−−今現在も学校の先生を継続中というかがくいさん。絵本を描き始めたきっかけは何ですか?
かがくいさん 絵本を描く前は、同じ職場の仲間と人形劇を7年間ぐらいやっていたんです。人形劇と言ってもストーリーのある人形劇ではなく、スリッパやホース、牛乳パックなどの身近なものを使い、音楽に合わせて動かすというもの。人形ボードビルと呼んでいました。子どもたちも喜んでくれて、結構いろいろな所で公演をしました。そのうち、土曜の午後に練習していたのが週休2日制になってできなくなったり、仲間が職場を異動したりして、やめることになりました。そこで、同じように子どもと関われるものとして始めたのが絵本でした。人形劇の絵コンテを描くのは、絵本のラフを描くのとかなり近いものがあるんです。音やリズムに合わせて動きを考えたり、コマで展開を考えたり。なので、人形劇を考えていた時から使っていたアイデアノートが、絵本の素になっていきました。絵本と言っても、ストーリーのあるものではなく、今までやってきた人形劇と同じくシンプルで子どもたちにわかりやすいものを作りたいと思って、できたのが「だるまさん」シリーズです。
−−教育現場で子どもたちと向き合った経験は、絵本を描くときに役立っていらっしゃるのでしょうか?
かがくいさん 今私が絵本を描けているのは、一緒に関わりあってきたたくさんの子どもたちがいたからだと思っています。子どもたちから、たくさんのことを学びました。もし教師をしてなかったら、絵本を描くようにはならなかったでしょう。子どもたちの喜びは、自分の喜びでした。それが絵本をつくる原動力になっています。
−−講談社絵本新人賞に応募して、2回目までは佳作、3回目の『おもちのきもち』(講談社刊)で新人賞を取られ、絵本作家としてデビューされたとのこと。受賞されたときのお気持ちをぜひお聞かせください。
かがくいさん 佳作が2回続き、この3回目で新人賞が取れなければ、講談社絵本新人賞はあきらめようと思っていました。受賞の知らせが来たときには、年甲斐もなく「キャーキャー!」とはしゃいじゃいました(笑)。その新人賞の電話連絡をしてくれた編集者の方が後で、「電話で、女子高生のような声を出していましたね」とおっしゃっていたのを覚えています。50歳での新人、嬉しさとちょっと照れもありました。でも、自分が目指していたものは、やはり出版されて多くの子どもの元に届く絵本だったので、これで場が与えられたと感謝でいっぱいでした。そして、佳作の頃からずっと応援をしてくれていた本屋さんが、早速原画展を企画してくれました。たくさんの人が応援してくれているのを実感し、泣けちゃいました。
−−赤ちゃんから楽しめる「だるまさん」シリーズが今回で3作目となります。「だるまさん」はどういう経緯で誕生したのでしょうか?
かがくいさん だるまさんの原型は、何年も前のアイデアノートにすでに描いてありました。それは、人形劇の動きなのか、絵本としてなのかは、今では定かではありませんが。その頃のだるまさんは、ブルマーをはいたようなぷっくりした下半身で、ひげもありました。初めにもお話しましたが、ストーリーは特になく、音と動きで展開するファーストブックをずっと作りたいと思っていたんです。そんな頃ちょうどブロンズ新社さんから、声をかけてもらいました。初めてお会いした時にだめもとでラフを見せると、一目で気にいってくださり、出版の運びとなりました。ありがたかったです。そして、おだてに弱い私は、図に乗り、続編用のだるまさんのラフをたくさん渡し、現在の3作目へとつながりました。
−−ページをめくるたび「えっ?」「そうきたか!」と、固定観念にハマりがちな大人も楽しめる作品ですね。一方で、頭が柔軟な赤ちゃんや予想外の発想が得意な子どもたちを驚かせたり喜ばせたりするのは大変かも、と思いました。子どもたちって意外と強敵なのでは?
かがくいさん 基本的に、人を驚かせたい、今までにないものを作りたい、という思いは強くあります。「こんなの見たことない!」と言われると、ニンマリです。ただ、子どもが喜んでくれることを願ってはいますが、自分が面白いと思うものを作るしかないですよね。「何人かの子どもは自分と同じ感性で楽しんでくれるだろう」という思い込みで作っています。みんながみんな面白いという絶対的なものはあり得ませんものね。だからこそたくさんの絵本の存在に意味が出てくるのだと思いますし。
−−昔から日本にいた「だるまさん」。その丸いフォルムや表情がないようであるところなど、とても愛らしいキャラクターです。今回、だるまさんを描く上で、気をつけたところや意図したところはありますか?
