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北村薫さんインタビュー「八月の六日間」

40歳目前、文芸誌の編集者として忙しい日々を送る“わたし”は充実感を得ながらも、上司と部下の間に立たされたりと、心に疲労がたまる日々だ。3年前、一緒に暮らしていた彼と別れてからはプライベートもいまひとつ。そんなある日、同僚に誘われて登った山で奇跡の一瞬に出逢う。以来、山に通い続ける中で、自然の美しさ、恐ろしさ、個性豊かな人々との一期一会が“わたし”の心をほどいていく……。アラフォー女性のリアルな日常と複雑な心情を、山の魅力とともに描いた、北村薫さんの3年ぶりの最新小説『八月の六日間』。山歩きの楽しさが満載、読めば疲れ気味の心も軽くなる新刊について、北村さんに伺いました。

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八月の六日間
八月の六日間
不器用でも頑張る〈働き女子〉応援!! 等身大でリアルな山女子小説! 40歳目前、文芸誌の副編集長をしているわたし。仕事に恋愛、人生ちょっぴり不調気味な最近だ。だが初心者ながら登り始めた山々で巡り合った四季の美しさと様々な出逢いに、わたしの心は少しずつ開かれてゆき……。北村薫さん3年ぶりの最新小説です。
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人生の大切なことは、本とお酒に教わったーー日々読み、日々飲み、本創りのために、好奇心を力に突き進む女性文芸編集者・小酒井都。新入社員時代の仕事の失敗、先輩編集者たちとの微妙なおつきあい、小説と作家への深い愛情……。本を創って酒を飲む、タガを外して人と会う、そんな都の恋の行く先は? 本好き、酒好き女子必読、酔っぱらい体験もリアルな、ワーキングガール小説。
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昭和40年代の初め。わたし一ノ瀬真理子は17歳、千葉の海近くの女子高二年。それは九月、大雨で運動会の後半が中止になった夕方、わたしは家の八畳間で一人、レコードをかけ目を閉じた。目覚めたのは桜木真理子42歳。夫と17歳の娘がいる高校の国語教師。わたしは一体どうなってしまったのか。独りぼっちだーでも、わたしは進む。心が体を歩ませる。顔をあげ、『わたし』を生きていく。
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鷺と雪
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昭和十一年二月、運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」ほか、華族主人の失踪の謎を解く「不在の父」、補導され口をつぐむ良家の少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」の三篇を収録した、昭和初期の上流階級を描くミステリ“ベッキーさん”シリーズ最終巻。第141回直木賞受賞作。
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プロフィール

北村薫(きたむら・かおる)さん
1949年埼玉県生まれ。早稲田大学卒。高校教師として教えるかたわら、89年『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で 第44回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)、2006年『ニッポン硬貨の謎』で第6回本格ミステリ大賞(評論 ・研究部門)、09年『鷺と雪』で第141回直木賞を受賞。その他の著書に『覆面作家は二人いる』『スキップ』『街の灯』『冬のオペラ』『いとま申して 「童話」の人びと』『飲めば都』などがある。

インタビュー

■誰もが心の部品を落としては、また拾って歩いてゆく

--『八月の六日間』を読んでいる間、主人公の“わたし”と一緒に山を歩いている気分でした。
北村さん それは良かったです。実際に山を歩いている読者の方から「山の面白さって、本当にこうなんだよね」などと言って頂けることも多く、書き手としてはとてもありがたいですね。
--“-山に出る前日に“わたし”が服装の準備をしたり、お菓子を小袋に詰めたり、合間に読む本を選んだりするところから、ワクワクさせられました。
北村さんああいう準備段階が、すごく楽しいですよね(笑)。そこはぜひ書こうと思っていた部分です。
--そうしたディテールにはじまり、北アルプスに裏磐梯、八ヶ岳への登山の描写の臨場感に惹き込まれたのですが、ご自身は“山男”ではないとか?
北村さん本格的には登りませんね。この本を書いている間は、もっぱら“こたつ登山”でした(笑)。
--こたつですか!(笑)。
北村さんそうですね(笑)。でも、もちろん僕も“わたし”と山を歩いている気持ちでしたよ。
--そもそも山を題材に小説を書こうと思われたきっかけとは?
北村さん知り合いの編集者の一人に山好きの方がいて、彼女からいろいろ話を聞くうちに「小説を描けるな」と思ったのが始まりです。僕も若い頃に簡単な山歩きをしたことはあって、その時を思い出してみても、登ったり下りたりという単調な作業の繰り返し。他にやることがないので、いろんなことが頭に浮かんでくるだろうなと。主人公が山という非日常に身を置くことで、さまざまな人生の思いが、非常に真に迫って書けるだろうと思いました。
--主人公をアラフォーの女性にしたのはなぜですか?
北村さんそうすることが物語に必要だと思ったからです。これよりも若いと、人生をあれこれ考えるというより、ガムシャラに行動したりするものですが、40歳前後というのはそれなりに人生経験もあり、ある程度自分の道も見えてくる時期なので、人生についての普遍的な物語が描けるなと。40代の主人公は『スキップ』でも書いていますが、自分が書きたいテーマが決まると、それを描くために必要な人物像が浮かんでくる。そこから「この人を書こう」と気持ちが入るのが毎回楽しみでもありますね。
--物語の最初、山に出かける前に“わたし”が、部屋の片隅で“何か”の小さな部品を見つける場面がとても印象的です。
北村さんところが、それがどこから欠け落ちたのかが彼女にはわからない。でも、いつか分かる時があるかも知れないと、とりあえず置いておくんですね。それを最終的に回収する物語にしようと思って、あの場面を書きました。“わたし”にかぎらず、誰しもが人生すべて明るく楽しいというわけではなくて、みんなどこかに欠落や苦しみを抱えているというね。流れる時の中で、そうしたものを受け入れて前に進む物語を書きたかったのですが、だいたい思った通りのところにたどり着けたかなと思います。

