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角野栄子さんインタビュー「魔女の宅急便」

小さな魔女キキのひとり立ちを描いた『魔女の宅急便』。1985年に角野栄子さんが発表したこの作品は、児童文学の世界的ロングセラーとして愛されています。2009年にはシリーズが第6巻をもって完結。あどけない少女だったキキはたくさんの出会いを経て、やがて素敵な魔女のお母さんへと成長していきます。今回、この作品を原作にした実写映画が誕生。それに先駆けて、角川文庫より新たに刊行された『魔女の宅急便』シリーズに込めた思い、創作の裏側を角野さんにうかがいました。

プロフィール

角野栄子(かどの・えいこ)さん
東京生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。25歳からのブラジル滞在の体験を描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で作家デビュー。以来、第一線で活躍する。1982年『大どろぼうブラブラ氏』で産経児童出版文化賞大賞、84年『わたしのママはしずかさん』で路傍の石文学賞、『ズボン船長さんの話』で旺文社児童文学賞、『おはいんなさい えりまきに』で産経児童出版文化賞、85年『魔女の宅急便』で野間児童文芸賞、小学館文学賞、IBBYオナーリスト文学賞など多数受賞。2013年には長年にわたる児童文化に寄与した功績を認められ、東燃ゼネラル児童文化賞を受賞した。

インタビュー

■誰でもひとつ魔法を持っている

−−『魔女の宅急便』の物語は、角野さんの娘さんが描いた絵をきっかけに生まれたそうですね。
角野さん娘が描いた絵の中に魔女の乗ったほうきにラジオがぶら下がっていたので、これをもとにお話を書いたら面白いだろうなと思ったのが始まりです。当時、彼女が12歳だったので主人公はそれぐらいの年齢にしました。それに私は、空を飛ぶことにとても興味があったんですね。人間は飛べないけれど、もし飛べたならどんな風景が目の前に広がるのだろうかと。飛行機が着陸する時も家がマッチ箱のように見えて面白いでしょう。大学時代にLIFEという雑誌で見た、鳥の目から眺めたニューヨークの風景がすごく美しくてね。ずっと頭に残っていました。だから娘の絵を見た時に、空を飛ぶ魔女の話を書けば想像上で飛べるなと、それはきっと楽しいだろうなと思ったんです。
−−実際に執筆している間は、空を飛んでいるような感覚でしたか。
角野さんすっと身体が浮いているような、キキと一緒に飛んでいるような感じでした。だからきっと、姿勢が良かったと思いますよ(笑)。
−−キキが使える魔法は最初、空を飛ぶこと一つだけですね。
角野さん魔法は最初からひとつにしようと決めていました。というのも、5歳ぐらいの頃に『アラジンと魔法のランプ』を読んで、嘘くさいなと思ったんですね(笑)。なんでも魔法で解決するのはおもしろくないでしょ。もちろんたくさん魔法が使えればいいけれど、そんなこと現実にはないわけで。それに使える魔法が“空を飛べる”こと一つであれば、飛べなくなることもあるだろうし、ほうきの柄が折れれば工夫して直したり、想像力を働かせて自分なりの解決法を見つけていかないといけない。そんなキキを周りの人も助けようとするので交流が生まれるでしょうし。そう考えていくと、誰もがそういう魔法を持っているはずなんです。それを見つけるか、見つけないかは人それぞれでしょうが。
−−ちなみに角野さんにとっての魔法とは?
角野さん私は35歳でデビュー作『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』を書きましたが、それまで物書きになるなんて考えたこともありませんでした。ところが20代の時にブラジルに暮らした経験を買われて、ノンフィクションを書いてみないかと言われたんですね。書き慣れていないから、最初は書けなくてね。でも何回も書き直していても飽きることがなくて、書いている間は面白くて気持ちがとっても爽やかで……そんな経験は初めてでした。その時に一生書いていこうと。プロになれなくても、書くことで自分の時間を過ごしたいと思ったんです。私にとって、あれが魔法にかかった瞬間だったのでしょうね。
そんな風に自分が面白いと思い、飽きることがないものは大切にしたほうがいいんじゃないでしょうか。それを発見するには好奇心、それから冒険する心が大事だと思いますね。デビュー作がノンフィクションだったので、今度は物語を書きたいと思って、7年後に初めてフィクションを出版するまでの間、毎日書いていたんですよ。まだ子どもが小さくて目が離せないので、画板を首にかけてね。
−−画板の上での執筆が角野さんの原点なのですね。
角野さんそうですね(笑)。今もバインダーボードを膝に乗せて物語のきっかけになる絵を描いたり、アイデアを書いていますから。机の前に座ると構えてしまうので、何気なく「何でも書いていいのよ」っていうスタイルを作っておくんです。

