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 池田あきこインタビュー「ダヤンのアートブック 一緒に描いて、遊んで、旅をしよう」

不思議な国「わちふぃーるど」に迷い込んだ猫のダヤンを主人公に、個性豊かなキャラクターたちが繰り広げる物語を描き続けている池田あきこさん。一度見たら忘れられない猫のダヤンは今年、生誕30周年を迎えました。それを記念した「ダヤン誕生30年 池田あきこ原画展」も全国巡回中。大きな話題を集める中、『ダヤンのアートブック』が出版に!原画展の代表作から旅のスケッチ、さらに池田さんが絵を描くハウツーを伝授するなど盛り沢山の1冊です。この最新刊とダヤンと歩んだ30年への思いを池田さんに伺いました。

プロフィール

池田あきこ(いけだ・あきこ)さん
東京・吉祥寺生まれ。1983年、自由が丘に革小物専門店「わちふぃーるど」をオープン。お店のシンボル・猫のダヤンが誕生、人気を集める。1988年、ダヤンを主人公にした絵本『ダヤンのおいしいゆめ』(ほるぷ出版)で絵本作家デビュー。以降、ダヤンの長編物語や画集、旅のスケッチ紀行など、出版書籍は80タイトルを超える。ダヤン誕生30周年の今年は、3月の松屋銀座店を皮切りに「ダヤン誕生30年 池田あきこ原画展」が全国巡回中。15周年を迎えた河口湖・木ノ花美術館には作品が常設展示されている。
「ダヤン誕生30年 池田あきこ原画展」開催中!
・山形屋(鹿児島)山形屋文化ホール(2号館6階)
 7 月28日(日)まで午前10時〜午後8時 (最終日5時閉場、入場は閉場の30分前まで)
・ジェイアール名古屋タカシマヤ
  8月7日(水)〜19日(月)午前10時〜午後8時(最終日5時閉場、入場は閉場の30分前まで)
※両会場ともに池田あきこさんのサイン会あり 詳細は http://www.nekono-dayan.com

インタビュー

■私の本当の職業は、架空の国「わちふぃーるど」の創作家なんです

−−ダヤン生誕30周年、本当におめでとうございます!それを記念した1冊『ダヤンのアートブック』を出されたきっかけから伺わせて下さい。
池田さん 30周年の節目に「これまでの活動をまとめたムック的な本を出しませんか?」というお話を頂いたのが始まりですね。ただ、ムックはこれまでにも出しているので、よりアートに寄った形で、「絵を楽しく描いてみよう」というコンセプトにしました。ダヤンのアートコレクションから絵の描き方まで、ページをのびのびと使った楽しい本になったかなと思います。
−−ダヤンの名画の数々を堪能しつつ、ボ―ルペンとコピック(マーカー)を使った簡単なイラストの描き方の章を眺めているうちに、思わず絵を描きたくなりました。
池田さん ぜひ描いてみて下さい!絵を描く方法を紹介したのは、最近、手帳やメモにちょっとしたイラストを描いて楽しむ人が増えていると聞いたので、参考にしてもらえたらいいなと。コピックは今回初めてスケッチ画材として使ったのですが、すごく楽しいし、初心者には描きやすいんじゃないかと思います。何より、絵を描くと毎日がぐんと豊かになるので。とはいえ何事も一歩踏み出すのが難しいので、この本をきっかけにしてもらえたらいいなと思いますし、今後も「絵を描こうよ」と伝えていきたいですね。
−−本書には大人気を集めている「ダヤン誕生30年 池田あきこ原画展」に向けて創作された、立体作品なども収録されていますね。
池田さん これまでにも展覧会はいろいろやってきましたが、今回は30周年ということもあり、一番集中して創作したし、今までの集大成にしたいという気持ちが大きかったですね。歳を重ねるにつれて、「自分が頑張れる時に全力投球しよう」っていう思いが強くなって。だから原画展前の半年ぐらいは、生涯で一番働いたんじゃないかな(笑)。
絵本を作るのも楽しいけれど、展覧会は打ち上げ花火みたいなものなので。創作中は本当に幸せでした。このままずっと続けていたいと思ったぐらいです(笑)。自分が自由に作り上げたものを見て、たくさんの人が喜んで下さっているのを目の当たりにすると、いい仕事を選んだなあとつくづく思います。ただ今回は、本当に今の自分の全てを注ぎ込んだので、全部作り終えたら達成感というよりもがっかりした感じになってしまって。ずっと神経も高ぶっていたせいか、鉄の女と言われるほど丈夫な私が風邪を引いて寝込みましたから(苦笑)。その分、悔いがないし、やりきった感じ。以前は独りよがりに作品を作っていたところもあったけれど、30年が経って、「わちふぃーるど」を俯瞰して見ることができるようになった気がしますね。
−−あらためて、この30年を振り返ってみて、どんな思いでしょうか。
池田さん もともと私は、母がやっていた革細工のメーカーを手伝い始めたことから革の可能性に興味を持ち、革の立体作品を作るようになったんですね。当時、20代の私はとにかく何かを作りたくて、出口をずっと探していました。「自分の世界を作っていかないと」という思いが常にあったんですよね。そのうちに自由が丘で革小物のお店「わちふぃーるど」を開くことになって。そのお店のシンボルマークとしてダヤンは生まれたのですが、ダヤンを通して、ずっとやりたかった架空の国「わちふぃーるど」を作っていけることになって、すごく気が楽になりました。大変だけど、ああよかったーみたいな。ようやく自分の家が出来たというか、やるべきことが分かったんですね。
−−メーカーのシンボルから絵本や長編が生まれ、元々の革を使った商品はじめ、さまざまなグッズと共に一つの世界、「わちふぃーるど」を作り上げているというのがとても興味深いです。
池田さん こういうケースは珍しいかもしれないですね。つまり架空の国「わちふぃーるど」と、ダヤンを中心にしたグッズを作って売る会社の「わちふぃーるど」があって。私の中ではその二つのバランスが結構上手く取れていて、両方やっているほうが楽なんです。アーティストとしては、絵本に長編といろんな方面に取り組むのは、すべて「わちふぃーるど」という架空の国をしっかりしたものにするためで、だから私の本当の職業は、“架空の国の創作家”なんですよ。その国を作るにはいろいろな方向から見ないといけなくて、絵本だけだと足りないので、いろいろな登場人物がいて時空を飛んだりする長編が必要だし、その世界がどういうものかは、私自身も書きながら発掘しているところがあるんです。30年、その作業を続けてきたので、今では「わちふぃーるど」のことが、私はよく分かっているんですよ。まだ分からない部分もあるけれど、その世界はずいぶんしっかりとした固い物になってきているとは思いますね。

