- 藤村正宏さん (ふじむら・まさひろ)
- 1958年北海道釧路市生まれ。東京で芝居をやりたいという理由で明治大学文学部(演劇学専攻)へ進むが、実際には早稲田大学演劇研究会にて演劇三昧の日々。大学卒業後、マネキン人形メーカーにてヴィジュアルプレゼンテーションを行う。その後ニューヨーク大学にて映画製作の勉学。帰国後フリーパレットを設立し、ウインドディスプレーなどに従事。1992年、株式会社ラーソン・ジャパン取締役就任後、各種集客施設(水族館、博物館、テーマパーク、レストラン、ショップ等)の企画に演劇の手法を取り入れて成功。特に、ヒトの潜在意識に影響する要素を注意深く分析して企画に取り入れるほか、体験を売るという「エクスペリエンス・マーケティング」の考え方で集客施設や会社のコンサルティングを行う。現在、フリーパレット集客施設研究所主宰
インタビュー
- −−これまでさまざまな切り口で本を出してこられましたが、新著『藤村流 売れる! コトバ』で、コトバに焦点を当てたのはなぜですか?
- 藤村さんコトバ一言で、売上が変わるんですよ。いい商品であれば売れるって言われているけど、今、悪い商品なんてないんですよね。商品とかサービスのことはとてもよく考えるのに、それをどう伝えるかは全然考えてない。商品のことをちゃんと伝えないと、お客さんにとってみれば価値がないのと一緒なんです。お客さんに伝わるコトバを使えば、売れるんです。それを伝えたくて、コトバのことを書いたんですよ。
- −−あるカメラのチェーン店でチラシのコトバを変えたら、1年で100億円の売上が上がったと書いてありましたね。
- 藤村さんそう、コトバ一言で恐ろしいほど売上が変わってくるんですよ。お客さんに伝えるという行為の中で、コトバというのは重要な位置を占めている。そしてそのコトバには、売れるコトバと売れないコトバがある。売れるコトバっていうのは、伝わるコトバなんです。
- −−前著『人の心をつかんで離さない 無敵の話す力』で、話し言葉に焦点を当てて書いていらっしゃいましたが、そういった話すコトバと、DMやチラシのコトバに違いはあるんですか?
- 藤村さん
基本は同じ。会社からお客さんに宛てたDMだから、話し言葉じゃおかしいと思われているけど、僕は“タメ口”でいいと思うんですよ。DMを通して、お客さんと関係性をつくることがすごく重要なんです。よそよそしいコトバよりは、親しみのもてるコトバのほうが関係性をつくりやすいでしょ?タメ口の方が関係性がつくりやすいから、その方が売れる。
話しかけるコトバというのが、売るためにはとっても重要だと思う。最近はメールも多くなっているけど、メールってまさに話し言葉が多く使われていますよね。これからはどんどんそういう風になっていくんじゃないかな。 - −−メールといえば、藤村さんのメルマガ、すごいですよね。必ずその日のBGMが書いてあって、それがあたかも行間から聞こえてくるような気がしたり、においや雰囲気のようなものも伝わってきます。
- 藤村さんあんなに行間とってるメルマガってないでしょ?メルマガに音楽の話を書いたりするのは、その空気のようなものを伝えたいからなんだよね。僕のメルマガの読者のほとんどは、BGMを楽しみにしている。それから毎回どこで書いているのかが楽しみっていう人もいる。本来のマーケティングに関する内容よりも、そんなことの方がいいって言ってくれる人が多いから、不思議ですよね。
これ、情報と情緒のバランスなんですよ。これからますますそうなっていくと思うんだけど、情報と情緒のバランスがうまくとれていないと、メルマガでもモノを売るのでも、うまくいかないと思うんだよね。 - −− 確かにメルマガを読む前から、今日のBGMは何だろうって、ワクワクします。
- 藤村さん メルマガで僕が書いたBGMのCDを、必ず買っている社長さんがいるんですよ。JAZZとかクラシックが多いんですけど、chemistryも買うかなと思ってある日載せたら、やっぱり買ったみたいですよ(笑)。これまでJAZZとかクラシックとか買ったことない人が、僕の言葉を信用して買っているわけでしょ。ということは、商品がいいから買っているわけではなくて、僕の推薦する力、リコメンド力が強いから買っているわけでしょ。これってスゴイよね。企業がもしそういうふうになったら、何でも売れるじゃないですか。企業のリコメンド力を強くするには、企業としてのブランド力も必要なのかもしれないけど、それよりもやっぱりお客さんから“個人の”顔が見えてないとだめだと思う。だって “WE”が推薦するより“I”が推薦するほうが、絶対にリコメンド力は上がるから。
- −−「タメ口がいい」とか、「WEではなくIで発信する」とか、これまでの手法とは逆のことをやるわけですよね?これまで何10年も考えて実践してきたことの反対のことをやるっていうのは、特に中小企業の社長さんにとってはなかなか難しいんじゃないでしょうか。
- 藤村さん確かに難しいよね。僕がよく言うのは、「やってだめだったら、変えればいいじゃん」ってことですね。まずやってみることが大事ですよ。決断よりも行動ってこと。僕の本にはたくさんの事例が書いてあるんですけど、その中の1つでもやってみようと決断する人は、結構いるんです。例えば、1000人読んだとしたら100人くらい決断する。でも実際やる人は、そのうち1人なんです。つまり何か1つ実行するだけで、能力とか才能とか会社の大小とかお金のあるなしに関係なく、1000人にはとりあえず勝てるんですよ。講演なんかでは、こういう言い方をよくするんですけどね。
- −−藤村さん自身マーケティングの勉強は1度もしたことがなくて、ずっと演劇をやってこられたんですよね?