■山は心を取り戻せる、タイムマシーンのようなもの

--“わたし”は山を歩きながら過去の自分を振り返り、辛い気持ちを思い出しながら前に進んで行きます。登山の過程と主人公の内面を重ねていく構成は、最初から意図されていたのでしょうか。
北村さん書きたいことをどう表現するかを考えたら、自然にそうなりましたね。高校時代の思い出や彼との別れなど、苦いエピソードは登山の苦しいところに当てはめていって。実際に疲れてくると、そんなことが浮かんでくると思うんです。
--“わたし”が山で出逢う人々は、例えば羊羹を丸かじりしながら登山する女性など、皆個性豊かですね。初対面なのに一瞬で心が通い合ったり、人間同士の距離感も心地いいですね。
北村さん山というのは、ある意味、タイムマシーンのようなもの、無心になって子どもに返れる場所なのだと思います。もし下界で出逢ったらうっとうしいと感じてしまう人にも、自然に入っていけるような。ちなみに羊羹をかじる女性のことは、実際に聞いた話です。山を知らない人には非常に面白いエピソードですよね。それからこの本の中に出てくる「麝香鹿(じゃこうじか)とアン・ブタリスの話」という絵本の夢は、実際に私自身が見たものなんですよ。あまりに不思議なタイトルだったので、目が覚めた時に記しておいたんですね。
--なるほど。本作に限らず、『飲めば都』でも編集者を主人公にされていますが、編集者というのは、やはり面白い存在でしょうか。
北村さん普段接しているのでリアルな姿が見えますし、いろいろなタイプの人がいるのがいいですね。この物語の中で主人公は副編集長から編集長になるんですね。ずっと上司に困らされていたのが、自分がトップになるとつい「私がやった方がいい仕事ができる」と思ったり。そうした思いは、おそらくどの職場にも共通するのではないでしょうか。教員もそうですね。生徒に分からせないといけないのに、つい急いでしまう。その方が楽なんですね。
--“わたし”は30代の終わりに山と出会い、やがて40代を越えていきます。そんな中、別れた恋人の近況を知ることになるわけですが……それをきっかけに過去の恋愛を乗り越えてゆく彼女の姿も心に残りました。
北村さんかつての恋人と再会した彼女は、時を経過したからこそ、あの言葉が自然に言えるんですね。それは自分、そして他を許す言葉でもあるわけです。あの言葉がなかなか見つからなくて、3分の2ぐらいを書き終えた頃に浮かんできました。
--北村さんが描く女性たちは「これは私だ」と感じさせてくれます。なぜそれほど、女性の気持ちが分かるのですか?
北村さんきっと人間だからでしょう。でもまあ、そうなるようにいろいろ考えてはいますけれど(笑)。その物語が自然に書きやすいようにしているだけで、それを読んで頷いて、本を閉じてもらえたら作家としてはいいわけです。小説の功徳は「ここに自分がいる」と何かしら共感してもらうこと。それが不思議なことに救いになるっていうことがありますよね?
--この本は、まさにそんな救いを与えてくれる1冊だと思います。最後に『八月の六日間』どのように読んでもらいたいでしょうか。
北村さん映画、音楽、美術などさまざまな表現手段がありますが、本は自分にとってかけがえのないもの。本を愛する方に読んで頂きたいですし、主人公と一緒に山を旅して頂けたら嬉しいですね。

【取材・文】宇田夏苗

八月の六日間
八月の六日間

内容紹介
不器用でも頑張る〈働き女子〉応援!! 等身大でリアルな山女子小説! 40歳目前、文芸誌の副編集長をしているわたし。仕事に恋愛、人生ちょっぴり不調気味な最近だ。だが初心者ながら登り始めた山々で巡り合った四季の美しさと様々な出逢いに、わたしの心は少しずつ開かれてゆき……。北村薫さん3年ぶりの最新小説です。

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