- 平安寿子さん (たいらあすこ)
- 1953年広島県生まれ。アメリカの作家、アン・タイラーの作品に触発されて小説を書き始め、99年『素晴らしい一日』でオール讀物新人賞を受賞し、デビュー。著書に『パートタイム・パートナー』(光文社文庫)、『グッドラックららばい』(講談社文庫)、『明日、月の上で』(徳間書店)、『もっと、わたしを』(幻冬舎)、『なんにもうまくいかないわ』(徳間書店)、『くうねるところすむところ』(文藝春秋)、『Bランクの恋人』(実業之日本社)、『愛の保存法』(光文社)などがある。現在、「週刊朝日」に小説「あなたがパラダイス」を連載中。
インタビュー
- −−マガジンハウスの「ウフ.」に連載されていたということですが、連載を始めるときにはどんな小説にしようと思われていたんですか?
- 平さん永倉萬治さんってご存知ですか? (エッセイスト、作家。『あぁ、結婚』ほか。2000年に逝去) 私、永倉さんの大ファンだったんですよ。「漫画アクション」なんかに書いていらしたショートコントがすごく好きで。永倉さんがお亡くなりになって、ああいうものを書かれる人がいなくなった。私、ああいうものを書きたい! ってずーっと思っていたんですね。 連載をやらないかと言われたときに、そのことが頭にあったんです。ふつう、小説の短篇だと、原稿用紙50枚か、短くても30枚くらい。この連載では20枚という縛りをつくって、永倉さんのような感じで1回完結で話が落ちるものをやってみましょう、っていうことで始めたんです。 でも、案を練っていくと無理でね(笑)。あらためて永倉さんのものを読んでみたんだけど、やっぱりこれはできないっていうことがわかったんです。 私がやるとしたら、1人の主人公で書いていくしかないなと思って、毎回20枚ずつでオチはあるんだけれど、こういう連作のかたちになったんです。 それでもやっぱり、ふつうの短篇小説とは違うものにしたかったんですよね。「世間話小説」とでもいうのかな? 伊丹十三さんが、まだ伊丹一三さんと名乗っていて名エッセイストだったときにお書きになった『日本世間噺大系』(新潮文庫)という本があるんですが、生理座談会、ハゲ座談会……と、いろんな座談会があって、話し言葉がとても面白かった。 あのようにはとてもできないけれども、喫茶店なんかで女の人たちがふつうに話している世間話を小説でやりたいと思ったんです。 ですから、1回ごとにトピックを作って、それに対して、48歳と24歳の女の子がそれぞれ違う立場から自分の意見を言う。おもに48歳のほうが、ぎゃーって言うんだけど、24歳のほうは、口答えはしないけど「でも、違う」と思っている。 いってみれば、そういう世間話みたいな小説を書きたい、ということで書き始めたんです。
- −−「エッチは禁句」「二の腕問題」「低反発マットレス女」……各章それぞれのタイトルも面白いですね。女性の生き方の関わるさまざまな問題について、登場人物たちがそれぞれ意見を言います。おもに48歳の龍子おばさんがまくしたてますが。
- 平さん説教体質なもので(笑)。私も、ついつい、龍子おばさんみたいなことを言うクセがあるんですよ。説教くさいと思う人もいるかもしれないけど、私がいまの年になって思うのは、自分が若いときにいかに迷っていたかということなんです。 「この決断でいいとは思わないけど、ほかに知らないからこの決断でいいんだ」って自分に言い聞かせたりしていたけれど、すごく迷っていましたね。 だから、「もうちょっと考え方が自由になってもいいんじゃないか」って、いまの若い子たちに言ってあげたい。 若い女性って、ダイエットしたいとか、きれいになりたいとか。強迫観念みたいになっているところがあると思うんですよ。働くことに関してもそうですよね。私の言うとおりにしなさいとは言わないけれど、「こういう考え方もあるんだよ」ということは教えてあげたい。 ただ、私の若い頃もそうだったんですが、年上の人に何か言われると反発するんですよね。そういう気持ちもわかる。私や龍子おばさんが言っていることも、経験から言っていることであって絶対に正しいわけではない。だから、24歳のるかに、「違うんじゃないかな」とか、「わかるけど、いまはそんなこと考えられない」と言わせることで、一方的にならないようにしています。
- −−るかちゃんの受け止め方がマイペースなところがいいですね
- 平さん実際に、私の身近にぼーっとした子がいるんですよ(笑)。大丈夫かなって思うときがあるので、私もついついワンワン言って。そうしたら、「それはあなたの押し付けかもしれないから」って別の人に言われたことがあって。 マガジンハウスの雑誌に載せるということもあって。若い女性が読むだろうから、若い子を主人公にしよう。それで、いっぺん説教しておこう(笑)。
- −−るかちゃんがバイトしている画材店「ディマンシュ」に集う人たちも面白いですね。男性読者として読むと、古木店長の描写が辛らつです。男のダメな部分を見事に描いてらっしゃって(笑)。
- 平さんビシバシ言い過ぎたかな、と思いますけど、この古木さん、メゲていないので(笑)。
- −−鈍感なんでしょうね。
- 平さん鈍感っていうよりも、自分の世界があればいいっていう感じだから。私が書く男は、現実に弱くてダメ男ばっかり。かわいいと思って書いているからいいでしょう? って言いながら書いてますけど。男性から見て、「そんなことない!」とは思わないでしょう?
