- 桂木希さん (かつらぎ・のぞむ)
- 1961年高知県生まれ。大阪工業大学経営工学科卒。コンピューター・エンジニアとして仕事をするかたわら書き上げた作品『ユグドラジルの覇者』が第26回横溝正史ミステリ大賞を受賞した。
インタビュー
- −−受賞おめでとうございます。小説を書いたのは初めてですか?
- 桂木さん10年くらい前に、ホラーというかファンタジーのようなものを書いたことがあるんですが、今回はそれ以来ですね。ちゃんとまとまった量のある小説を書いたのは、今回が初めてと言っていいと思います。
- −−アイディアから書き上げるまでに、どれくらいかかったのでしょうか?
- 桂木さん書き始めたのは1999年くらいです。小説の設定も、1999年から始めて、その10年後くらいまでのスパンで近未来を描くつもりだったんですが、書きあがるまでに6年もかかってしまいました(笑)。 最初の2年でほとんど書き上がっていたんですが、仕事が忙しかったり体調を崩したりしていたので、放ったらかしにしてしまっていたんです。去年、やっとやる気になって書き上げました。
- −−1999年当時は『ユグドラジルの覇者』のモティーフの一つになっているネットトレードを題材にした小説は存在していませんでしたよね?
- 桂木さんネットそのものが注目され始めた時期でしたね。小説の舞台としてインターネットを描くのは面白いんじゃないかと思ったので、書いてみようと思いました。仕事もコンピュータに近いところにいたので、知っている情報をもある程度入れて考えていったら、面白い小説になるんじゃないかと。 ところが、何年も放ったらかしにしているあいだに、ネット文化がどんどん一般的なものになって、広がっていってしまったので、みんなが知っている話になってしまいましたね(笑)。
- −−──『ユグドラジルの覇者』はインターネットの広がりの得体の知れなさと、ネット上での経済戦争の凄まじさを描いた小説として、たいへん迫力があると思います。おそらく、読者は「この新人作家は何者だ?」と思うんじゃないでしょうか。ふだんはどんなお仕事をされているんですか?
- 桂木さんコンピューターのエンジニアです。ですが、この小説に出てくるような仕事ではなく、工場を作るときの制御システムを設計するような仕事です。ソフトを作るというよりもエンジニア的な仕事で、この小説に出てくるブラジルやアジアなどには、仕事で長期滞在する機会もありました。 しかし、経済的な知識やコンピューターの知識を持った人間が書いた小説だと思われると、ちょっと違いますね。こういう小説を書こうと思ってから、経済的なことやコンピュータの知識、あるいは世界のいろいろな場所について勉強して小説に盛り込んでいきました。そうしたら結果的に、国際謀略小説のようになったんです。個人的にはそんなことはあまり考えていなくて、読んでくれた人から国際謀略小説ですねと言われて、そうなのか? と(笑)。
- −−この小説を読むと、外国で起こっていることもすべてネットでつながっている。世界は狭くなったな、と思いました。
- 桂木さんネットワークで世界が狭く感じるというのは、この小説を書いていて自分でも感じたところですね。 また、インターネットをテーマにするということで、いろいろな世界観があることを表現しようというのは最初から考えていました。というのは、インターネットを題材に小説を書こうとした段階で、画面と人間と会話しか出てこなくなりそうだったので、それではすごく退屈な小説になってしまうと思ったからです。いくら世界を舞台に戦っているんだって言ったって、スケール感が読者に伝わらない。それを補完する意味もあって、いろいろな場所を舞台にしたり、異なった文化的背景を持った登場人物を出したりしたんです。
- −−登場人物たちもユニークな個性を持っていますね。たとえば、ヨーロッパの金融界の寵児となっているハンナという若い女性は、恵まれない少女時代を経て、コックニー訛りの下品な言葉を使う美女、という複雑で強烈なキャラクターです。
- 桂木さんキャラクターについては、こういう人物を書きたいと思っていたというよりも、ストーリーを作っていくうえで、こういう登場人物がいいだろう、と考えました。まず物語の展開でキャラクターを考えて、そのあとにバックグラウンドを考えるという順序でしたね。 もともとは、ネット上で戦う三国志をやろうと思ったんです。アジア圏とヨーロッパ圏とアメリカ圏という3つのポジションを考えて、相対的な力関係を、順番に話を展開していこうと思いました。ようはキャラクターも含めて、退屈させずに読ませるようなものを書こうとずっと思っていたんです。
- −−桂木さんご自身のことをうかがいたいんですが、子供時代から本はよく読まれていたほうですか?
- 桂木さん育ったところがすごい田舎だったので、野山を駆け回っているか本を読んでいるかのどちらかでした。なにしろ、テレビが1チャンネルしかなかったんですから(笑)。 小学校の頃は、子供向けの乱歩を読んでいました。小学生が読む乱歩って、怪人二十面相だったりしますよね。だけど、母親が何を思ったか、春陽文庫の乱歩全集を買い与えてくれたんですよ。そうすると、大人向けだから猟奇的なものもたくさんあるんです。だから、小学校から中学校にかけて、「屋根裏の散歩者」などを読みながら、これは何? と思っていましたね(笑)。 中学生くらいまではずっと本を読んでいて、図書館の棚を端から読んでいきました。その頃は、すぐに最後を読みたかったので、薄い本をよく読んでいましたね。『若きウェルテルの悩み』とか『変身』とか。 高校以降は、むしろマンガでした。それから映画ですね。当時あった名画座に通いました。ちょっと古い映画が三本立てで上映されていて、年間100本くらいは見ていました。ハリウッド、フランス映画、イギリス映画……なんでも見ていました。映画関係の仕事に就きたいと思っていたくらいです。 その後、社会人になってからは、ふつうに小説を読むようになりましたね。多読していたわけではなく、ふつうのサラリーマンがベストセラー小説を拾い読みするような感じでしたね。ジャンル的には何でも読むので、文学系の小説からライトノベル系まで。マンガもいまだに読んでいます。ただ、サラリーマンは時間にしばられているので、出張に行ったりするときにさらっと読めるもののほうに行きがちですね。
- −−小説を書いてみようと思われたのはなぜでしょう?
- 桂木さん10年くらい前にライトノベルス系でファンタジーが流行っていたんですよ。妻がたまたま読んでいたので読んでみたら、「なんだ、つまらないじゃないか、これくらいなら俺にも書けるんじゃないか」と思ってしまったんです。書いて公募賞に応募してみたんですが、賞には引っかかりませんでした。現実は、甘くはないですね(笑)。 でも、このことがきかっけで小説を書くということの趣味的な面白さにめざめました。そして、どうせ書くんだったら、人が書かないもの、違うものを書かないといけないと思うようになりました。もっと楽しめるものをかけるんじゃないか──そのころ、思いついたアイディアを抱えて、暇を見つけては趣味的に書いていったのが今回受賞した作品だったんです。しかし、正直なところ、まさか賞をもらえるとは思いませんでした。そういう意味では驚きましたね。
- −−周囲の方は、桂木さんが小説を書いていることをご存知なんですか?
- 桂木さんまったく知らないと思います。賞を取ったことも、もちろん内緒です(笑)。
- −−次回作はもう考えられているんですか?
- 桂木さんこれよりスケールダウンしたものは書けないので、どうしようか悩んでいるところです。
- −−どんな物語になるのか、今から楽しみにです。今日はありがとうございました。












