- 誉田哲也(ほんだ・てつや)
- 1969年東京都生まれ。学習院大学卒。2002年『妖の華』でムー伝奇ノベル大賞優秀賞、2003年『アクセス』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞。『ストロベリーナイト』を第一弾とする姫川玲子シリーズ、『ジウ』シリーズなどの警察小説、『武士道』シリーズ、『柏木夏美』シリーズなどの青春小説で多くの読者を獲得する。近著に『増山超能力師事務所』、『Qrosの女』、『ケモノの城』、『歌舞伎町ダムド』など。
インタビュー
■今回、もっとも悩んだのは“人事”です
- --『インデックス』には2011年以降に「小説宝石」や「宝石 ザ ミステリー」などに掲載された、姫川玲子シリーズの8つの短編がまとめられていますね。
- 誉田さん玲子シリーズでは『シンメトリー』に続く、2冊目の連作短編集になります。初出の順番通りに収録しているので、時系列としては、3作目までは最新長編『ブルーマーダー』以前の、表題作でもある4作目の『インデックス』から、それ以降の話ですね。
- --短編を書くにあたっては、最終的に1冊にまとめることを念頭に何かテーマを置かれるのですか。
- 誉田さんいや、そこまで考えていないですね。同じシリーズの短編であること以外、8作すべてに通底する主題のようなものはないです。短編も長編と同じように、1作ごとにテーマやメッセージを設定し、始まりと結末を考えていくだけで。だからエピソードの着想の仕方も、それぞれに違いますよね。取込み詐欺を扱った『アンダーカヴァー』は警察の方と話したことがきっかけになっていますし、薬物による変死体案件を描いた『女の敵』は、実際に起こったある芸能人絡みの事件がヒントになっていたりします。
- --そして今回、警視庁捜査第一課から所轄に異動になっていた玲子が、ついに本部に復帰を果たしましたね!
- 誉田さん戻りましたよね。玲子をどうやって本部に戻すかについては、実はかなり悩んだんです。この本の中にも書いた通り、本来は一つ階級が昇任して戻るのが一番きれいなのですが、主人公なので少しぐらい特別な計らいがあってもいいかなとか。でも一度その手を使ってしまうと、他の姫川班のメンバーを集める時に使えないなとか、いろいろ考え抜いた結果、あのような形になりました。
- --いかにも玲子らしい「おっ!」と感じさせる展開で、そこはぜひ読んで頂きたいところです。玲子と菊田のその後についても多くのファンが気になっていたと思いますが、二人はついに再会しましたね。
- 誉田さん菊田が本部に戻ってきましたからね。この人事を考えるのもまた大変で。編集担当者と話し合い、警察OBの方にも相談にも乗って頂いて。だから、この作品で何が苦労したかといえば、間違いなく“人事”です(笑)。
- --まさに“人事”を考えた執筆過程でもあったのですね。人事しかり、誉田さんの小説を読むたびに、警察組織の描写のリアリティに興味をかきたてられます。取材はどのようにされているのですか。
- 誉田さん警視庁が発表している公式の資料を読めば分かかることももちろんあるのですが、例規や訓令って書面だけで見ても理解できないんですね。ですから実際にどう運用するのかについては、警察OBの方などに話を伺って、できるかぎり間違いがないようにと思って書いています。ただ玲子の異動については、書き終えた後に警察関係の方から「玲子は本部での任期途中で所轄に移った特例なのだから、そのまま戻せばいいんだよ」と言われて、「ええっ~あっさり戻れたのか」と思いましたね(笑)。
■犯罪に対して人一倍怒りを持ったヒロイン
- --本作の中で玲子が直面する事件は、児童虐待や借地権をめぐる問題、外国人による強盗殺人と、私たちが普段目にする事件ばかりですね。
- 誉田さん玲子は犯罪に対して人一倍怒りを持っているので、それが活かせる事件を扱ってほしいなと。例えば強盗殺人を描くにしても、ただ「お金が欲しかった」という動機だけでは、小説として面白くないと思うんです。自分自身も犯罪被害者であるからこそ、玲子が扱う事件にはもっとメラッとくるものが欲しい。今回収録した短編『アンダーカヴァー』は、そのアンチテーゼとして描いた作品でもあります。この犯人は、まさに金銭目的だけが犯罪の動機でもあって。結果的に相手を自殺に追い込んでいるのに同情もしないし、そもそも人としての良心すらない。だけどこうしたタイプの犯罪者というのは、『ケモノの城』でも書いた通り、一定の割合で存在しているのだろうなという思いはあります。
