- 菊池亜希子(きくち・あきこ)さん
- 1982年生まれ。女性誌でモデルとして活躍する一方、映画・ドラマ・舞台でも役者として活動する。また、著者としても独自の世界観を築きあげている。著書に『菊池亜希子ムック マッシュ』『みちくさ』シリーズ(ともに小学館)、『菊池亜希子のおじゃまします 仕事場探訪20人』(集英社)など。公式Twitter @kikuchiofficial
インタビュー
■子どもの頃の記憶にすっと入っていけるように
- ---- 今回、月刊MOE(白泉社)の季節連載を単行本化するために、文章を一から書き直されたそうですね。
- 菊池さん 1冊の本として出すにあたっては、もう一度自分と向き合って書こうと思いました。まさしく子ども時代の記憶、感情を紐解いていく作業だったので、心身ともに消耗しました(笑)。でもひとつ思い出すとスルスルといろんなことがよみがえってくるんですよ。もともと昔のことを細かく覚えているほうなので、かなり立ち入った個人的な話になっていると思います。
- ---- たんに絵本を並べて解説するのではなく、菊池さんの素顔が見えるのがとても面白かったです。
- 菊池さん だから、いわゆる実用的な絵本ガイドとはちょっと違うかもしれません。私は保育園にも1年弱しか通っていないし、習い事もしていなかったので、子どもの頃は時間が有り余っていました。そのほとんどを絵本に費やしていて。母の影響も大きいと思います。母は毎晩、寝る前に絵本を1冊読んでくれたのですが、「自分で読めたほうがもっと楽しいから」と言って、かなり早いうちから読み書きを教えてくれました。おかげで保育園に入る前に『エルマーとりゅう』を読んでいましたね。
- ---- 小学校低学年以上向けなので、それは早熟ですね。今回の絵本のセレクションはどのようにされたのですか?
- 菊池さん それはもう、思い出した順番ですね(笑)。絵本が好きだと言っても私の場合、いわゆる“オトナが読んでも感動する”というような大人向けのものとは違う。ここに載せたのは、自分の成長過程で出会ってきた、子どものための普通の絵本ばかりですし。だから同世代の方は、ドンピシャで読んでいるものが多いのではないかなと。「ああ、これこれ」と思い出してもらえるはずです。
- ---- どれもおすすめだと思いますが「これはぜひ読んで欲しい」というものがあれば教えて下さい。
- 菊池さんこれからの季節的には児童文学ですが『ハンカチの上の花畑』がおすすめですね。『あしにょきにょき』は連載で取り上げたことで、去年出た続編『あしにょきにょきにょき』の帯を書かせて頂いたんです。子どもの頃に読んだ絵本の新刊が、まさか35年ぶりにこのタイミングで出て、絵のタッチも変わっていなくてびっくりしました。あと『くまの子ウーフ』も私の中ではスタンダードな1冊。『絵本のはなし』の表紙のイメージも、ウーフの吊りズボンです。
- ---- 『おおきなもののすきなおうさま』のページでは、王さま姿の菊池さんが小人になって佇んでいたり、絵本の世界の住人になったような写真も想像力をかき立ててくれますね。
- 菊池さん 絵本の世界をそのまま再現することもできるけど、やりすぎてコスプレみたいになるのはいやだなと思って。今『くまの子ウーフ』を読んでも自分の中にウーフがいるなと感じるので、そういう感覚、絵本の世界にすっと入っていけるような曖昧な感じにしたいなあと思って、そのあたりは丁寧に作りました。
- ---- 手に触った感じ、文字の並びも見ていてとっても心地がいいです。
- 菊池さんイメージとしては国語の教科書です。デジタルで読むのと違い、紙の本は文字の並べ方ひとつで印象が変わるので自然に入ってくるようにしたいと思って。文章も同じで、できるだけ思ったままそのまま書きたかったんです。読みやすくするための文章の整理はもちろん必要でした。でも書き慣れてくると、効率のいい言い回し、組み立て方にしたくなっちゃう。だから変にこねくり回さずに、そのまますっと言葉にしたい。それは文章を書く時にいつも大事にしていることです。
■「いとおしい」気持ちを込めて、初めて絵本を描きました
- ---- 文章を書くのはずっと好きだったのですか。
- 菊池さん すごく好きでした。『絵本のはなし』を書いていた時に、実家に帰って探し物をしていたら、小学校1年生から6年生までの自分の日記が出てきたんです。読んでみたら、今と同じような文体で、感情や臨場感の出し方とか、変わらないものだなと思いました。
- ---- 『はれときどきぶた』のページにはその日記の一部が掲載されていて、日記を添削してくれた担任の先生とのエピソードに思わず胸が熱くなりました。
- 菊池さん