- 藤村さん演劇学を勉強したくて大学に行ったんですよ。高校生のときバイクの事故で夏休み入院してたんですよ。結構大きな事故で、もしかして死んでたかもしれないなと思ったら、これは一生好きなことしよう!って思ったんですよ。美術も好きだし、映画も好きだし、文学も好きだし、音楽も好きだった。これをいっぺんに勉強できるものって何だろうって考えたら、演劇だったんですよね。
最初は演劇なんかビジネスに役立つはずないと思っていたんですけど、今はとっても役立つって思ってます。 - −−そこのところを詳しく教えてください。
- 藤村さんまずね、シナリオなんですよ。演劇っていうのはシナリオを学ぶことができる。売るってことはすべてシナリオなんですよ。例えばこういうことをやってお客さんにこういう感情を持ってもらって、どういう風に行動させて次はこんな風に……こんな具合に、シナリオをちゃんと考えることがモノを売るには重要なことなんです。
それから、表現力。演劇って表現力の塊なんだよね。音楽とか道具とかいろいろなものを駆使しながら表現するんだけど、最終的に表現するものは人間の肉体と肉声。これを使って必死に表現しようとするわけだから、表現力がつくんですよ。今の時代、表現力はとても重要で、営業も表現力があったほうがいいし、商品のパッケージひとつとってもこれは表現力でしょ。商品はみんないい商品なんだから、あとは表現力が求められるというわけですね。 - −−演劇とマーケティング、まさにハマってますね。
- 藤村さん まだまだありますよ。演劇ってプロジェクト、共同作業なんですよ。ビジネスのプロジェクトと同じ。演劇をやっていると、プロジェクトを推進する力がついてくるんですよ。 それから、感動。演劇は感動を作ること。僕はね、顧客満足を目指すなって言っているんですよ。お客さんがモノを買ったりサービスを受けたりするときって、期待値があるわけじゃない。その期待値に100%応えれば、満足するんですよね。これが99%だったら1%がクレームになる。もし1%でも多くのものを提供してあげられれば、これが感動になる。顧客満足を目指す、つまり100%応えてあげるのは当然のことであって、それを目指すっていうのはおかしいと思う。例えば映画作っている人が、「今度の映画は顧客満足を目指します!」って言っても、なんかつまんなそうでしょ?そうじゃなくて、圧倒的に感動させようと思って映画作るわけじゃない。なんで企業になると顧客満足になっちゃうのかなって思うんだよね。感動っていうのは、これからますますビジネスの重要な要素になってくると思うんですよ。
- −−大好きな演劇がベースにあるからでしょうか、藤村さんはいつも仕事を楽しんでいるように見えるのですが、仕事をする上で何か心掛けているようなことはありますか?
