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 本屋大賞第1位『海賊とよばれた男』百田尚樹さんインタビューバブル崩壊、リーマン・ショック、そして東日本大震災。自信をなくした日本人たちに、いまこそ知って欲しい。かつてこんな男たちがいたことを。

昭和20年8月。日本の敗戦とともに、石油会社・国岡商店の店主、国岡鐡造はすべてを失った。しかし、鐡造は社員を集めてこう言う。「愚痴をやめよ。ただちに建設にかかれ」。ようやく本業の石油業に戻った国岡商店を待ち受けていたのは、巨大な国際石油資本・セブン・シスターズの魔の手だった! 今年度、本屋大賞を受賞した傑作『海賊とよばれた男』はなぜ書かれたのかを、百田さんに聞いた。

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プロフィール

百田尚樹(ひゃくた・なおき)さん
1956年大阪生まれ。同志社大学中退。関西の人気番組「探偵!ナイトスクープ」のメイン構成作家。『永遠の0』で小説家デビュー。ほかの著書に『ボックス!』『風の中のマリア』『モンスター』『錨を上げよ』など。一作ごとに違うジャンルに挑戦し、つねに「面白い」小説を提供し続ける注目の作家。

インタビュー

■世界中を驚かせた「日章丸事件」をご存じですか?



--本屋大賞受賞おめでとうございます。
百田さん ありがとうございます。
--『海賊とよばれた男』は、石炭が石油へと変わる1910年代いち早く石油会社を起業し、戦中、戦後の激動を闘い抜いた経営者、国岡鐡造の生涯を描いた作品です。鐡造は、出光興産を創業した出光佐三がモデルだそうですね。本書のクライマックスでもある「日章丸事件」を知ったことが執筆のきっかけだったとか。
百田さん そうなんです。友人の放送作家と雑談をしているときに「百田さん、日章丸事件って知ってる?」と聞かれたんです。でも僕は知らなかった。
--日章丸事件は、昭和28年に出光興産が、自社タンカー「日章丸」を出して、英国が封鎖していたホルムズ海峡を突破し、イランから直接、石油を買い上げた事件ですね。巨大国際石油資本の支配網に風穴を開けたことが当時、世界的なニュースとなった……『海賊とよばれた男』を読んで初めて知りました。
百田さんとんでもない事件ですよね。聞いたときには「ウッソー!そんな話あったの?」と半信半疑。僕は放送業界に長いこといて、そこそこの知識はあるほうやと思っていたから、そんな大事件を僕が知らないはずはないと思った。「ウソや」と言ったんです。「ホントや」と言うから、自分でも調べてみたら、たしかに本当にあった事件だった。それから会う人会う人に「日章丸事件って知ってる?」と聞いたんです。いろんな人に聞いて行ったら、みんな「知らん」と。
--ほとんどの日本人が、『海賊とよばれる男』を読むまで知らなかったでしょうね。
百田さんそうだと思います。ちょうどその頃、講談社学芸局の加藤晴之さんと知り合いました。「週刊現代」の元編集長で辣腕をふるった人なんですが、加藤さんも日章丸事件を知らなかった。それからしばらくして、加藤さんからダンボール箱が送られてきたんです。なんじゃらほいと思ったら手紙が入っていて、「日章丸事件の話を聞いて僕もびっくりしました。興味があったので調べてみました。資料を集めましたので、参考までにお送りします。よろしければお使いください」と書いてあった。  中を見たら、宝の山ですよ。僕が調べた以上にたくさんの資料が入っていた。しかもその中には、日章丸事件を立案、実行した出光佐三のことを書いたものもあって、こんなすごい経営者がいたのかとまた驚いたんです。出光興産の創業者、出光佐三のことは立志伝中の人物として知っていましたが、詳しくは知らなかった。調べてみると、ただの経営者じゃないんです。会社を大きくする、利潤を追求するなんてことは眼中にない。仕事を通して、いかに人間を育てるか。あるいは国家のために、人々のために役に立つかを考えていた。なおかつ、いかなる困難にあっても、逃げずに闘った。そのいくつかハイライトの一つが、日章丸事件だったとわかったんです。
--日章丸事件は1953(昭和28)年のできごとです。出光佐三も1981(昭和56)年に亡くなっていますが、いま、この物語を書こうと思われたのはなぜでしょう。
百田さん二年前の東日本大震災が大きな契機だったと思います。それ以前から、バブルが弾けて、リーマンショックがあって、日本人全体が自信を失っていた。そこに東日本大震災が起こって、日本全土に諦めムードが漂いました。こういう状況のなかで、僕はどういう物語を書いて人々を楽しませればいいのか、ちょっと迷いを感じていたんです。その頃に、出光佐三の人生を知って、これだ、と思いました。

