- 岡田よしたか (おかだ・よしたか)さん
- 画家・絵本作家。1956年、大阪府生まれ。1980年、愛知県立芸術大学油画科卒業。1987年より10年間、大阪市の無認可共同保育園で働きながら、個展・グループ展を重ね、私家版による画集も制作。奇想天外なストーリーと味わい豊かな絵が大きな話題を呼び、子どもから大人まで幅広く支持されている。奈良県在住。主な作品に『おーい ペンギンさーん』『特急おべんとう号』(福音館書店)、『ちくわのわーさん』『うどんのうーやん』『こんぶのぶーさん』『とてもおおきなサンマのひらき』(ブロンズ新社)、『ハブラシくん』(ひかりのくに)など。
インタビュー
■ここまで受け入れてもらえるとは思わなかった(笑)
- −−2011年に出版された『ちくわのわーさん』から始まった岡田さんの食べ物シリーズが、「読んだらハマる!」と大きな話題を集めています。この状況をご自身はどう感じていますか。
- 岡田さん自分が描いたものを人が見て、思いもよらない受け取り方をして下さるのが面白いし、うれしいですね。『うどんのうーやん』に出てくる“にぎやかうどん”を作って下さったり、『ちくわのわーさん』を編み物で再現してくれた読者もいて(笑)。だけど僕はインターネットをしないので、そんなに評判になっているとは知らなかったんです。ブロンズ新社からの電話で状況を知って、それから知人にtwitterなどを見せてもらって、すごいもんやなと(笑)。 そもそも『ちくわのわーさん』を出したときには、ここまで広く受け入れられるとはまったく思わず、「そこそこ売れたらいいなあ」というぐらいだったんです。だってなんか、異様でしょう(笑)。編集の方が乗り気で作らせて下さったので、よかったなあと思います。
- −−その後、『うどんのうーやん』『こんぶのぶーさん』と3部作が生まれますが、最初に“ちくわ”を主人公にした理由とは?
- 岡田さんそれは何もないですね(笑)。編集の方から「食べ物を主人公に」とお話をいただいたので、いろいろ考えて、なぜちくわが出てきたかというと、いろいろ動きがつけられるからだと思います。実はそのときに、アイデアを3つ出したんですよ。ちくわとこんぶと、絵本にならなかった『キャベツのきゃーさん』。こんぶは今の絵本とは違うストーリーでした。最後は細かく刻まれて、五目豆の中に入るという(笑)。キャベツは千切りにされて、お好み焼きやトンカツの付け合わせになるような結末でした。その中から、編集の方が「ちくわで行きましょう」と。結果的にはちくわでよかったと思っています。
- −−シリーズ2作目の主人公に“うどん”を選んだのは?
- 岡田さんちくわとはちょっと違う形態のものにしたほうが、面白いと思ったからです。うどんはどんぶり鉢に入っていて、全体の形は変えられないので、難しいかなと思いましたが、麺が腕組みをしたり、動きをつけられる。描き始めたらスイスイ進みました。うどんの麺がどんどん動き出して、箸もうどんと一緒に動き始めて。
- −−なるほど(笑)。それにしてもうどんが主人公で、しかも自分で出前に行ったりと、奇想天外なストーリーはどうやって生まれるのでしょうか。
- 岡田さん僕はこの絵本をつくる以前から、ずっとタブローで食材を描いていたんです。1枚の絵の中におにぎりやサバの塩焼きが乱舞していたり、月夜に芋たこなんきんが動いているとか(笑)。そういう絵を何枚も描き続ける中で、食材が表情を持っているように見え始めたんですね。実物や写真を見ながらデフォルメなしで写生しているだけなのに、自分の絵は実物よりユーモラスというのか。 そのうちに、「これはお話にできるな」と思い始めた。それで描いたのが『特急おべんとう号』です。絵本なので、最初は表情や動きをつけるのに、目鼻手足をつけたほうがいいかな、と思って入れてみたんです。でも何枚か描いて、どうも類型的だなと。何より実物を描いた、その絵が面白いと思ったわけなので、初心に戻って目鼻手足は描かずにいこうと決めました。
- −−主人公の食べ物は、ご自身がお好きなものですか?
- 岡田さんそれはないです。動きがつけやすいとか、そういう理由ですね。第一、僕は卵アレルギーなので、卵白が入った市販のちくわは食べられないんですよ。
- −−そうだったんですか!
