- 窪美澄(くぼみすみ)さん
- 1965年、東京都生まれ。短大中退後、アルバイトを経て広告制作会社に勤務。その後フリーの編集ライターを経て、2009年「ミクマリ」で第8回女による女のためのR‐18文学賞大賞を受賞、デビュー。受賞作を収めた『ふがいない僕は空を見た』で2011年山本周五郎賞を受賞。また同書は本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10第1位、2011年本屋大賞第2位に選ばれた。2012年『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞を受賞。
インタビュー
■登場人物を今よりも少し明度、彩度の上がった世界に連れて行ってあげたい
- --本作は、セックスレス、三角関係など、愛と性について少し重いテーマを扱っていますね。
- 窪さんこれは私が性的なものを描きたかったというよりは、R-18文学賞という性をテーマにした文学賞でデビューしていることによりますね。R-18文学大賞を受賞すると、官能小説特集などでお声がかかるようになるんですよ。最初の一遍『なすすべもない』は、官能小説特集に掲載する作品として書いたものなので、セクシュアルなシーンもちょっとエッジが立ったものになっていますね。
- --窪さんはもともと、育児雑誌のライターをされていたということですが、その時の経験も本作に活かされているのでしょうか?
- 窪さん育児雑誌で、産後のセックスレス等について特集することがあるんですが、電話取材すると堰を切ったように話しだす方って、結構多いんです。旦那さんにも友達にも言えない、でも顔も知らない私になら話せるんでしょうね。そういう取材を通じて、セックスレスの問題は結構根が深いなというのは感じていました。あとは私自身も出産経験があるので、性のことを書くときには、必ずそのあとに出産その他の現実があるんだよ、っていうことを書きたいんですね。ただ2人が恋愛して、燃え上がってセックスしました、では終わらないと思うので。
- --『ふがいない僕は空を見た』等と同じく、本作も複数の視点から語るスタイルですね。
- 窪さん現実の世界でもそうだと思うんですけど、物事って色んな見方ができると思うんですね。ある出来事が、各登場人物によってどういうとらえられ方をするのか。その違いに面白さがあるとも思うので、様々な視点から1つの出来事を切り取るのは、私の作品のこだわりかもしれないですね。
- --作品を読んでいると、主人公と同じ経験がないにも関わらず、ものすごく共感できる部分があるのが不思議でした。なぜここで、という箇所で涙があふれてきて。
- 窪さんそれは他の方にもよく言われますね。登場人物が、ワンルームマンションで1人、ペットボトルのとぷんていう音に耳を澄ませるシーンがあるんですが、その音を拾った登場人物に泣きました、とかね。
- --そうですね、そういうちょっとしたシーンに、既視感を覚えるのかもしれません。
- 窪さん私はディティールを細かく書くタイプの作家なので、そこに共感を得られているとすればうれしいですね。人って、何を言ったかよりも、ちょっとしたことにその人らしさが出ると思うんですよ。普段とても優しい人が、物を落としたときに「ちっ」って顔をしたとか。これはあくまで例えですが、やっぱり細部に宿るな、人は、と思っています。だから、ディティールを書くのは好きだし、書かないと物語にならないと思っているので、そこは意識してしつこくしつこく書いてますね。楽しい作業なんですよ、粗削りの彫刻に磨きをかけていくような感じでしょうか。
- --そういったディティールへのこだわりもさることながら、登場人物が苦しみながらも、最後には救いがある、というのは窪さんの作品の特徴でもあるように感じます。
- 窪さん小説の中であっても、1人の人間を生み出したという責任感は感じるんですよね。書いている時は、私の妄想の世界の人物でしかないのに、小説として世に生み出された瞬間に、読んだ人それぞれの中で登場人物が生きてるんですよね。だから私が生み出した人物である以上、ないがしろにはできないし、最終的には今よりちょっと明度とか彩度が上がった世界に連れて行ってあげたいんです。
- --そして本作『よるのふくらみ』もしかり、窪さんの作品はタイトルがとても詩的で印象深いものが多いですね。