- 藤村さん 心掛けていることといえば、喜んでもらえる仕事をするということかな。どんな仕事もお客さんからありがとう、良かったって言ってもらえれば、例えお金をもらってなくたって、とっても嬉しいし、良かったと感じられる。だから自分が仕事をしていて嬉しいっていうのは、すごく大切だと思うんですよね。それに楽しまなくちゃ仕事ってつらいでしょ。例えばDMを出すときも、ゲーム感覚になってくる。こうすれば売上はどう変わるかなとか。そうして売上が上がって、お客さんに喜んでもらえる。常にそういう発想になっているんですよ。
- −−収入、身長などたくさんの条件を挙げて、自分にピッタリの男性を探そうと婚活している女性には、耳が痛い話かもしれません。
- 藤村さん条件も選択肢のひとつだとは思うんですが、最終的にはお互いに話し合うしかないですよね。僕は、草食系男子って実はほとんどいないと思ってるんです。この人を僕の彼女にしたい。僕の家族になって欲しい。そう思ったら、男は動きますよ。だから、そうじゃないんですよね。そう思える女性がいないから、草ばっかり食べてるんじゃないかなと。でも、好きになったら積極的に動くだけの行動力はあるはずだと思うんです。
- −−では最後に、これからの夢を教えてください。
- 藤村さんまずは、エクスマというコトバを、角川の国語辞典に載せたいなと思っているんだよね(笑)。これ、角川の国語辞典というのがミソ。角川の辞典はとてもよくて、僕は角川の辞典が1番好きですよ。それにエクスマを載せたいね。
- −−実現するといいですね!
- 藤村さんま、それはそれとして……(笑)。
僕は仕事に命をかけるほど価値はないと思っているんだよね。人間生きていくことの方が重要だから。将来的には、人間何で生まれて何で生きてんのっていうことを訴えるような仕事をしていきたい。実はエクスマ塾でやるのはそこなんですよ。中小企業の社長さんに、なんで今の仕事をやっているのかということを、徹底的に考えてもらうんですよ。もちろんマーケティングのテクニックも教えるんだけど、テクニックだけじゃ絶対にだめ。僕は“天命”を考えてほしいって言ってるんです。実はこの天命っていうのがすごく重要で、天命に触れる、自分の天命って何だろうって考えることが、業績と会社をよくするためにはめちゃめちゃパワーになるんですよ。 - −−マーケティングの先生で天命って言う人は、あんまりいないですよね。
- 藤村さんエクスマ塾では、天命についてじっくりと考えてもらいます。一緒に参加している他の人の天命を考えるってこともやるんですよ。そうするといろいろなことが分かってくる。参加者たちは初めて会った人たちなんだけど、これをやり終わるともう何十年も友達だったような感じになるんです。
つまりこれって、情報と情緒のバランスの問題。情緒に触れない限り、情報ばかり出してもお客さんの心は動かないんだよね。 - −−確かに情報過多の時代にあって、情緒は心に響きますよね。
- 藤村さん僕はエクスマ塾にくる人に、もっともっと小説を読んでくださいって言っているんですよ。みんな、ビジネス書ばっかり読んでいるんです。でも、もっと小説も読むべきだし、音楽も聞くべきだし、映画も観るべきですよ。たくさん売りたいんだったら、仕事とはまったく関係のない、自分の好きなことに目を向けるべきだと思うんです。ビジネスに直結して役立つことも必要だけど、そういうことだけではだめ。
コピーライティングのテクニックでは一瞬売れるかもしれないけど、すぐ売れなくなる。長く売り続けるには、テクニックではない部分、つまりなんでその仕事をやってるのか、ほかのことはやらずに何で今その仕事をやってるのか、その真の部分をちゃんと突き詰めないと長続きしないですよね。実際に売れなくなってくるんですよ、テクニックだけでやっていると。そのバランスがとっても重要だと思うのね。 - −−お客さんは、敏感に感じ取るんですね。
- 藤村さん人間の魂に触れないと本当の仕事なんかできないんですよ。そこの部分をもっともっと啓蒙していければいいと思うんだよね。1人でも多くの人に生きてて良かった、この世に生きてて嬉しいと思ってもらえるようなことをしたいですよね。
売るためにはお客さんに伝えることが大切で、伝えるにはコトバが重要。でもその前提として、何でその仕事をしているのかっていう天命の部分、その部分をしっかりしないとお客さんには伝わんないと思うんだよね。 - −−プロポーズまでもが、家電がらみだったのはちょっと笑いました(笑)。家電王子の本領発揮ですね。
- 藤村さんそこはお約束でしょ(笑)。実はその部分は書き直したんです。最初はすごくありきたりな言葉だったんですが、どうも自分の中でしっくりこなくて。やっぱり違うと思って、原文に直しました。あの言葉がなかったら、女性もプロポーズを受け入れるのもウソっぽくなったんじゃないかと思います。やっぱり、プロポーズはオリジナルの言葉で語れるかどうかが大事だと思います。
- −−天命……。私も1度、これと真剣に向き合ってみます。今日は面白いお話の数々、ありがとうございました!