- 岡田さんはい(笑)。だから卵白不使用のものを買って食べますけど、ちょっと高い(苦笑)。 こんぶの“ぶーさん”については、前にうちの奥さんと絵本の主人公について話していたとき、彼女が「こんぶのぶーさん」と呟いたんです。面白いなと思って、ずっと胸にしまっておいたんですね。うどんの“うーやん”は、小学校時代の同級生に“うーやん”と呼ばれている友だちがいたんですよ。八百屋の息子で、店主のお父さんが“うーやん”と呼ばれていて、その息子のあだ名も“うーやん”に。辻本君っていうんですけどね(笑)。
- −−興味深いお話です(笑)。それにしても『うどんのうーやん』では、うどん屋が人手不足のために、自ら出前に行くという発想がすごいですね。大阪弁の文章のゆるーいテンポもたまりません!
- 岡田さんこの手の話は、若い頃からよく考えていたことで。だから、絵本のきっかけになるアイデアはすっとなんぼでも出てきます。あとは落語とか漫才が好きなので、そういうテンポにはなっているとは思います。でも最近のスピーディーな漫才よりも、少し昔の中田ダイマル・ラケットや夢路いとし・喜味こいしといった、おっとりしたものが好きですね。
- −−岡田さんの文章からは、常に会話にボケとオチを求める関西人らしさも感じます。
- 岡田さんそれはもう、業みたいなもんです(笑)。といっても『こんぶのぶーさん』の漫才の稽古をしているところとか、小さい子どもにはわかりにくい部分もあるかもしれません。でも、後でわかってもいいんじゃないかなと。それに子どもというのは、意外なところで何かを感じて笑ってくれたりしますから。
- −−うどんの“うーやん”はとにかく気が良かったりと、岡田さんが描く主人公たちは、いずれも愛すべき人、いや食べ物たちですね。
- 岡田さんこうしたら面白いかなと考えて描いた結果がそうなっただけなのですが。絵本を描くときにメッセージを伝えたいとも思わないですし。そういう絵本で好きな作品もたくさんあるんですよ。でも自分自身が一番面白いのは、わけのわからない楽しさみたいなもの。楽しさは、心の栄養になると思うんです。僕にも子どもの頃に読んで、楽しかった本の記憶があるので、面白さ、楽しさを一番考えます。
■描きたいのは、わけのわからない面白さ、楽しさみたいなもの
- −−最新刊『とても大きなサンマのひらき』も、表紙の絵のインパクトはもちろん、思いもよらない展開に引き込まれました。
- 岡田さん何年も前にタブローで、とても大きなサンマの塩焼きが暴れる絵を描いていたんです。今回は、本物を買ってきて描きましたね。
- −−ご自身についても伺わせて下さい。絵本作家としてデビューされる前は、保育園で働いていたそうですね。
- 岡田さんその前には地球儀の会社に勤めたり、いろいろやりましたが全部こやしになっています。それに今までが下積みだとは、全然思っていないんですよ。若い頃からずっとやりたいことをやっていて、その延長に今があるだけなので。ただ、保育園に勤務していたときに、たくさんの絵本と出会えたのはよかった。ずっと絵を描いていた僕は、画廊をまわるより、こっちのほうが面白いし自由だと感じたんですね。でも、自分には絵本は描けないと思っていました。今は絵本がすごく面白いですね。僕はまず、思いついたままアイデアを書き出すのですが、トントン拍子でいくと、快感なんですけどね(笑)。悩むときもいっぱいあります。大抵は一発で決まらないので、考えては書いての繰り返し、でも面白いですね。
- −−あらためて、絵本の面白さとは?
- 岡田さん正直、絵本だからというのは特に意識していないんです。絵を描く上ではタブローと同じで、1枚1枚描いているので。ただ絵本の場合、同じ登場人物を描き続けないといけない。うどんの器の柄も、最初から最後まで同じでないといけないので。絵本の場合、絵よりもストーリーを考えるのが楽しいんですね。物語をまとめるまでは大変ですけれど。絵を描くときは緊張します。集中しないと、後でやり直しになったら大変ですから。
- −−この先の新刊の予定、今後の野望があれば教えて下さい。
- 岡田さん『たべものかるた』を来年の秋ぐらいに出す予定です。食べ物の名前から読み札が始まる原則にしたのですが、たとえば「る」で始まる食べ物がなかなか思いつかなかったり。いろいろ考えているところです。今後の野望は……ノーベル賞かな(笑)。
- −−すごい野望ですね(笑)。次の絵本のアイデアは?
- 岡田さんまあ、考えていますけど、それは内緒です。食べ物以外ももちろん描きたいですね。「次はこれです」って言ってしまうとプレッシャーになる。そういうのに弱いんですよ(笑)。
取材・文/宇田夏苗