小学1、2年の担任だったその先生に、私はすごく影響を受けていると思います。定年間近の先生で、私はせっせと日記を書いては見てもらうのが嬉しかったのですが、厳しかったんですよね。私が時々手を抜いて書くと、「この時あなたはどう思ったのか」と赤ペンで記されていたりして。だから本当に真剣勝負。定年退職される時には『あなたはきっと素敵に成長するよ。もっともっと力を出せる。応援しています。』と書いてくださって、小学2年生の私を、そこまで信じてくれたんですよね。当時は気づいてなかったけれど、それはすごいことだなあと。
その先生とは小6ぐらいまで文通が続いて、その後、連絡が途絶えてしまったのですが、今もし、私がこうして文章を書く仕事をしていると知ったら、一番喜んでくれるんじゃないかなって思います。 - ---- 文章だけでなく、今回、初めて絵本『ぼくのだいじ』を描かれていかがでしたか。
- 菊池さん 最初は絵本が好きな分、作家の先生をすごく尊敬しているので、自分が絵本を描くなんておこがましすぎると思っていました。それでも描こうと決めて。まずは身近にいる猫と犬のことなら描けるかなと思って、この話になりました。何だろう…絵本のことを考えた時に、「愛おしい」気持ちを思い出したんです。いつも絵本を読んでいた子どもの頃、家族やきょうだいに自分は守られていたんだな、とか。一人暮らしを始めて長いですし、人生の半分ぐらい仕事をしているんですけど、今の私がいるのは、そういった小さい頃の経験があったからだという当たり前のことを思い出して、そういう気持ちを込めてただただ愛おしい、かわいいという感情を描いたつもりです。
- ---- 絵本は今後も描いてみたいですか?
- 菊池さん初めて描いたことで、もっと描きたくなったのは確かです。色の付け方、シーンの配置などまだまだ勉強中ではあるんですけど、描きたいお話はいっぱいあるので。
- ---- この3月には『菊池亜希子ムック マッシュ』のVol.9 も発売になりましたね。楽天ブックスでも『マッシュ』はいつも大人気なんですよ。
- 菊池さん
嬉しいです。楽天ブックスで本を買うとポイントが付くのがいいですよね。今回の『マッシュ』の特集は「わがままなお買い物」です。私は高野文子先生の漫画が大好きで、自分にとって憧れの存在である“るきさん”をテーマにしたファッションページや、高野先生との対談もあります。
「お買い物」をテーマにしたのは、“お金を出して物を買う”ということをきちんと考えてみようと思ったからです。今はお店でもネットでもすでにセレクトされたものが売られている時代ですよね。誰かがいいよと言った物の中から選ぶ。でも物の種類や選択肢の多さに溺れそうな時代だからこそ、自分で選ぶことは放棄したくないなと思うんです。 - ---- ご自身はどうやって物を選びますか?
- 菊池さん手に取った時にそこで終わっていない。その先に何か思いを馳せられる物のほうが、暮らしに入り込んだ時に、新しい景色を見せてくれるのかなと。単純に“作り手の顔が見えるもの”がよいというだけではなく、たとえば古着なら誰がどの時代に着ていたのかなとか、どんな行程を経てここにやってきた服なのかなとか、いろいろな景色が広がるようなものを選びたいなと思っています。
- ---- ただ手に入れるのではなく、そこから生まれる何かを感じる?
- 菊池さんそうですね。一緒に人生を歩んでいける、というと大げさですが。だからまあ、お見合いみたいなものですね(笑)。
- ---- 他に最近気になっているもの、ことはありますか?
- 菊池さん 『マッシュ』に関していえば、次号で10冊目になるので、ちょっと記念号的にしたいと思っています。最近よく考えるのは、「自分がどこで生きていくのか」ということですね。私は岐阜出身で田舎の一軒家で育ったのですが、上京してからはずっとマンション暮らし。便利だし満足もしているけれど、果たしてずっとこういう生活を続けるのだろうかと、ふと考えたりします。私は旅が好きなのですが、観光名所をまわるよりも、その土地の暮らしに少しでも触れたいという気持ちが強いんです。日本でも外国でもそれは変わらなくて、たった一人でもいいから“その町に根を張って暮らしている人と出会う”ということが私にとっては大切なので、たぶん私は人の暮らしそのものに興味があるんだと思います。
- ---- 最後に『絵本のはなし』をどう読んでもらいたいですか。
- 菊池さんこの本は、絵本から広がる嬉し恥ずかしな出来事を、幼少期の心の中を紐解くようなつもりで書きました。だけど、そういったエピソードを知ってもらいたいというよりも、読んだ方々の心の奥で眠っている根っこのようなものを思い出すきっかけになったらいいなと思います。日々の暮らしは、嬉しいことも落ち込むこともいろいろあるけれど、何気なく開いた時にほっと心が緩まるような、そんな本になっていたら嬉しいです。
【取材】 宇田夏苗













