- 堀潤(ほりじゅん)さん
- フリージャーナリスト。2001年にNHKに入局。「ニュース9」のリポーター、「Bizスポ」のキャスターなどを務めた。東日本大震災後のツイッターでの発言がNHK局内でコンプライアンス違反と判断されアカウント閉鎖に。その後、アメリカ留学中に原発事故を題材にしたドキュメンタリー映画「変身」を制作。上映の可否をめぐりNHKと衝突したのを機に退局を決意。現在は「公共の財産には、すべての市民がアクセスできる」という理念の“パブリックアクセス”を標榜するニュースサイト・8bitNewsの代表を務める。
インタビュー
■上映困難となったドキュメンタリー映画を書籍に。
- −−まずは「原発」をテーマにした本書『変身 Metamorphosis メルトダウン後の世界』を刊行するにいたった経緯から教えてください。
- 堀さん米国留学中に、日米の原発事故を検証するドキュメンタリー映画を撮ったのですが、上映に関してNHKから“待った”がかかりました。そのことがきっかけで僕はNHKを辞めてフリージャーナリストに転身したのですが、退職後も映画の上映がままならなかったので「書籍版を出そう」という運びになりました。
- −−原発に関して、推進派・反対派による議論が続いていますし、簡単には答えの出ない問題だと思いますが、執筆する上でどんな点に注意したのでしょう?
- 堀さん「単に賛成・反対を語るような本にはしたくない」ということは、本づくりに関わって下さる方たちに最初に伝えました。僕自身、NHKを辞める時に“反原発”という斬られ方をされてしまいましたが、それを言ったところで何にもなりませんよね。「アイツは推進派だから信じられない」とか、「ヤツは反対派だからダメだ」といったスタンスでは状況はよくならないと思ったので、まずは事実を伝え、その結果どう行動すべきかを考えてもらえるような本にしようと心がけました。
- −−本の中で、事故から30年経ったスリーマイル島周辺の様子や、50年前にロサンゼルスで起きたメルトダウン事故などの話が語られていますが、日本国内ではあまり知られていない内容でした。
- 堀さん伝わってきていませんよね。でも、現地に行って取材すると、対策が施されていることや、研究の成果物の存在などがわかるんです。その一方で、50年経ってもなお事故との因果関係がはっきりしない事象も残っています。そういった状況は、30年後、50年後の日本の青写真になると言えるでしょうね。
- −−他にも、震災直後に放射能汚染の情報がせき止められていく過程や、震災後の福島県の様子なども衝撃的でした。
- 堀さんそうした事実を知ると、情報への接し方、社会への接し方、物事の捉え方、政治との関わり方なども変わっていくと思うんです。東電が悪いとか、政府が悪いとかっていう話ではなく“自分も事故が起こり得る状況を見過ごしていたひとりだった”ということも見えてくるのではないのでしょうか。
■困っている人の一助に……。その思いが僕を突き動かす。
- −−『変身』というタイトルには、どんな思いがこめられていますか?
- 堀さん福島県の不条理な現状が、カフカの小説『変身』の主人公に重なったんです。事故直後は、多くの人が復興に協力したり、熱心に反原発運動をしていましたが、僕が1年間のアメリカ留学を終えて帰国したら、そういう空気は日常の中に回収されていました。その様子が小説『変身』の主人公、グレゴール・ザムザと似ている気がしたんです。
- −−本の中には「不条理」という言葉が頻出しますが、震災や原発事故後の不条理な状況に対して、堀さん自身はどんな感情を抱いていますか?
- 堀さん悔しさと反省ですね。メディアに関わる一人として、最新のニュースを伝えるだけでなく、“大きな事故を防ぐための情報を伝える”という役割も担っているわけですから。メディア全体の問題でもあると思いますが、事故を食い止められなかったという事実と、真摯に向き合うべきだと考えています。
- −−ジャーナリストとしての堀さんのモットーは?