■日常の中のファンタジーを描く

−−今回の映画についても伺わせて下さい。『魔女の宅急便』が実写化されると聞いた時、どんなお気持ちでしたか。
角野さん私が描いているのは全く別世界ではなくて、日常の中のファンタジーなんですね。そういう風に描いているので、主人公のキキが使える魔法は一つだけ。かぎりなく普通の女の子と同じ設定なんです。だから実写で、生身の女優さんがキキになって空を飛ぶ姿を見てみたいなという気持ちはありました。
−−ご自身もナレーションを務められ、出演もされていますね。
角野さんお恥ずかしいですが(笑)、何でも新しいことに出会うのが好きなので、映画の現場は楽しかったですね。一人前の魔女になるために親元を離れる際、キキは「心配なんてしてないわ。今は、贈り物のふたをあけるときみたいにわくわくしてるわ」と言いますが、新しい何かに出会う時には、いつもそういう気持ちです。だから旅も大好き。もちろん失敗することもありますよ。キキが空から落ちるようにね。でも、まずやってみようと思う。臆病なくせに大胆なので、いつも足を踏み入れた後で尻込みするんですけれど(笑)。
−−なるほど(笑)。先ほど“日常の中のファンタジー”とおっしゃいましたが、迷ったり悩んだりするキキの姿は、まさに私たちと同じだなと感じます。物語を書く上で、リアリティは大切なのでしょうか。
角野さんファンタジーだからこそ、全くリアリティがなかったらつまらないものになると思いますね。登場する人たち、動物にしてもリアリティがなければ共感は呼ばないでしょう?
−−キキが暮らすコリコの町の人たちも「こういう人、身近にいるな」と感じさせてくれますね。
角野さん今は町の中であまり交流がなくなったので。私が育った東京の下町にも、20代の頃に暮らしたブラジルの下町にもざっくばらんな町の人たちの交流というのがあって。その体験はこの物語の中に入っています。
−−ご結婚後間もなく、ブラジルに移住されたそうですね。
角野さん1959年から2年間暮らしました。『魔女の宅急便』の1巻目に、コリコの町にやって来たキキがこれから暮らす部屋の窓を開けるシーンがあるのですが、私もブラジルで同じことをしたんですよ。最初は言葉も通じなくてお金もなくて、日本に帰りたいと思って閉じこもっていたけれど、ある日、窓を開けたらすーっと風が入ってきて。その瞬間「ここで私は生きて行ける」と思った。以来、自分から外に出て行くようになりました。あのシーンは遠くから東京に出てきて一人暮らしを始めた人や、留学したことのある人に共感されているようです。
−−コリコの町で“魔女の宅急便”を始めたキキはさまざまな人々の思いを運びながら成長していきます。そして第6巻では、キキの双子の子どもたちのひとり立ちの時も描かれていますね。
角野さん6巻で終わりにしたのは、もっと書き続けることもできるとはいえ、自分が70歳を過ぎたので、物語が途中で終わることがないように一応完結しようと思ったことが一つ。それから5巻目の終わりに次は15年後から書くと宣言してしまったので、覚悟を決めたところもあります。  私はずっと魔女はどうして女だけなのか、男の人は魔法が使えないのかと思っていて。キキの子どもたちを男女の双子にすれば、女の子は魔女の修行に、男の子は自分の魔法を見つけたとは言い切らないにしても、それをこれから探しに行くような物語が書けるなと思ったんですね。男の子にも魔法はあるはずですから。
−−キキに励まされ、一緒に成長した読者がたくさんいると思います。あらためて、角野さんが思う物語の魅力とは?
角野さん物語は生きる力を与えてくれるものですよね。主人公に心を乗せて、自分を重ねていくことで、また違う物語が生まれて心が解放されていく。自分を見返し、生き生きとなれる、物語にはそういう力があると思います。
このシリーズも、キキと一緒に空を飛んでいる気持ちで読んで頂けたらうれしいですね。実は今『魔女の宅急便』のスピンオフを書いているんですよ。シリーズを読み終えた方から「キキの結婚式はどうでしたか?」といったお手紙をたくさん頂いて。他にもオソノさんの青春時代のエピソードなど、書いていないお話がたくさんあるので、短編集としてまとめるつもりです。
−−それはとても楽しみです!本日はありがとうございました。
 

【取材後記】
最新刊『ナーダという名の少女』も出版されたばかりの角野さん。「“ナーダ”というのはポルトガル語で“何もない”という意味で、何もないという名の15歳の少女の物語です。舞台は現代に置き換えていますが、ブラジルで出会った友人を沈めた形でモデルにしています」とのこと。子どもだけでなく、大人も読むたびに新たな発見があり、キキに元気をもらえる『魔女の宅急便』と合わせておすすめです!
【取材】/宇田夏苗


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内容紹介
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