正義感が強く真っ直ぐな女性検事・凜々子の成長物語、共感しながら大変面白く拝読しました。そもそも「女性検事」を主人公にした理由とは?
- 阿川さん何か面白い題材ないかな…と思っていた時に、たまたま女性検事とゴルフでお会いしたんです。生身の女性検事に会うのは初めてだったので、質問攻め。「どういうことしてるの?」「なんで検事になったの?」って。彼女は美人でおしゃれ、気は強いけど人懐っこくて酒豪、すごく魅力的な人でね。それこそ凜々子より豪快な人。それで、こんな面白い人がいる検事という仕事を題材にしてみたらどうだろう、と思ったんです。お豆腐屋の娘という設定は、出来る限り検事という仕事から程遠い出自にしたほうが、対比が面白いかなと思って。でもこんなに相談して、こんなに取材した小説は初めてです。
- −−実際に、どのような取材をされたのでしょうか?
- 阿川さん チャンスがある度に、検事さんの飲み会に参加させていただいたり、裁判を見学したり。検事さんといっても色んな方がいらっしゃるんですよね。刑事さんの飲み会にも参加しましたね。もちろん、飲み会だけじゃなく、女性検事さんにお話を聞く機会をセッティングしていただいたりしてね。夫婦で検事をされてる方ですとか、ベテランさんから新人の方まで本当に色々な人にお会いしました。その中で、検事と事務官、刑事との関係など、初めて知る部分が多かったんです。刑事と検事は絶対協力し合わないと事件は解決しない、でもそこには様々な人間関係があるんですよね。戦いもあるけど協力体制もあるっていう、そのあたりも面白い部分だなと思って、挑戦してはみたんですけど…いや〜大変でした(笑)。
- −−というと取材以外にもご苦労が?
- 阿川さんそうですね、事実関係に間違いがないか、というところに一番苦心しましたね。ドラマ性にとらわれて、本職の検察官や刑事さんが読んだ時に「甘いね」「これは違う」とは思われたくなかったので、プロが読んでも納得していただけるものにしたかったんです。そのために、警察の方、新聞記者、もちろん検事さんにもチェックしてもらいました。皆さんすごく協力的だったんですよ。「チェックはまだでしょうか?」と聞くと「ごめんなさい、急に事件が入ってしまって」なんてこともありましたが(笑)。
- −−締切に追われる立場から追う立場へ、ですね(笑)
- 阿川さんそうなんです、あとは時系列も苦労しましたね。連載当時は平成24年の設定から始めたんですけど、そうなると連載終了時には平成26年、未来小説になってしまってたんですよね。それで少し時系列をずらして、本にまとめる時は平成22年から始めたんですよ。ところがこれが大変で。ちょうどその頃に、司法制度が色々変わったもんだから、研修地だとか、赴任先が連載時のままだと食い違いがあったんです。あとは震災ですね。震災の影響も受けてるだろうということで、どれくらい揺れたかリサーチしなきゃ、とか。本当に細かい部分の整合性を取るために、すごく苦労しましたね。それこそ横浜地検に転勤という設定の裏を取るために、実際に横浜にも足を運んで、モデルに設定したレストランで食事をし…。
- −−横浜というと、凜々子にしつこく言い寄る同期の検事・神蔵(かんぞう)とのデートシーンも印象的でした。
- 阿川さんほんと?最低なデートにしようと思ったんですけどね(笑)。神蔵がこんなに活躍するとは。当初は一行だけ登場させる予定だったので、どうせならインパクトのある名前がいいかなと思ってつけた名前なんです。神蔵は凜々子から肘鉄を食らうためだけに登場させたキャラクターだったんですけどね。編集担当の女性が「すごい気になる、このキャラクター」って言うもんだから、ご要望に応えてたらすっかり重要な人物になっちゃった。
- −−凜々子と神蔵が食事するシーンや、事件解決の重要なキーとなる「ラー油」など、食事の描写も魅力的でした。読んでると食べたくなっちゃって…。
- 阿川さんそう思っていただけると、うれしい(笑)。簡潔に、しかし食べ物が浮かぶように書くっていうことは、新潮社で小説を書いてた時にしつこく鍛えられた癖が残ってるのかもしれないし、どんなに怒ってても食べ物には惹かれる馬鹿な面もあるっていうのは、女としては好きなタイプなんですよね。「うるせーこの男、でもプリンだけは食べたい」とか。
- −−女性はそういうところ、ありますよね。
- 阿川さんものすごく深刻な話してるのに「おいしいじゃん」って思うことは、私はよくあります。激しく喧嘩してる最中なのに「残すかな、それ、もらっていい?」とかね。あるでしょ?(笑)
- −−先ほどからお話をお伺いしていると、この作品はとても映像化に向いてるように感じました。阿川さんが、まるで登場人物のようで…。
- 阿川さん講談師みたいだった?(笑)。映像化されたらいいなと思いますけどね。出来ればサザエさんみたいな長寿番組にしたい。毎日10分だけOAするの。「ええっ?」ってところで毎回終わり。
- −−この作品はすでに2巻、3巻と出版されていますが、今後は凜々子が結婚し、子供産みながらも検事を続け、という展開もありそうですね?
