- 恩田陸さん (おんだ・りく)
- 1964年宮城県生まれ。早稲田大学卒。92年、日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった『六番目の小夜子』でデビュー。ファンタジー、ホラー、SF、ミステリなど、既存のジャンルにとらわれない独自の作品世界が高く評価されている。著書に『球形の季節』『三月は深き紅の淵を』『光の帝国 常野物語』『Q&A』『夜のピクニック』ほか多数。
インタビュー
- −−『ユージニア』の構想のきかっけから教えてください。
- 恩田さんもともとのきっかけになったのはヒラリー・ウォーというミステリ作家の『この町の誰かが』(創元推理文庫)という作品です。アメリカで50年代〜60年代に警察小説を書いていた作家が書いた小説なんですが、、女子高生の殺人事件をその町の人たちへのインタビューだけで構成されていて、かなり昔の作品であるにもかかわらず斬新で面白かったんです。インタビューだけで成り立つ小説というのも面白いなあ、と思ったのが最初です。ですが、『この町の誰かが』はリアルタイムの捜査で会話が面白いんですが、『ユージニア』は昔の事件なので、ひたすら一人称が続くと平坦になっちゃうなと思って、だんだん複雑な構成になっていきました。
- −−『Q&A』もインタビューだけで構成されていましたね。
- 恩田さんあれはJ・G・バラードの『殺す』(東京創元社)という作品がありまして、そこから考えた話なんです。こういう形式で書きたい、というところから入ったというところはどちらも同じですね。
- −−『ユージニア』では、ある人の証言を次の人の証言が裏切っていく。ひとつの事件にさまざまな角度から照明が当てられ、真実のかたちも異なって見えます。
- 恩田さん私にとっての今回のテーマはグレーゾーンの話。境界線上の話を書きたかったんです。白黒はっきりつかない。その登場人物は善なのか悪なのか、正常なのか異常なのか、わからない、というところを書きたかった。ひたすらグレーゾーンを突き進むというポリシーで書いた本です。登場人物のどの証言もあてにならない。不安感がいつも漂っている、という話にしたいと思っていました。
- −−ミステリというジャンル小説というよりは、ミステリアスな小説。雰囲気に浸る楽しさもありました。
- 恩田さん『ユージニア』の前に「KADOKAWAミステリ」に連載していたのが『ドミノ』(角川書店)というパニックコメディで、明るくテンションが高い話で疲れたので、今回は暗くてじめっとした話をやろうね、って言って始めたんです(笑)。 ミステリはあるんですけど、真相のためではないミステリを書きたかった。真相のために伏線が張ってあるような話はいやだと思ったんですよ。やってみたら難しかったですね。ラストはこれで終わっていいのかなってすごく迷いました。
- −−ミステリ、ファンタジー、青春小説と、恩田さんはさまざまなジャンルの作品、あるいは、ジャンルミックスな作品をお書きですね。
- 恩田さん自分の好きなものを書こうとすると、どうしてもジャンルミックスになってしまうんですよ。エンターテインメントと純文学の境界があいまいになっているように、いま、みなさんジャンルミックスの方向に向かっているんじゃないでしょうか。一応、自分ではこれはミステリ用、これはホラー用、SF用と考えてはいるんですけど、あんまり深くは考えていない。みんな越境小説になっていくんじゃないかと思っています。
- −−『ユージニア』は文章が持つ匂いからも独特な雰囲気を感じ取ることができますね。
- 恩田さんいつもは書いているとだんだん加速していくんですが、今回はまったく加速できず、地べたを這うようでした。たぶん、それが話の内容のテンポと一致していたんだと思います。そのへんは自分でも書いていて面白かったというか、独特のテンポになっていると思います。
- −−『ユージニア』というタイトルはミシェル・ぺトルチアーニというピアニストの作品からとったそうですね。
- 恩田さんそうです。99年に亡くなってしまったフランスのジャズピアニストで、アメリカのブルーノートでデビューした人です。グラス・ボーンという先天性疾患で骨が育たず、骨折に骨折を繰り返して、身体が大きくならなかったんですが、手だけは大きいんですよ。まるでピアノを弾くためだけに生まれてきたような人でした。その人の曲が大好きで、「ユージニア」という曲があるんです。小説の内容とはまったく関係ありませんが。
- −−ユージニアという言葉には小説の中ではまったく別の意味が与えられてますね。すてきな響きの言葉です。
- 恩田さんたしかぺトルチアーニの当時の恋人の名前だったと思います。
- −−恩田さんというと、あらかじめしっかりした構成は立てずに書き始められることもあるとうかがっていますが。
- 恩田さんそれがほとんどです(笑)。
- −−今回は?
- 恩田さん犯人と動機だけは決まっていて、それに合わせて話を作りました。どうやって犯行を実行するのか、周りにはどういう人たちがいるのか。行き当たりばったりですね(笑)。
- −−PR用のリリースに「ツイン・ピークス」が引かれていますが、これは?
- 恩田さん最初に、「ツイン・ピークス」みたいな話が書きたいねって編集者と話してたんですよ。じわじわと気持ちの悪い話。どこに行くかわからない話。去年、「ツイン・ピークス」のDVDボックスが出て、思わず買ってしまったんですが、地方のさびれたホテルに泊まって、パソコンで「ツイン・ピークス」のDVDを見るっていうのをやってみたかったんですよ。で、実際にやったんですよ(笑)。これが気持ち悪くてよかった(笑)。
- −−さまざまなジャンルの小説を平行して書かれる場合、どんなふうに切り替えて「さあ、書くぞ!」となるのですか?
- 恩田さん それまで書いたものを読み返すんです。それが一番手っ取り早い(笑)。書き始めてしまえば、迷うことはあまりないですね。平行して書く時には、なるべく雰囲気の違うものを書こうと思っているので、ほかの小説を混ざってしまうということはありません。
- −−では、後は締め切りに合わせて、と。
- 恩田さん そうですね。締め切りに合わせて生活をしています。締め切りの奴隷です(笑)。奴隷のわりには働いていないって言われますけど(笑)。
- −−1日の生活のリズムはどんな感じですか?
- 恩田さん入稿するまでが昼で、入稿してからが夜です(笑)。下手すると、二日間くらい昼が続いたり、一日半くらい夜が続くこともあります。去年、40歳になったんですが、こんな生活していていいんだろうかと思います(笑)。
- −−いま、取り組んでいるお仕事について教えてください。
- 恩田さん「サンデー毎日」で「チョコレートコスモス」という小説を連載しています。恩田陸版「ガラスの仮面」です。なんとか「紅天女」まで行き着かせないと(笑)。 小説以外では、来月、「IN・POCKET」に連載していた、初の長編お笑いエッセイ「『恐怖の報酬』日記」(講談社)が出ます。
- −−それは楽しみです。今日はありがとうございました。
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