- −−そうですね(笑)。思い当たる節のある男性は多いと思います。
- 平さんほんとうに「強い」っていう男の人に、私、会ったことないんですよね。みんな夢見がちで(笑)。
- −−その夢見がちな古木が憧れるワビコさんという女性も印象的です。ふわふわした美人。るかの目線で、ちょっとイジワルく描かれているけれど、かといって悪人というわけでもない。
- 平さんああいう人って、いますよね。現実に。 私、まったく見たことも聞いたこともないものを架空に作り出すことはできないので、見たこと、聞いたことをデフォルメして描くんです。 友だちで、ワビコさんみたいに、すらーっとして素敵な人がいるんですよ。イジワル目線は、やっぱり嫉妬なんです。あんなふうにすらーっとして生まれてきたかったって(笑)。 ワビコさんは、個人的にはお友だちになれないタイプですけど、悩みが何もないように見えて、実は彼女にだって抱えている悩みがあると思うんですよ。
- −−『センチメンタル・サバイバル』には、いろんなタイプの登場人物が出てきますね。主人公はぼーっとしているけど、同僚の民子ちゃんは独立心旺盛な女の子。るかが恋心を抱く相手は左官屋の男の子です。
- 平さん私は、人間は他人によってしか世界が開かれないし、他人と出会うことでしか成長できないと思っているので、こういうことになるんです。 民ちゃんや龍子おばさんは、私の小説によく出てくるタイプの人間で、またこれかい(笑) と思う読者もいるかも知れないですね。左官屋さんというのは、建築小説(『くうねるところすむところ』)を書くときにいろいろ調べた関係で、左官屋さんってかっこういいな、と思ったから(笑)。小説の中に月刊「左官教室」って出てきますよね。あれ、ほんとにある雑誌なんですよ。ふつうの人は知らないでしょうけど。 私自身が、ずっと書く仕事をしてきたので、ほかの仕事を意外と知らない。だから、ほかの仕事をしている人に興味があるんです。とくに手仕事とか、身体を使っている人、そういう仕事をしている人への憧れがあって、登場人物として出てくるのかもしれないですね。 小説のなかでも書いたんですが、自分が知らないことを知っていたり、持っていないものを持っている──そういう人に憧れることってあると思うんです。
- −−平さんの小説の魅力のひとつに会話の面白さがあります。あんなふうに軽妙でユーモラスな会話は、すらすらと書けてしまうものなんですか?
- 平さん漫才とか落語とか、語り芸がもともと好きだったということと、ニール・サイモンなんかの戯曲が好きで読んでいたので、ダイアローグのほうがむしろ先に出てくるんですよ。もの書きになろうと思ったとき、小説かお芝居か、どちらにしようか一瞬考えたくらい。 ですから、会話を書くのはわりに苦にならないんですよ。キャラクターを考えて、会話をわーっとさせると、そこから逆に、どういう状況でどういう場でこの会話が出てきたのか。そうやって周りを固めていく。そんな感じで書いていますね。 ですから、小説を書き始めた最初の頃は、下手をすると会話がばーっと続いちゃって、小説の場合、それはマズイから(笑)。後から、あたふたと埋める、というようなことをしていましたね。 小さい頃から、お芝居とか語り芸とかを見ていたから、会話というのは自分のなかに入っていると思うんですよね。
- −−世間話を聞くように読めるという意味で、たしかに「世間話小説」というものがあるとしたら、この小説だと思いました。 では、最後に今後の新刊の予定を教えてください。
- 平さん3月に新潮社から、食に関する短篇集が。次は6月に、講談社から、詐欺まがい商法をしつつ、アルバイトでプチ恐喝をしている二人組という小説が出ます。文芸誌に短篇小説をせっせと書いていたら、今年、立て続けに本になることになったんです。その2冊と週刊連載の更年期ジュリー小説が終わったら、今年後半から書下ろしに取り組みたいと思っています。
- −−楽しみにしています。今日はありがとうございました!
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