- 日明恩さん (たちもり・めぐみ)
- 神奈川県生まれ。日本女子大学卒業。2002年、『それでも、警官は微笑う』で第25回メフィスト賞を受賞し、デビュー。警察小説に新境地を開いた作品と話題になる。つづく『鎮火報』は『埋み火』の主人公でもある若き消防士、大山雄大を主人公に消防の世界を舞台にしたミステリ。ほかに『それでも、警官は微笑う』シリーズ第2作『そして、警官は奔る』がある。
インタビュー
- −−『埋み火』の主人公は『鎮火報』で登場した消防士、大山雄大ですが、もともとシリーズ化を考えていたのでしょうか?
- 日明さんいえ、まったく考えていませんでした。もうひとつの警察小説のシリーズ(『それでも、警官は微笑う』『そして、警官は奔る』)もシリーズにするつもりで書いていたわけではなかったんです。なので、「同じ主人公で続編をどうですか?」と編集の方に言っていただいてから考えました(笑)。
『鎮火報』についてはたまたまある文学新人賞の候補になりまして、私が尊敬する作家の方が評価してくださったんです。本当に嬉しくて、できればこの登場人物でもう1作書きたいな、と思ってはいました。 - −−シリーズ第2作をお書きになるうえで難しかった部分はありますか?
- 日明さん 大きな事件が起こって主人公が活躍する、というパターンでシリーズを書いていくと、敵がどんどん大きくなっていかざるをえないんですね。007シリーズもそうですし、最近のハリウッドでは、敵は宇宙人になってますよね(笑)。 『鎮火報』は主人公をそういうヒーローにしたくなかったんです。
- −−消防士の仕事を実にこと細かに書かれていますね。
- 日明さんそういうことを調べるのが好きなんです(笑)。『鎮火報』のときも、消防士を書こうと思って調べたのではなくて、もともと興味があったので。書くつもりはなくても、勝手に食いついていってしまうんですね。消防署や消防大学校の一般公開日に、とくに書こうという気持ちもないまま行くんですよ(笑)。
- −−ごくふつうの一般人として(笑)。
- 日明さんそういうときに、説明してくださる方に尋ねると、いろいろなことをお話ししてくださるんです。そのときに思ったんですね。私たちはこの人たちの仕事をほとんど知らないって。私たちが消防について知るのは、マスコミを通してか、公的な発表だけ。そうではない部分を聞かせていただいて、なるほど、と。
- −−デビュー作が警察小説で、こちらは消防士が主人公です。日明さんの小説は職業を描くことにこだわっていると感じました。
- 日明さんそうですね。他の仕事にももちろん関心はあるんですが、警察や消防は私たちの税金が使われている職業なので、知らないのもどうかなと思うんですよね。それに、そういう職業についている人がけっこう身近にいて、話を聞くとすごく面白いんですよ。
- −−警察小説シリーズは三人称ですが、こちらは一人称ですね。それはなぜでしょう。
- 日明さん消防士の仕事の説明を三人称でやったら、誰も読みたくないだろうな、と思ったからですね。
興味があれば参考書でもノンフィクションでも読めると思いますけど、興味がないものは、いかにして読んでもらうか。最初は三人称で書き出したんですが、結局一人称にしました。
主人公のキャラクターについても、ポジティブにがんばる消防士はやめようと。がんばり屋の消防士が「消防の仕事はこんなに大事なんだ、やりがいがあるんだ」って語っていたら読みたくないですよね(笑)。それで「あーあ、こんな仕事やってらんないよ」という調子で書いて、読者に共感してもらえたらと思って、こういう主人公にしたんです。 - −−主人公の大山雄大はガタイもいいし、腕っぷしも強い。でも、一人称で語られる「心の声」が屈折しているというか……。単純なヒーローではないですね。
- 日明さん警察小説には悪徳警官がたくさん登場しますが、消防士にはマイナスイメージがないんですよね。そこが不思議だし、興味があります。主人公の雄大も、文句を言い言いですけど、同世代の若者の中ではかなりマジメなほうだと思います。黙ってやってればいいのに、憎まれ口をたたいてしまう、そういう性格なんですね。ただ、書いてあることは腹の中で思っていることなので、その通り職場で口にしているわけではないと思いますが(笑)。
- −−消防の仕事は「聖職」というイメージですよね。その実態をなかなか知る機会がない職業でもあります。
- 日明さん消防士や、救急隊員の仕事って、人の死に最初に直面する仕事なんですよね。肉親や身近な人の死って、堪えるし、考えさせられますよね。だから、まったく関係ない人であっても、その死と最初に出会ってしまうのって、本当につらいと思うんですよ。でも、そのことは実際にたずさわっている方たちはおっしゃらない。
