- ヒグチユウコ(ひぐち・ゆうこ)さん
- 画家。東京都在住。多摩美術大学油画科卒業。1999年より東京を中心に定期的に個展を開催しつつ、ファッションブランドや画材メーカーなど、さまざまな企業とのコラボを展開。著書に作品集『ヒグチユウコ作品集』(グラフィック社)、絵本『ふたりのねこ』(祥伝社)、塗り絵本『Museum』(グラフィック社)など。2015年1月よりオリジナルブランド「Gustave ギュスターヴ」を展開中。https://higuchiyuko.com/
インタビュー
■ 愛猫ボリスとの運命的な出会い
- -- 『せかいいちのねこ』には個性豊かな猫たちが登場しますが、それぞれモデルがいるそうですね。
- ヒグチさん アーティスト仲間の猫や子どもの頃に一緒に暮らしていた猫など、ほとんどが実在の猫たちです。たとえば「大きな旅のねこ」は、私の身近に飼い主と本当に遠くまで旅する猫がいて。一緒に飼われている犬を引き連れて、普通に観光地を散歩していたりするんですよ。モデルの中には有名な猫もいて、猫関係のツイッターやブログなどを見ている方は「あのうちの子だ!」と分かるでしょうし、ムック『I LOVE猫絵本』には本人(猫)たちも紹介されています。それぞれのキャラクターは、飼い主の方の職業からイメージを膨らませたりしていますね。
- -- そもそも猫を描くようになったきっかけとは?
- ヒグチさん 私は今でこそ“猫の人”だと思われていますが、美大時代は人物ばかり描いていました。猫が面白いと感じ始めたのは、生後3ヶ月でボリスを引き取ったことが大きいです。子どもの頃から家には常に何匹か猫がいたのですが、実家を離れてから飼っておらず、でもやっぱり猫が欲しくなって。まずペット可能なマンションに引っ越し、そこで最初に出会った、保護を必要としている子を引き取ろうと決めました。
- -- お店で見つけたり、人からもらったりすることは考えなかったのですね。
- ヒグチさん 自然に出会いたいと思ったんですよね。だから、猫を求めて近所を歩いて回っていたことも(笑)。そんなある日、里親募集の張り紙で運命的に出会ったのがボリスです。自分で世話をした初めての猫でもあり、私は家で創作している時間が長いので、これまでとは違った猫との濃密な関係が生まれて。そこから絵の世界がどんどん広がった感じです。猫は与えられた環境に慣れていく動物ですし、人からみれば細かいところにこだわらないようにも見えるので、絵のモチーフとしては自由というか、いいところがありますね。
- -- 巷では空前の猫ブームと言われていますが、猫を愛するヒグチさんから見ていかがですか。
- ヒグチさん 私はずっと猫派だったわけではなくて、子どもの頃は犬を飼ったこともありますし、動物が好きなんですね。だからこそ、動物とはある日出会って、飼わざるを得ないような、それこそ「恋人ができちゃった」みたいに出会いたいんですよ。野良犬は保護の対象になってしまうので、そういう出会い方をするのがなかなか難しく、猫を飼う人が増えているところもあるのかなあと。でも、少し前は犬がブームになったこともありましたよね。ただ、動物と暮らすとなれば世話をしないといけないし、責任が生まれるので、ブームみたいなものにあまり流されないで欲しいなとは思います。
■ 自分のフィルターを通して描くほうが面白い
- -- 絵本の物語のテーマやアイデアは、どのように生まれるのですか。
- ヒグチさん 私の場合は描きたいシーンがまず浮かんで、そこからお話が自然に生まれていく感じです。タイトルも一瞬で決まることが多く、『せかいいちのねこ』もそうでした。月刊MOEの連載として描き始めましたが、毎号、全体の内容はなんとなく見えていながらも、その時々で考えていた気がします。
- -- 絵本を描く際、読者はどれくらい意識しますか?