- 阿川さん今後については売れ行き次第ですが、凜々子の結婚とか、凜々子の家族はどうなっていくか等、課題はいっぱい残ってるので、続けられるといいなと思いますね。
■大ベストセラー『聞く力 心をひらく35のヒント』について
「困ってるんですよね、インタビューの達人だと思われちゃって(笑)」
- −−話は変わりますが、昨年出版された『聞く力 心をひらく35のヒント』が約130万部を超える大ベストセラーとなっていますね。今日はその阿川さんにお話を聞くということで、少し緊張もしていたんですが…。
- 阿川さん私も困ってるんですよ、これでインタビューの達人か、と言われる苦しさ(笑)。「大して面白くなかったよ、この間のインタビュー」って言われたら本当に落ち込んじゃうもん。
- −−ここまでのベストセラーとなった理由を、どうお考えでしょうか?
- 阿川さん(北野)武さんの帯が良かったんじゃないかなあ(笑)。あとは新書っていうスタイルが良かったのかもしれない。自分でもよくわからないんだけれども、こないだテレビで吉永みち子さんが「最近コミュニケーション能力が非常に注目されているけれども、それについて書かれた本のほとんどが“発信力”について。この本は、“聞く力”もコミュニケーション能力の1つであることを伝えている」的なことをおっしゃっていて、ああなるほどな。と。
- −−これだけ売れているということは、インタビュー等を生業としている方以外にも必要とされている、ということですもんね。
- 阿川さんそうみたいですね。講演依頼もお引き受けできないくらい来てるんですよ。法律関係、看護師さんやお医者さんなら患者さんから話を聞くためとか、あとはリフォーム関係、営業関係…、世の中、こんなに聞く仕事だらけなのってビックリしちゃいました。
- −−そういう意味では凜々子の職業である検事も“聞く力”を非常に必要とする仕事ですね。
阿川さんご自身も「聞く仕事」「書く仕事」…様々なお仕事をされていますが、一番お好きな仕事は? - 阿川さん声優になりたかったから、ナレーションの仕事は好きなんですが、あんまり来ないのね。書く仕事は辛いんですけど、評価されたり、書きながらノってきたり、うまく書けたって時は楽しい部分もありますね。インタビューも辛いんですよね…。辛い、よね?
- −−そうですね…、色んな方に会えるので面白い時もありますけど。
- 阿川さん会った後は面白いんですけどね。この仕事をしてなければ会えなかった人と仲良くなることもあるので、それは本当に宝物ですけど。会う前はたいてい帰りたい、と思ってます(笑)。でもね、どんな仕事でも、嫌なことは必ずある。好きなことやったって嫌なことはある。その中で少しでもいいところがあったなら、それが宝物なんじゃないかと思うんですよ。大体自分のことなんて自分ではわからないものなんですよ。人が見ててくれるもんなんです。お前これやってみろ、ってそれが案外生涯の仕事になったりする。私なんて書く仕事なんか絶対いやだったし、インタビューは今でも嫌いなんだから。
- −−では今後、手がけたい仕事や夢などは?
- 阿川さんないです(笑)。何か依頼が来て、面白そうだったらお引き受けする、あの人に会えるからちょっとやってみようとか、そんなのばっかりです。でも書く仕事だけは、今まで小説を書いてきた中で鍛えてくださった方達がいるから、その期待には応えたいと思ってますね。本当に辛いんですけど、書く仕事は続けなきゃいけないと思ってます。
- −−本日はありがとうございました。今後のご活躍を期待しております。