- 堀さん困っている人、弱っている人、課題に直面して立ち往生している人の一助になりたいと思って活動しています。それと同時に、公平中立を保つために“どこに軸足を置くか”というのも常に意識していますね。
- −−マスコミの世界に入る前の、子ども時代の堀さんはどんな少年でしたか?
- 堀さん引っ越しで、関東と関西を行ったり来たりしていたので、結構いじめられていました(苦笑)。そんななか、関西では同和問題が身近にあったり、関東では荒んだ生活を余儀なくされている友人と出会ったり……。少年時代は、世の中に対する疑問だらけでした。なにしろ「ノストラダムスの大予言があたればいい」と思っていましたからね。
- −−そんな堀さんが、ジャーナリストを目指したきっかけは?
- 堀さんバブルが崩壊して自殺者が増えたり、オウム真理教の一連の事件やなどが起こる世の中を、改善する仕事がしたいと思ったのがきっかけでした。それが大きなモチベーションだというのは、いまも変わりはないです。
■本書『変身』には、映像とは異なる本ならではの強みが。
- −−現在堀さんは、一般市民からの動画投稿をベースにしたニュースサイト「8bitNews」を運営されていますが、ずばり目標は?
- 堀さんいままでの市民メディアというと、プロが取材する現場を市民目線で洗い直すようなパターンが多かったと思います。でも、8bitNewsでは、個人が直面している課題を自分自身で発信して、それを見た人たちと状況を改善していけるような流れを作りたい。ゆくゆくは、イギリスの国営放送・BBCがやっているような、テレビ局のクルーと市民が一緒にニュースを作るような状況も目指したいですね。
- −−それは面白そうですね!!
- 堀さんこれまで報道の現場は“プロはプロ、一般人は一般人”みたいな感じでしたけど、一般の中にはメディア人が持っていないスキルを持っている人も多い。一方、一般の人には、番組作りのプロが持っている技術やインフラを利用してもらえばいい。「マスコミは敵じゃないよ」とも言いたいですし。そういったことがわかると、お互いもっとラクになれると思うんです。8bitNewsが、その橋渡し的な役割を担えたらいいですね。いまはサイトをリニューアル中なので、再出発に向けてがんばります。
- −−一般参加者には、これまで以上のリテラシーや教養も求められそうですが……。
- 堀さんそういう意味でも、8bitNewsが演習の場になります。また、プロのメディア人と関わりあえれば、参加する方々の意識が高まっていくと思います。リスク管理の仕方や、真実かどうかの裏を取る方法などを知ってもらう機会にもなると思いますよ。
- −−かつてはNHKで、現在は8bitNewsで、映像の世界を舞台に活躍する堀さんですが、書籍=『変身』を出版することで感じたことはありますか?
- 堀さん映像は、時間が限られていることが多いのですが、本にはそれがないのがいいですね。簡単に読み返すこともできますし。原発の問題に関して言うと、先ほども述べましたが“賛成・反対”という切り口ばかりに目が行きがちなので、そうではない主張を最後まで丁寧に伝えられるという点でも、一冊の本にまとめられたのはありがたかったです。
- −−『変身』を読めば、おのずと見えてくる部分も多いと思いますが、原発事故を経験した日本人が“今後やるべきこと”は何だと思いますか?
- 堀さん起きてしまった問題を解消するためのシステム作りに集中するべきだと思います。除染の技術、避難のための道路の整備、被災した方々の心のケアなど、問題は多岐に渡っています。でも、システムが整っていれば、次に同じような事故が起きても問題は大きくならずに済みます。同時に、そうしたシステムが備わっていない以上、原発は完全ではないということも認識するべきでしょうね。また、事故の経験を世界に伝えていくことも大事だと思います。かつてアメリカで起きた事故のその後の様子が、日本で詳しく知られていたら、状況は違っていたかもしれませんから。
- −−貴重なお話、ありがとうございました!
取材・文/澤井一













