−−この本の最初に「ミーティングで僕の話を聞いてくれないスタッフたちへ」と記されていますね。現在は経営者として80人もの従業員を抱えていらっしゃるそうですが、こうした形でご自身の想いを伝えたいと以前から思われていたのですか?
手塚さん いや、全然考えていなかったですね。正直、最初は本を出すこと自体に抵抗があったんですよ。ホストというのは、言ってみれば元気がない人を励ます商売で、社会的な役割としては裏方じゃないですか。だから表に出るべきじゃないなと。第一僕自身、そんなに誇れる人生を送ってきたわけではないですから、形に残るものを作るべきではないと思っていたんです。
でも同時に、せっかくのチャンスだという思いもありました。それで本を書く意味を考えた時、社会に対して偉そうに何かを言うのではなく、身近なスタッフに伝えたいことをまとめるのがいいんじゃないかと気づいたんです。ここに書いたのはいつもスタッフに話していることです。ミーティングだとなかなか聞いてくれないから(笑)。今回はいい機会を与えていただいたと思っています。
−−『自分をあきらめるにはまだ早い』というタイトルをつけた理由とは?
手塚さん 僕が一番言いたかったのが、この言葉なんですよ。といっても、すでにある程度頑張れている人に向かって言うのではなくて、どうして生きていけばいいのか迷っている人に、ちょっとでも頑張ればいいことがあるよ、と伝えたかったんです。
−−若いスタッフと接する中で、そう感じられたのでしょうか?
手塚さん そうですね。実は1年ぐらい前にすごく落ち込んだ時期があって。その時、こんな自分でもついてきてくれる仲間がいるのだと思った。それをきっかけにスタッフたちのことをそれまで以上にきちんと見て、考えるようになりました。すると、育ってきた環境がどうしようもなかったりするんですよ。生きるために、悪いことをやらざる得ない状況に陥ってしまうことがあったり。そうやって育ってくると、お店でナンバーワンをとっても、「自分は選ばれた人間じゃないから」という気持ちが拭いきれないんです。でも、それって平等じゃないなとすごく思った。
ホストの世界には「自分は選ばれていない」という意識が強い人が多いですからね。反対に、「選ばれた」というか、ずっと恵まれた環境で育ってきた人は、やっぱり心が優しかったりする。なんていうか、いい人なんですよ。そういう人に罪があるわけではないけれど、子供の頃から悩みの大きさが絶対的に違うはずなんです。その不平等さに、僕はすごく腹が立ってしまう。その不平等さが大きな格差になって、人生をあきらめたりするなんて、と思うんです。
−−「選ばれた人」「選ばれていない人」という考え方はすごく興味深いですね。
手塚さん 「選ばれていない」と感じている人は、真面目に生きていればいい人生が待っているとは考えないんですよ。ホストとして成功してもその気持ち、自分の核の部分は変わらない。でも、そんなことじゃない。生まれた時から選ばれていない人間なんていなくて、やればできるよっていうのは、この本に込めた思いでもありますね
−−ご自身が育った環境はどうだったのですか?
手塚さん すごく普通でした。どうしようもない環境に育った人の気持ちが全部理解できるわけじゃないから、経営者になってすごく考えました。自分がホストになって、この職業の社会的地位の低さを痛感して、いろいろ考えたというのも大きいですね。職業も、生き方にしても、僕自身、ずっと胸を張ることができなかったので。自分は何者なのか…と生きている意味ばかりを考えていましたから。
−−進学校から大学中退、そしてホストの世界へ…というのは異色だと思いますが、そもそも大学をやめて、ホストの世界に入ったきっかけとは?
