- 辛坊正記さん (しんぼう・まさき)
- 1949年大阪府生まれ。一橋大学商学部卒業後、住友銀行入社。慶應義塾大学経営学管理研究科1年制課程修了(首席総代)。コロンビア大学経営大学院修士(MBA、優等卒業)。ニューヨーク信託会社社長、住友銀行アトランタ支店長、住友ファイナンスエイシア社長、国際金融法人部長を歴任。現在、(株)日本総研情報サービス代表取締役専務。今回共著したキャスターの辛坊治郎氏は7つ違いの弟である。
インタビュー
■楽観論も運命論もNO!このままでは危ない日本経済- −−前作はベストセラーとなりましたが、再びペンを執られた理由は?
- 辛坊さん 世の中にあまりにも経済に関する暴論がはびこっているから、ですね。たとえば「日本国債」。国債っていうのは政府が日本国民から借金してるだけだから大丈夫、日本政府は赤字だけど日本国は黒字だから破たんなどするわけがない、なんていう楽観説がまん延しています。それとは逆に「人口減少が続く日本にこれ以上の経済成長はない」といった運命論みたいなものもインターネットの世界、特に若い世代の間で広がっている。年金も今は3人で1人の高齢者を支えている状態だけど、そのうち1.2人で1人支えなければいけなくなる。これだけでも大変なのに経済が成長しない現状が続いていいわけがない。このままでは若い世代の将来が危ない、という強い危機感から執筆しました。
- −−確かに若い世代の間には失業率の悪化、長引く不景気のせいか日本経済に対して一種のあきらめムードが漂っているかもしれません。
- 辛坊さん 「若い人に元気がなくなっている」ということは最近とみに感じます。つまり皆さんが働く企業、そしてそれを支える人々に元気がないんですよね。国内の企業活動が上向かないから労働者の所得も増えない。所得が増えないから需要も拡大しない。政府もこれではいかん、ということで景気刺激策として「需要拡大」を狙った政策を打ち出してはいます。エコポイントしかりエコカー減税しかり。ですがこれは単なる一時しのぎの対症療法であって、根本的な治療にはなっていない。
- −−景気が回復しない一番の問題点は何だとお考えですか?
- 辛坊さん これは本書の中でも詳しく説明していますが、不透明で過剰な規制が一番の問題でしょうね。雇用規制しかり、環境規制しかり。さらに言えば高い法人税、なかなか進展しないFTA(自由貿易協定)…。日本のそういった環境を嫌って、日本企業がどんどん海外に拠点を移し、外国企業は日本に来ない。それに伴って雇用も海外にシフトしています。経営者は言います、「消費地に近いところで生産する、現地の文化を理解している人間を採用したい」とね。ですが本音は必ずしもそうじゃない。日本で人を雇ったのでは、戦略を考えたのではやっていけない環境が日本にある。そこを変えない限り、不況の根本原因は解決できないと思います。本書では具体的に「日本経済を強くする7つの提言」として問題解決のための提案をしています。
- −−これまで知っているようで知らなかった日本国債、不況の仕組みについてもわかりやすく解説してあり、若い世代にも読みやすい本になっていますね。
- 辛坊さん この本は未来を背負う若い世代にこそ読んでほしいんです。私は職業的な経済学者ではありませんが、これまで世界各国を舞台に仕事をしてきました。その経験があるからこそ言えることがある。なるべく若い人たちに理解してもらいやすいようにという気持ちで書きました。
■未来のために、若い世代がなすべきこと
- −−本書を読むと日本経済は問題山積み、なかなか明るい未来を見出せませんが、これからを生きる若い人たちがなすべきこと、心がけるべきこととは?
- 辛坊さん 自分のやりたいことをしっかり持つこと。摩擦を恐れずに自分の主義主張をきっちりすること。そして世界中どこでも働けるスキルを身に付けること。それに尽きると思いますね。そういう意味では今いろんな企業が国際化の動きを本格化させていますが、その流れは正しいと思います。
- −−世界各国を舞台に活躍されてきた辛坊さんのお言葉だけに説得力を感じます。
- 辛坊さん さらにいえば、「競争」することを恐れないでほしいと思います。あのリーマン・ショックの後、日本では大企業志向が強まりましたが、アメリカでは逆に起業志向が強くなった。この違いは何か。日本人から「競争力」が失われているせいじゃないかと思っています。運動会でみんな一緒にゴールさせたりね(笑)。日本の教育自体が「競争」を否定し、新しいものを生み出さないような仕組みを作ってしまった。ですが、真の自由は健全な競争なくしてはありえない、ということを忘れないでほしいですね。
- −−今回、弟の治郎さんとは2度目の共著となりますね。普段から、弟さんと経済について議論されているのですか?
- 辛坊さん いえ、そんなことはないですよ(笑)。私と弟は7歳離れていますし、特に若い頃の7歳差は大きくて、語り合う機会はあまりなかったんですが…。それが最近、たまたま弟と実家で顔を合わせた時に政治経済談議で盛り上がった。考え方が似ている部分も多いじゃないか、それなら共著しよう、と。今回も前作では書き足りない部分があったので、じゃあもう1冊出そうかという話になりましてね。もちろん、兄弟といえども違う人間ですから多少意見の合わない部分はあります。その部分は本作で、敢えてすりあわせずに両論を掲載しました。ぜひ読んで一緒に考えてみてほしいですね。
- −−おっしゃる通り、政治経済には様々な見方があり、正解の出ない問題もあります。私たちが政治経済について考えるとき、大事なポイントって何でしょうか?
- 辛坊さん やっぱり大切なのは何でも人の話をうのみにしないこと、そして常識に照らしてみて考えることですね。たとえば先ほどの国債の話にしてもそうです。国債をめぐる議論には諸説ありますが、国内で借金している分にはいくら額が増えても大丈夫、なんてちょっと考えればおかしな話だと思いませんか?自分個人にあてはめて考えると、親兄弟にどれだけ借金しても大丈夫、というのがおかしいのと同じ。「常識的な判断力」を養うためにも、視野を広く物事を見るようにしてほしいですね。
- −−とはいえ知識がないって怖いことですね。本書を読んでつくづく実感しました。
- 辛坊さん やっぱり自分の意見・考えを持つためにはある程度の知識は必要ですよね。「知ること」ってとっても大切。だけど忙しい皆さんがそうも言ってられないのもわかります。そこをきちっと専門的な立場から見て、国全体が偏った方向に行かないようにするのが本来の政治家の役割なんですが、その役割が果たされていないのが今の日本の不幸なんでしょうね。ひょっとしたら政治家自体が理解してないのかもしれないですが(笑)。
- −−政治経済の問題は簡単ではないだけに、つい目を背けがちですが私たち一人一人がまず「何が問題なのか」をしっかりと考えていくことが大切ですね。本書を読んで目を見開かされた思いです。本日はどうもありがとうございました。
<ナカガミシノブ>
『日本経済の不都合な真実』
2011年1月発売
『日本経済の真実』
2010年4月発売
- ★辛坊さんの解説が好きです
辛坊さんの解説がわかりやすくて、よく番組を見ています。良いと思います。 - ★前回はベストセラー
「日本経済の真実」が大好評でベストセラーだった辛坊治郎氏の本。今回もお兄さんとの共同著書として日本経済を専門家の視線とニュース解説者としての視線、二つの視線から詳しく描かれています。池上彰氏ほど分かりやすいといったものではないが、読んでみる価値はある。