
--酒井さんにとって絵本2作目にして代表作となった『よるくま』のアイデアは、どこから生まれたのでしょうか。
いろいろなエピソードが私の中にあって、それがつながった時に出来上がったとは思うんですけれど。ひとつは子どもの頃、夜中にパッと目が覚めたことがあって。まだ明け方まえだったと思いますが、青い世界が広がっていて、今が昼なのか夜なのかわからず、すごく不思議な気持ちになったことがあったんです。そういった記憶が『よるくま』のもとになっていたりしますね。というのも、結構眠れない子どもだったんですよ。家族が寝静まった後も一人で起きていて、お布団の中でゴソゴソしていたりとか。すごく夜が長い感じだったんですよね。だから、その間にいろいろ空想して。そういう夜のことは、すごく強い体験として残っています。
--「早く寝なさい!」とか言われませんでしたか?
言われましたね。襖1枚隔てて両親が寝ていたので、ちょっと開けると光が射すので、親が「いいかげんにしなさい!」みたいな。それでしくしく泣いたりしてました(笑)。
--子どもが2人でお母さんを探しに行く、というお話は以前から考えていたのですか。
自分の子ども時代の体験もあって、夜に子どもが何かしているお話を書きたいなという、もわもわした気持ちは前からありました。それがある時、さーっと出てきて固まった感じです。1冊目の絵本『リコちゃんのおうち』は明るいイメージで、自分としてはちょっと違和感があったというか。だから夜の話を描いてみたい、というところもあったかもしれません。ただ「次はこういうものにしよう」と考えてもできなかったりするので。「こういう絵本が描きたい」という思いはいろいろあるんですけれど、それが本当に描けるかどうかは、全然分からないんですね。『よるくま』にしても、たままたまできたなという感じです。
--絵本作家として経験を積まれる中で、思い通りに描ける術というのは、身に付いていくものでしょうか。
それがなかなか身に付かないんですよ。絵のほうは経験的に「こうすればいいな」とか、多少分かることはあるんですけれど、お話はいつできるのかいまだに分からないんです。
--文章を書く際に心がけていることとは?
なるべく平易な、短い言葉で、小さい人にもなるべく伝わるように、しゃべるように書きたいなとは思っています。

--物語の展開についてはいかがでしょうか。
今回挙げた『もりのなか』『また もりへ』や『大きい1年生と小さな2年生』も、『よるくま』も、父親や母親のもとから行ってと帰ってを繰り返しながら、子どもが世界に触れていくお話だと思います。とはいえ“行きて帰りし物語”を自分が意識して描いているかといえば、そうではなくて。そもそも子どもの日常がまさにその繰り返しなので、自然にそうなっているのかなと思います。
『よるくま』に関していうと、お話はわりとすっとできたんですね。絵は何回も描き直しました。ただ絵は、いつもすごく描き直します。
--そうやって描き上げた時の思いとは?
一応描き終えたという時は、もうしばらく見たくないという気持ちですね(笑)。でも、何日かしたら「ああここはダメだな」と思って、また描き直してみたりとか。出版されたら、もうしょうがないっていう感じで、しばらくはあまり見れないですね。
--なるほど。酒井さんの絵本を読むたび、子どもの気持ちがビビットに伝わってくると同時に、俯瞰して子どもを見つめている視点を感じます。
それは、自分が子どもだった頃の気持ちと、あとはすっかり大人になってしまったので、外側からあらためて、今生きている子どもを見ている視点が、2つ合わさっているところから生まれているからかもしれませんね。
--子どもはよく観察されるのですか?
電車に乗っていたりすると、つい子どもをじっと見つめてしまいますね(笑)。
--大学時代に演劇をやられていて、子ども役を演じることが多かったそうですが、そうした経験も、子どもを描く上で影響しているのでしょうか。
当時、いわゆるアングラ的なお芝居をやっていたのですが、時代的に子どもの世界というか、少年少女をテーマにした脚本をやることが多かったんですね。だから、子ども役が得意だったわけではなくて……ただ、子どもを演じていると小さい頃の感覚が呼び起こされる感覚はあったかもしれないですね。
--あらためて、ご自身にとって『よるくま』とは?
『よるくま』には、たくさんの感想をいただきました。嬉しかったのは、みなさんそれぞれが、それぞれのおうちの物語のなかで読んでくださったことです。とっても大切な一冊です。
--最後に酒井さんにとって絵本を描く面白さとは? また、今後描きたいものを教えて下さい。
最初は何も無かったのに、考えたり描いたりを繰り返していると、いつの間にか、とうとう一冊の絵本が出来上がります。本当に毎回、不思議な気持ちになります。そのうち、いつか猫の絵本も描いてみたいと思っています。
【取材】 宇田夏苗 渡邊淳子