それに、これは日本的な考え方だと思うんですが、仕事について「つらい、苦しい」は言ってはいけないという風潮がありますよね。
一つの美学だとは思うんですけど、一般の人にその大変さをわかってもらったほうがいい部分もあると思うんですよ。 - −−消防士の仕事をリアルに描く一方で、守さんのようなちょっと不思議なキャラクターも登場しますね。
- 日明さん日明さん あれは本当は美少女にしたかったんです。
- −−それはまたぜんぜん違いますね(笑)。
- 日明さんそれこそ、人形のような美少女にしたかったんですけど、無理なんですね。経済力があって社会に出ていない、生活ができるだけの情報と体験があるというキャラクターなので。そうすると、年齢がだいたい決まってきちゃうんですよ。あとは女性にするか男性にするかですが、雄大たちと合うキャラクターなので、女性ではなかろうと。ほかのキャラクターが本当にいそうな人を想定していたので、1人くらいは実際にはいなさそうな人にしようかな、と。守は、すごく好きだって人と、気持ち悪いって人と、まっぷたつに評価が分かれますね。
- −−浮世離れしたキャラクターなので、守さんが出てくると、場面のムードが変わりますね。
- 日明さん雄大は消防士という仕事があるから、現実から離れないんですね。でも、守のような、「人に迷惑かけていないんだから、私はこのルールで生きます」という人が1人といると、こういう生き方でもいいのかなって思えるんじゃないかな、と。
- −−日明さんの読書遍歴についてうかがいたいんですが、小説はもともとよく読むほうだったんですか?
- 日明さんものすごく読んでいました。小学生のころから電車通学だったことが大きいですね。ウォークマンが出てきたのが私が中学になってからだったので、電車に乗っている間は本を読むしかなかったんですよ。今でも、外出するときに本がないと不安なくらい、いつも読んでます。
- −−子供の頃によく読んでいた本はありますか?
- 日明さん小学生のころにはアルセーヌ・ルパン・シリーズですね。それからホームズ。小中学校のころに、角川映画ブームがあって、高木彬光さんや森村誠一さん、横溝正史さんの小説がいっせいに文庫で出たんです。父が揃えていたので、私も読みました。大人向けの小説ですから、たぶん意味はよくわかってなかったと思うんですけど。自分のおこづかいで買える冊数は限られていたので、父の本をよく読んでいました。そう考えると、子供らしくない読書傾向ですね
- −−小説をお書きになるきっかけは何かあったんですか?
- 日明さん都筑道夫さんの小説が大好きで、都筑さんの小説講座に友達と通っていたんです。当時、小説講座というものがよくわかっていなくて、お話が聞ける思って申し込んだんですね。でも、小説講座だから何か書いて出さなければいけない。そうすると、次回、コメントを下さるんです。それでエッセイふうのお話を書いて出したんです。「作文に毛に生えた程度のものだね」と言われましたけど。
- −−ミステリ評論もお書きになっていた都筑さんだけあって、厳しいですね。
- 日明さんそれで、むきになって書いていたところはありますね。あの手この手で。最初はエッセイ的なものだったんですが、よく考えたら、都筑さんはミステリ作家なんだからミステリを持っていかないとダメだと思って、80枚くらいのものを2週間に1篇持っていっていました。今考えると戦ってましたね。
そのうち、都筑さんに「あなたは長いもののほうが向いていそうだから、書いてみたら?」と言われて、書き始めたのが『それでも、警官は微笑う』だったんです。 - −−警察と消防のシリーズがそれぞれ2作ずつになりましたが、次に執筆される小説はどんなものになりそうですか?
- 日明さん気象庁です。気象庁、海上保安庁、漁師が登場します。その次は、たぶん、着ぐるみに入っている人の話になると思います。
- −−着ぐるみですか? 硬い職業から一転しますね。
- 日明さん友人にスーツ・アクターがいるんですよ。その話を聞いていたら面白くて。
- −−日明さんの引き出しはたくさんありそうですね。次回作以降も楽しみです。今日はありがとうございました!
もちろん、消防士という職業なので、かならず火事にはぶつかるんですが、できれば身近な火災にしたかったんです。消防白書を読んで火災の原因を見ていくと、なるほど、こういう原因で起こる火災が多いんだ、ということがわかるので、よし、今回はこの火災で行こうと。
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