- ヒグチさん 正直、読者対象はあまり考えていないんです。お話というのは、読む方によってどうとでも受け取り方が変わるので。書評や楽天ブックスなどのレビューを見ても、「あの本をこんな視点で見るんだ」とか、人それぞれに意見は違うのだなと思います。だから言葉ってとても難しい。『せかいいちのねこ』を読んで、偽善だと感じる人もいるでしょうし、それでもいいと私は思っています。ただ今回は、あまり悲しいことは描かないようにはしました。
- -- その点は、今回と同じニャンコが主人公の絵本1作目『ふたりのねこ』と少し違うのでは?
- ヒグチさん 私自身は、あのお話も悲しい結末にしたつもりはなくて。横たわったまま起きない野良猫は飼い主に抱かれて去っていったけれど、その先どうなったかは誰にも分からない。でも、ニャンコは「生きている」と信じているんですよね。
- -- だから切ない気持ちになるんですね。そして『せかいいちのねこ』を読み終えた後は、あたたかな気持ちに包まれます。あらためて、この絵本に込めた思いとは?
- ヒグチさん 今回は「自分の価値はどこにあるのか」をテーマに描きました。ぬいぐるみのニャンコは持ち主の男の子にずっと大事にされたくて本物の猫になりたいと願い、猫のヒゲを集めれば本物になれると信じて旅に出ます。でも、旅を通して自分が完璧だと思っていた本物の猫たちにも、実はいろいろな悩みがあると知って、最終的に、自分はこれでいいんだと気付くという。そういう意味では、普遍的なテーマでもありますね。
- -- ヒグチさんが描く猫たちはたんなる擬人化とも違う、まさに猫であると感じさせつつ、人間のようでもあり……不思議な魅力がある気がします。
- ヒグチさん 私は子どもの頃から絵を描いていて、動物や自然が好きだったので描くことが多かったんです。でも、子どもだと技術がないから巧くは描けない。本物みたいに美しく描写できないことがすごくもどかしかったのですが、描き続けるうちに、ある程度テクニックが身につけば、緻密に描けると分かってきて。それからは、自分のフィルターを一度通してから表現したほうが、面白いと感じるようになりました。だからオリジナルブランドのキャラクター「ギュスターヴ」も、身体がタコとヘビで顔はうちの猫なんですよね。
- -- 愛らしさとダークさ、シュールさが共存する世界の源はどこにあるのでしょうか。
- ヒグチさん 自分の中にいくつかの面があって、シュールなものもかわいいものも共存しているというのか。私は恋愛映画とか全然好きではないですし、ある意味、興味の対象は限られているのですけれど、ホラーはすごく好きなんですね。ホラーもいろいろあるので、ものによってですが。
- -- 好きな作家さんはいますか?
- ヒグチさん 漫画家では楳図かずおさんや伊藤潤二さんが好きですね。最近は、もっとダークなものを描きたい欲求もすごくあります。
- -- そんなヒグチさんの次回作のご予定は?
- ヒグチさん いろいろなプロジェクトが同時進行していますが、来年早々にMOEで新連載が始まります。またニャンコが主人公で、『せかいいちのねこ』に出てきた猫たちも登場するかもしれません。今後も猫は描いていくつもりですし、まだ描くことができていない猫たちも作品にしていきたいですね。
- -- とても楽しみです!最後にこの絵本をどんな風に読んでもらいたいですか。
- ヒグチさん 受け取り方は人それぞれだと思いますが、少し自信がなくなっている人に読んでもらえたらいいなと。勇気をもらえるかは分からないですけれど、自分が自分であるために必要なものって、結局、自信を持つことなのかなと感じてもらえたら嬉しいです。
【取材】 宇田夏苗
- 内容紹介
- 「なんてやさしいねこなんだろう。ぼくも あんなやさしいねこになりたい」男の子に永遠に愛されるために、本物の猫になりたいと願うぬいぐるみのニャンコと、旅先で出会うさまざまな猫たちとの心温まる絵物語。猫たちの優しさにふれて、成長していくニャンコ。ほんとうの幸せとは?たくさんの愛らしい猫の姿も楽しめるギフト絵本です。