■人間に対する信頼を貫いた経営者の生きざま



--なるほど、『海賊とよばれた男』は、日本が第二次世界大戦に敗れた1945(昭和20)年から始まります。まさに東日本大震災後の日本に重なりますね。戦争に負けて、主人公の国岡鐡造はすべてを失ってしまう。
百田さん日本が戦争に負けて、彼はそれまで三十数年間をかけて築き上げた会社資産のほとんどをなくすんですね。しかもこれから続々と社員たちが海外から引き揚げてくる。彼らに与える仕事もなければ給料を払う金もない。絶望的な状況ですよね。それまで彼は、社員は家族だと言い続けてきた。会社の業績がいいときにはいくらでもいえるでしょうけど、人生の最大の危機、会社の存亡の危機にあっても、日頃、言うてたことを有言実行を成し遂げた。これはすごいことですよ。
--現代だったら、すぐにリストラですよね。
百田さん いまや、資産をたくさん持っている大会社でも何千人規模の人員整理をやりますからね。決定的な違いは社員をどう見るか。いまの経営者は社員をコストだと考えていますが、出光佐三は社員を資産だと考えていたんです。
--『海賊とよばれた男』のなかで、戦争が終わったときに、人員整理を勧める重役に、国岡はこう言います。「たしかに国岡商店の事業はすべてなくなった。残っているのは借金ばかりだ。しかしわが社には、何より素晴らしい財産が残っている。一千名にものぼる店員たちだ。彼らこそ、国岡商店の最高の資材であり財産である」。すばらしい言葉ですね。
百田さんすごい考え方ですよね。でも、それは結果的に正しかった。もし、あのとき、人員整理をしていたら、昭和二十年代には会社自体が露と消えていたでしょう。昭和28年に大英帝国に一矢を報いた日章丸事件が大成功したのも、その伏線となるのは昭和20年の8月、敗戦してすべてを失ったのにも関わらず、「誰のクビも切らない」と決断したことだったんです。
--戦後の国岡商店が、会社全体で、できることは何でもやって、食いつないでいこうとするその発想にも驚きでした。事業ありきではなく人ありき。漁業権をとってきて、漁業をやるとか。
百田さんラジオ修理をやるとかね。戦前の出光興産は石油小売業が100%。戦後、それが完全になくなった。普通ならリストラ、あるいは会社を畳みますよ。そうじゃなくて、食うために仕事はなんでもやる。社員自身が仕事を見つけてくる。
--ついには、旧海軍燃料廠の石油タンクの底に残った汚泥と混じった石油をさらうという過酷な仕事まで請け負う。それも利益になるからではなく、それをやらないとGHQが石油の輸入を認めないから。いわば国のためにやった。大きな目標を持っていた。
百田さん実際にこの事業は金銭的には大損害になったんですが、それがのちにGHQに認められて、大きな利益として帰ってきます。
--出光佐三、つまり、作中では国岡鐡造の人生は闘いの連続ですが、彼が闘うのは同業者や官僚。彼らとは見ている世界が違うと感じました。
百田さん同業者なり官僚は、自分の属する組織のことしか考えていないんですね。しかし、彼は日本国のためにいちばん利益になるのは? 消費者のために利益になるのは? ということまで見ていた。日章丸事件も、いわゆるセブン・シスターズに日本のエネルギーの根幹である石油を抑えられたら、日本の真の復興はない。日本のエネルギー産業の未来は産油国と直接取引ができるかどうかにかかっているという考え方が根底にあるんです。
--今回、本屋大賞に選ばれたということは、そうした国岡鐡造の哲学が、本を売るプロである書店員たちを動かしたということでもあると思います。
百田さん本屋大賞にノミネートされたことは意外でしたね。投票に参加する書店員は 7対3で女性の方が多い。この本は男、それもイケメンでなくオッサンやオジイサンばかり出てくる(笑)。女性ウケしないんじゃないかと思ったんです(笑)。実際、後で分かったんですが、ノミネートされたときは男性票がほとんどだったそうです。ところが、二次投票で蓋を開けてみたら女性の書店員が多かった。
--女性の書店員も、その魅力にハマったということですね。
百田さんそうなんでしょうね。今回、60〜70年も前の話を書いたこの本が本屋大賞を取ったということは、この偉大な男たちの物語を読者にも読んでもらいたいと書店員たちも思ってくれたということですよね。それが何より嬉しいです。『海賊とよばれた男』は出光佐三という男をモデルにした物語ですが、出光は日本を立て直すために死に物狂いで働いた数千万人の人たちの象徴です。出光がいかに素晴らしく、いかに英雄であっても、彼一人の活躍だけでは日本はここまで早く復興は出来なかった。数千万の無名の出光佐三がいたと思います。そのことを忘れてはいけないと思いますね。
--新刊が出るたびに驚かせてくれる作家──それが百田さんに対する私の印象だ。つねに違うジャンルに挑戦し、そのたび、既存の物語を越える発想がある。しかも、そこにはつねに百田さん流の「熱きヒューマニズム」が通底している。とくに『海賊とよばれた男』は、「書かずにはいられなかった」という思いが強くみなぎった作品だと思う。インタビューの席でも、この小説のモデルとなった出光佐三と彼を支えた男たち、そして、日本の復興に身を削ったすべての人々へのリスペクトを熱く語ってくださった。一人でも多くの人に読んで欲しい作品だ。
 
取材・文/タカザワケンジ

海賊とよばれた男(上)(下)
海賊とよばれた男(上)(下)

内容紹介
忘却の堆積に埋もれていた驚愕の史実に当代一のストーリーテラーが命を吹き込んだ。1945年8月15日、異端の石油会社『国岡商店』を率いる国岡鐵造は、海外資産はもちろんなにもかもを失い、残ったのは借金のみ。そのうえ石油会社大手から排斥され売る油もない。しかし『国岡商店』は、社員ひとりたりと馘首せず、旧海軍の残油集めなどで糊口をしのぎながらも、たくましく再生していく。20世紀の産業を興し、国を誤らせ、人を狂わせ、戦争の火種となった巨大エネルギー・石油。その石油を武器に変えて世界と闘った男とは何者なのか…実在の人物をモデルにした、百田尚樹作品初の本格ノンフィクションノベル!

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