手塚さん 人体実験みたいな感覚ですかね(笑)。受験勉強をしている段階から、僕は大学に興味がなかったんですよ。大学生活に魅力を感じなかったし、その先にある就職に対するイメージも全然湧かなかった。結局、自分がいかに成長できるか、ということにしか興味がないんですよ。大学にしても、ここにいても成長しないと感じたからやめた。自分が成長できると思えた場所が、たまたま新宿のホストの世界だったわけで。入ってみたら、歌舞伎町での自分のアウェーさが面白かったんですね。でも、同級生はみんな大学に行っているわけじゃないですか。正直、彼らに対する劣等感はありました。だから、卒業する頃には見てろよって(笑)。あいつらに負けたくない、っていう気持ちがホストの世界で頑張る原動力にはなりましたね。
−−そう伺うと、劣等感を持つのは決して悪いことばかりではないのですね。
手塚さん そう思いますね。劣等感を持った時にやってやろうと思うか、ダメだとあきらめるかが分かれ目ですね。たぶん、ダメだな…という方向にいく人が多いと思うんですよ。やってやれないことはない、と伝えようと思っても、それを他人に実感させるのはすごく難しいですし。そういう意味で、この本を出せたことは、すごくよかったですね。ホストとして仕事をする中で、作文さえろくに書いたことのなかった僕が本を出版できた。成功体験を話すより、その事実が一つのメッセージとなって、スタッフに受け止めてもらえればいいなと思っています。
−−ホストになって自分が成長したと感じる部分はありますか?
手塚さん 危機管理能力というか、度胸はついたかもしれないですね(笑)。あとはなんだろう…人を肩書きで判断はしない。自分の感覚をそれまで以上に重視するようになったのは、この仕事に就いてからかもしれないですね。
ホストクラブというのは、お客さん自身が虚像の自分を作って来る場所でもあるので、難しさがあるんです。裏切られたことも多いですし。怖いのは、それに慣れてしまうことで。でも慣れないとやっていけない面もある。だからこそ、何が正しくて、間違っているかが自分自身でわかってないとダメなんですよ。この状況は受け入れても、自分は絶対にやらないという。
−−この本にも書かれていますが、「自分の芯を持つ」ことが大事だと?
手塚さん そうですね。
−−自分の芯を持つためには、どうすればいいのでしょう?
手塚さん ぶれない自分でいるためには日々一生懸命やっていくしかないですね。楽に生きるための裏ワザも近道もない。人生の攻略本なんてないと思うので。
−−「成功体験より、何かを一生懸命やってみる、真剣体験」が大切だと、本の中でも述べられていますね。
手塚さん 夢中になれるものがあればいいと思うんですよ。ただ夢中になるものを見つけるにしても、子供の時からいろいろな体験するチャンスを与えられてきた人はいいけど、そういうチャンスがなかった人は、チャンスがあること自体を知らないし、何かを一生懸命やればいいことがあるというのもわからない。だからできるだけ一生懸命にならないでやろうと思っていると、チャンスに恵まれてきた人に負けてしまう。それでああ、やっぱり一生懸命やっても上手くいかないと、マイナスの経験が積み重なっていく。そういった負のスパイラルから抜け出して、巻き返しができると言いたいんです。それを伝えるのはすごく難しいですよ。そのためにはホストとして何ができるか、それを僕自身が見せていくしかない。
ひょっとしたらそうやって、自分の周りにいる人に何かを伝えたいと強く願うこと自体、生きていく上で大事なのかな、とも思いますね。
−−なるほど。お店の経営からボランティア活動と、さまざまな場所で全力投球されていますが、今後やってみたいことはありますか?
手塚さん まずは本が売れることですね(笑)。あとは本を書き終えたので、次に何をしようかなって考えるのが楽しみで、今、すごくワクワクしています。最終的な目標を決めるより、面白いことをしながら成長したいですね。基本的に流れに任せるタイプなので(笑)。今は責任を負っている立場でもあるので、自分も周りも納得できることをやってきたいと思っています。
−−最後に2009年の抱負をお聞かせください。
手塚さん 不景気で物事をあきらめるチャンスが散らばっている世の中ですが、不景気のせいにしたくはないですね。あとは今までやってきたことは否定せずに生きたいなと。「自分が選ばれていない」と感じることは、ホスト以外の仕事でもあるはずなので。僕は今までホストとしてやってきたことを大切にしたい。そうやって成長していければいいですね。
−−今後の手塚さんの活動を楽しみにしています。本日はありがとうございました!