- --『アンダーカヴァー』も、壮絶な監禁事件が題材の『ケモノの城』にしても、犯人に対して感じるのは「これほど恐ろしい人間がいるのか」ということです。とはいえ現実を見ても、そうした常識では到底理解ができない事件がたくさんありますよね。
- 誉田さんたくさんあるし、僕も含めて、自分が常識的なマジョリティーに属しているとは誰も言い切れないとはいえ、「この人は何の目的で、こんなことをしたのか?」と思わざるをえない事件は多々あって。理解できない人がいても、ある程度努力して分かり合おう、落としどころを見つけようというのが、まっとうな社会なわけですが、それを一切受け付けない人間もいると僕は思っています。僕は『ケモノの城』で、監禁や殺人の残酷描写が描きたかったわけではないんです。おぞましい現実というのが実際にあるわけで、それに目を向けることも大事ではないかと思い、あの小説を書きました。 玲子の話に戻すと、そういった意味で彼女はまだ純粋で「そういう相手であっても、もっと説得すればわかるのではないか」と思っているんですね。裁判や法制度自体がそういう前提で作られたものであり、みんなが社会や人間を達観し過ぎても困るので、玲子はそれでいいとは思うんですけど。特に警察官はそうあるべきだし、犯罪被害者でもある玲子はなおさら、犯罪心理の解明に情熱を持つのは当然ですよね。あとはやっぱり、弱かった頃の自分を非常に憎んでいるから、否定したいからこそ、強くありたいと思っている気がします。
■当然あることを掬いとって描く
- --本作では、新たな姫川班のメンバーたちも登場しますね。クールだったりやさぐれていたり、嫌みな熟女だったりと、いずれも一筋縄ではいかない面々にしたわけとは?
- 誉田さん玲子が異動してきても、果たして歓迎会をやったのか?という雰囲気ですよね(笑)。ただまあ、玲子が心地いい部分は菊田が戻って来て担ってくれるので、後はギスギスした人間関係にしても面白いかなと。
- --いつも実在の俳優の方たちをモデルに登場人物を書かれるそうですが、竹内結子さん主演でドラマ・映画化された今、執筆する際の玲子のモデルとは?
- 誉田さん実は今は、小説を書く上でモデルにしている女優さんと、ドラマ・映画版の竹内さんとの二重構造になっているんですよ(笑)。一応リストを作って、両方見ながら書いています。この作品にかぎらず、シリーズを続けていく間には、最初に自分がイメージした俳優さんも年齢とともに変化していくので、ずっと同じ人がモデルではないんです。玲子も今や33歳とキャリアを重ねているので、シリーズ開始当時の松島菜々子さんから代変わりして、僕の資料上ではすでに三代目になっています。
- --つまり、常に生身の人間を書かれているんですね。
- 誉田さんそういうことになるでしょうね。逆に声を聞いたことも、姿を見たこともない人間を描くのはどうかなと僕は思っていて。例えば「金閣寺殺人事件」を書こうとしたら、金閣寺に行くだろうし、最低でも写真を見るくらいはしますよね?それに近い感じですね。玲子シリーズの世界も自分が作っているというより、常にどこかにあって、僕はそれを覗き見しているような。だから玲子に対しても“こうあって欲しい”ということはなくて、『ストロベリーナイト』で初めて登場してから、さまざまな事件を経て今の玲子がいる。『ブルーマーダー』の玲子は、『ソウルケイジ』や『インビジブルレイン』での経験が積み重なって変わっていった彼女なので。その間にはふと、かつて愛した牧田のことを思い出したり、旧姫川班のメンバーがいない寂しさを感じたりするだろうし。そうした当然あることを、掬いとって書いている感覚ですね。
- --今のお話を伺って、だからこそ、私たち読者が玲子の人生に自然と寄り添えるのだと思いました。さて、気になるのが玲子シリーズの今後なのですが。
- 誉田さん来年、書き下ろしの長編を出す予定です。来年は書き下ろしの年にしようと決めて、玲子シリーズも含めて、長編を3冊書きます。といってもできたら出すというだけで、いつまでかかるか分かりませんが(笑)、ここ数年連載に集中していたので、じっくり長編の書き下ろしに挑んでみたいなと。玲子シリーズの新作は、玲子がすでに34歳になっている『感染遊戯』の少し手前の話になると思いますよ。
- --本部に戻った玲子の活躍が楽しみで仕方ありません。今日はありがとうございました。
【取材】 宇田夏苗
- 内容紹介
- 姫川玲子、捜査一課復帰へ!続発する事件、終わらない捜査。所轄でも全力疾走する玲子から、目が離せない。
ストロベリーナイトシリーズ、2年ぶりの最新刊!