■“すべて違う”ということを表現したい

−−絵本と長編の両方を書かれる上で、どんな違い、面白さを感じていますか?
池田さん 絵本は絵と文が同比率で流れていて、一つの音色みたいなのが漂っているんですね。一方で、長編の魅力は俯瞰でいろんなところを見たり、絵では表現できないことを書く愉快さ。私の場合は絵も比較的くどくて、簡潔っていうのが苦手なので、くどくど書ける長編が楽しいんです(笑)。文章の土台を組み立てるまでは大変ですが、それが出来上がりさえすれば、長編を書く時は飛行機乗りになった気分、フライングしているような気持ち良さがありますね。
−−なるほど。『ダヤンのアートブック』に話を戻せば、旅のスケッチも収録されていますね。旅のイラストエッセイでも知られる池田さんは、旅先ではずっとスケッチをされているとか?
池田さん そうですね。しばらく日本でじっとしていると耐えられなくなって、旅に出かけるのですが、それと同じで、旅先で面白いものや美しい物に出会うと描かずにいられない(笑)。この間は『ピーターラビット』の故郷を旅してきました。その前に作者のビアトリクス・ポターの本を読んだら、彼女も「どうしてみんな美しい物を見ても描かずにいられるのかが分からない」と書いていて。やっぱりこういう人はいるんだよなって(笑)。
−−理屈ではないんですね(笑)。本書に掲載されている、池田さんが描かれた草花や食べ物、看板や扉などの旅先でのスケッチは、どれも楽しくてかわいくてうっとりしてしまいます。
池田さん 風景全体を描くのは大変でも、例えば小さな草花や看板といったパーツなら、気軽に描けると思うんです。スケッチするために物の細部を見ると、いろいろな違いも分かって面白いですよ。
−−旅をきっかけに、ボルネオの森の保護活動もされていますね。
池田さん 2009年に初めてオートバイでボルネオ縦断して。約6日間、2000キロ走り詰めで、その時に見た景色はどこもプランテーション、熱帯雨林の原生林なんてまったくなかったんです。しかも乱獲が進んでいて、噂には聞いていたけれど衝撃的でした。その時に知り合った方から、ボルネオの原生林の保護活動のことを伺い、ボルネオに興味を持ち始めたことから生まれた絵本が『森の音を聞いてごらん』です。この作品を基にグッズも作ったら人気を集めて、それらの収益の一部をトラストに寄付して森を買いました。それ以前からずっと、地球のために何かをしたいと思っていたので、自分ができることと合致したんですね。今回の原画展でも寄付を募ったりオークションをして、だいぶお金が集まったのでもう一つ森を買うつもりです。
−−そうした活動もされながらも、今春には新キャラクター「ベベダヤン」が主人公の絵本『だいすき☆ベベダヤン』を出版されましたね。
池田さん ダヤンが誕生してから30年を迎えたのを機に、初めてダヤンと出会う小さい子ども達に向けて、新しいキャラクターを作りたいと思いました。ダヤンを読んだことがない人も分かるように、シンプルな話にして絵のタッチも全く変えたので難しかったですね。小さなお子さんと一緒に、お母さんやお父さんにも楽しんでもらえたらうれいしですし、この絵本を入口にダヤンの絵本や長編を読んでもらえたらいいなと思っています。
−−最後に「わちふぃーるど」を舞台にダヤンの物語を描く上で、池田さんが大事にされていること、これから目指すところとは?
池田さん 一番伝えたいのは、「全部違う」ということですね。一つの世界の中で生きているものたちも、国や地域も全部違う。でも今の世の中は同一化しようとする流れがありますよね?私は回帰主義っていうか、昔のままの物がわりに好きなんですよ。よく旅をするのも昔と変わらない、他と同じになっていないところに行きたいから。何もかも違うっていうことを絶対的に認めようと。この世にあるものすべてに独自性があると、作品を通して伝えていけたらいいなと思っています。 今後は、次の30年に向けて架空の国「わちふぃーるど」をさらに作っていきたいなと。いろんな“違い”を見てみたいし、もっともっと旅もしたいですね!
−−今後の「わちふぃーるど」の展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました!
 
取材・文/宇田夏苗

ダヤンのアートブック 一緒に描いて、遊んで、旅をしよう
ダヤンのアートブック 一緒に描いて、遊んで、旅をしよう

内容紹介
謎めいた大きな目が印象的な猫のダヤン
その生誕30周年を記念して、池田あきこさんの作品世界を一挙紹介!!
名画ギャラリーから旅のルポ、気軽に絵を描くハウツーまでが詰まった

一緒に 描いて、遊んで、旅をしよう

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