かがくいさん あまり、従来のだるまさんを意識せずに描いています。軟体動物的な柔らかさを感じさせるものにしたいと考えて描いています。それと、ごろっとした存在感。どうも他の自分の絵本に出てくる主人公達を見ても、私は丸っこい形のものを選ぶ傾向があるようです。硬いものより柔らかいもののほうがイメージ的に好きなのかもしれませんね。特に、今回の『だるまさんと』には、ゲストが多数出てきて身体接触もあるので、柔らかさを大切にして描きました。
−−この絵は何で描いていらっしゃるのでしょうか?
かがくいさん パステルと色鉛筆、ボールペン、部分的に水彩絵の具等を使っています。元々、大学では彫刻が専門だったので、直に触れて描かないと、実感として描いた気がしないんですね。なので、色をつけた上から指でこすったりして質感を出しています。そのため、画面は汚れてしまう傾向があり、修正が多くなってしまいます。原画を見ると結構、汚れが見られます。と言いつつも、あんまり気にしていないんですけども。
−−ホームページや読者レビューでは、「園児がいっしょに動いて楽しんでいる」「読み聞かせると大喜びする」など、子どもたちのリアルな反応がたくさん寄せられています。どうお感じになったか、ご感想をお聞かせください。また、中でもうれしかった感想、印象深かった感想などはございますか?
かがくいさん 読書カードやインターネットでのレビューなどを読むと、子どもたちの反応が具体的にわかり、嬉しくなります。とても励みになっています。感謝です。その中でも、1歳未満の6〜7ヶ月ぐらいの赤ちゃんが反応してくれているのを読むと、小さな子にも届いてほしいという願いがかなったようで嬉しいです。「だ・る・ま・さ・ん・が」と読み始めると、赤ちゃんがハイハイのポーズで絵本に釘づけになり、大喜びしたりするそうです。また、お風呂へ行くときも、寝るときも小脇に『だるまさんが』を抱えて持っていくというのもありました。かじったり、なめたり、いろいろな関わり方をしてくれて、だるまさんも本望だと思います。
−−最新作では、「だるまさん」に、ついにお友達(?)が! だるまさんの世界は今後、どんなふうに広がっていくのでしょうか?
かがくいさん 今回の「だるまさん」の3作目の展開を予想できた人はいないんじゃないかと、ほくそ笑んでいます。「こうきたか!」と思ってくれたら、してやったりです。今後ですが、とりあえず「だるまさん」シリーズは、この3作で一区切りにする予定でいます。いずれ番外編もありかな?
「音と動きのファーストブック」という括りでのアイデアは、たくさんあります。なので、「だるまさん」から離れても、このコンセプトで世界を広げていく作品を今後も作っていこうと、ブロンズ新社さんと計画しています。
−−日々、瑞々しく成長していく子どもたちはもちろん、毎日子育てに大変なお母さんたち、お父さんたちにも読んでもらいたい一冊です。子どもたち、大人たちにぜひメッセージをお願いいたします!
かがくいさん 絵本を読む子どもたちには、笑っていてほしいと思っています(笑えなくても心の中で)。そして、その絵本を一緒に読んでいる大人の人も。笑いは、たとえその時一瞬であっても、生きるパワーを与えられるということを聞いたことがあります。また、人間の特性の一つとして、笑いの感情を他の人と共有できる、つまり一緒に楽しんで笑えるということがあるそうです。今、子どもたちの先を考えると、夢を描きにくくたいへんな時代だと思います。でも、私は、こういうしんどいときにこそ悲しい絵本ではなく、踏ん張って笑える絵本を作っていきたいと思っています。読者レビューの中に、「ぐずっていた子どもが、だるまさんを読み始めると泣き止んで笑い出す、魔法の絵本」と書いてくれていた方がいました。そしてそのお子さんの笑い声が子育てや仕事の疲れを癒してくれるとも書いてくれていて、私も嬉しくなりました。絵本は、こう読まなければならないなんて決まりはないんだと思います。酔っ払っている時には酒くさい声のままで、疲れている時には眠そうな声のままでいいんだと思います。「おとうさん、口くさーい」とか「お母さん そこ間違えてるー」とか文句を言いながらも、子どもは知っています。ビデオの映像のように画一的な同じ声ではなく、お父さんやお母さんの声が毎日違うことを。そして、疲れてしんどい時にも、子どもと一緒に時を過ごそうと絵本を読んでくれていることを。 どんな時代がこようとも、子どもの笑い声を聴きながら、踏ん張って歩いていきましょうね。