- 窪さんありがとうございます、実はいつもタイトルから先に決めることが多いんですよ。むしろ、タイトルが決まらないと書けないんです。タイトルを先に決めるのは難しいんですけど、決まると書けるんですよね。でもタイトルを決める時点では、作品の結論とかテーマが定まっているわけじゃないんです。何かもやもや、ぼやぼやした、イメージ、作品の空気みたいなものを言語化したのが、私の作品タイトルですね。
- --空気感という意味では、男性の写真を使った装丁も、本作の空気感を見事に表現していますね。
- 窪さんこれは森栄喜さんという、今年の木村伊兵衛写真賞受賞された方の作品なんですよ。装丁案をいくつか見せていただいたんですけど、ダントツで森さんの作品でしたね。この首すじ、萌え角度、エロエロですよね。このエロさがわからない、という人もいるんですが、朝井リョウさんは、すぐ反応してました(笑)。このエロさを理解できるのは、生命としてのエロさを感じる受容体があるかないか、なのではないか、と。
- --本作を執筆された2010年〜2013年の間、東日本大震災など様々なことがありました。窪さんご自身も『ふがいない僕は空を見た』で2011年山本周五郎賞を受賞されるなど、変化の大きかった3年間だと思います。
- 窪さんそうですね、この3年で自分の人生もものすごく変化しました。2010年に作家としてデビューしたのですが、2011年に発生した東日本大震災は、作家としてフィクションを書く意味、について考えさせられましたね。フィクションの強度みたいなことを。フィクションは東日本大震災のような現実には、打ち勝てない。じゃあどうして書くんだ、と。
■フィクションを書く意味について考えさせられた東日本大震災
- --窪さんなりに、どのようにお考えになったのでしょうか?
- 窪さんフィクションは、嘘の物語ですけど、その嘘でしか人は癒やされない部分があるのかな、と思ったんですね。自分が体験したことじゃなくても、フィクションを読むことで心がほどけることもある。それがフィクションを書く意味なのかな、と思います。
- --以前から、小説家になりたいという気持ちはあったのでしょうか?
- 窪さん書きたいとはぼんやりと思ってましたけど、まさか書けるとは思っていませんでした。でも35歳過ぎて、小説書かないと死ぬ間際に後悔するかな、と思ったんです。言いたいことがいっぱいあるのに、このまま死んでいくのかなって(笑)。やっぱりライターをする中で、小説やフィクションにすごく自由度を感じていたんですね。ライターっていうのは、基本与えられた枠の中で書くので、破綻はできない。でもフィクションなら、雑誌に掲載できないことだろうが、人に言えないことだろうが、何でも書ける。ライターの仕事も好きだったんですよ、取材したことをクッキー型で抜くような気持ちよさもありますし。でも型で抜いた余白の部分に面白さ、美味しさがあるなと、思ったんでしょうね。
- --今後、書きたいテーマなどはありますか?
- 窪さん女の一代記ですね。時代をまたいで生きる人を書きたいんですね。時代の変化によって、否応なく変わっていく、変わらされていくことについて、書けたら面白いだろうなと。こう言うと、女性を描きたいと思われがちなんですけど、書いてて楽なのは実は男性なんですよ。気持ちがわからないからこそ、自由に書ける。だから性描写でも男の人を書いてるほうが、楽なんですよね。
- --小説執筆の傍ら、書店でイベントも手がけてらっしゃるとか。
- 窪さん下北沢の「本屋B&B」という書店で、3ヶ月に1回程度、知り合いの作家さんなどに話を聞くイベントを開催しています。今、ライターの仕事をしていないので、取材したくてしょうがないんですね(笑)。皆さん、なかなか作家の生の声を聞く機会ってないと思うんですが、作家の方って面白い方が多いんですよね。イベントで話を聞いて、本を読みたくなった、という声もあるので、コツコツではありますが、出版業界の裾野を広げるお手伝いができればな、とも思っています。
- --「本屋B&B」のイベントも、いつかお伺いしたいです。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
【取材】Shinobu Nakagami













