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| 第140回芥川賞受賞作!本当に大事なことは、きっと毎日少しずつ育ってる。 |
| 『ポトスライムの舟』 |
| 1台のコピー機が社内の人間関係をあぶりだす! |
| 『アレグリアとは仕事はできない』 |
| 第138回芥川賞候補作。 イリエは同僚の森川を好きになったと仮想する… |
| 『カソウスキの行方』 |
| 30歳を目前に再会したタケヤス・ヨシズミ・ホカリの幼なじみ3人 |
| 『八番筋カウンシル』 |
| 第21回太宰治賞受賞作。 就職が決まった大学四年生、すぐそこにある悪意と、希望 |
| 『君は永遠にそいつらより若い』 |
| 友人の結婚式に出席中、上司の親の葬儀に呼び出されたヨシノの一日 |
| 『婚礼、葬礼、その他』 |
| 直木賞・芥川賞の話題作を詳しくご紹介! |
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−−「ポトスライムの舟」芥川賞受賞、おめでとうございます。過去にも『カソウスキの行方』『婚礼、葬礼、その他』がノミネートされ、3度目の今回、見事受賞されました。受賞の報をお聞きになった、そのときの率直なご感想を教えてください。 津村さん 賞の結果を待つのは4回目だったので、さすがに落ち着いていました。講談社さんの会議室で、ゆかりのある編集者の方々と待っていました。感想に関しては、それはもう「よかった!」のですが、落選し慣れていたので、なぜか、信じすぎないように用心深くなっていました。受賞しましたという電話をいただいたのは事実なのに。 −−津村さんは『マンイーター』(単行本『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞、『ミュージック・ブレス・ユー!!』では第30回野間文芸新人賞を受賞されていますが、芥川賞受賞の感慨はまた別格ではと思います。ご自身ではどんなちがいがありましたか。 津村さん 賞をいただくことそのものについては、そんなに違いはありません。受賞することに対してついてくるものは、芥川賞は別格に多いですが。 −−『ポトスライムの舟』についてお伺いします。主人公はナガセという29歳の女性は、工場のライン業務を日々こなしながら、友人の喫茶店を手伝ったり、パソコン教室の講師もして働き続けています。薄給ながら世界一周クルージングのために貯金をはじめ、日々の出費をメモるなど、ささやかな節約生活をしていますが、そこに、夫との関係がこじれた友人が子連れで転がりこんできたり……。古い家で同居するナガセの母や、工場の先輩女性など、ほとんどの登場人物が女性ですが、そういった彼女たちの日常と、互いに触発されて揺れたり広がったりするナガセの心情が描かれてますね。等身大の女性、仕事をする女性をテーマ(主人公)としている理由を教えてください。
津村さん わたし自身が、友達であれ同僚であれ、働く女性に日常的に接しているからです。そういう人たちと、ニュースやドラマや雑誌などのいろいろなメディアから伝え聞く女の人たちは、何か違うなあ、と思ったので、自分のよく知っている女の人像について、自分なりにいったん整理したいと思い、それで登場人物が女の人ばかりなのです。 −−『ポトスライムの舟』もそうですが、ほかの作品でも、登場人物や主人公たちの名前がカタカナ表記になっているのは、どんな効果や狙いがあるのでしょうか。 津村さん 大きな狙いはありません。わたしの文は改行が少ないので、名前をカタカナ表記にすることによって、字面そのものを軽くしているような感じです。登場人物の名前にすべて関連性があったり、名前とも名字とも取れるようなカタカナ表記にしてあったり、意味がある場合もあります。 −−表題になったポトスライムですが、私も育児中、切っておくと無数に増えていくポトスを、淡々と家いっぱいにしていった記憶があるのですが……、津村さんがポトスにこめられた思いを教えてください。 津村さん 他にも増えて欲しい観葉植物はあるのに、ポトスばかりが育つのが不思議でした。たまに苛立ちもしました。ですが、小説の中にも書いたように、新しい芽が出て葉になるまでのポトスは、とても生物らしい姿をしていて、それはそれで安心するし、いつまでも眺めていたい気分にさせてくれます。 −−最近の世界的な経済状況や社会情勢と照らし合わせたり、「つつましい生活をしている描写に文学的普遍性がある」といった評もありましたが、仕事をする一女性としては、そういったことより、女性の生き方、会社での出来事、暮らし方、気持ちの行方などに、より深く共感を覚えます。津村さんも、日中は(土木系)コンサルティング会社に勤務し、帰宅後に執筆活動に取り組んでいるとのこと。作家と両立させるご苦労はどのようなものなのでしょうか。また、作家になっても、仕事を続けている理由を教えてください。今回の受賞で社内の方々の反応などはございましたか? 津村さん およそのスケジュールですが、18時半ごろに家に帰って、21時から翌日の1時まで一眠りします。そして、一時間ほどで雑事をすませたあと、2時から4時まで文章の仕事をします。中学生の時から分眠生活をしていたので、今も特に「苦労している」という感覚はありません。そういう体質なのだと思います。一日に二つのことができないのです。一回寝るとすっきりしますし。 会社の人たちは、皆喜んでくれています。わたし自身が、これからの仕事の見通しを考えると手放しで喜べるわけではないということもあって、そっけない反応しかできないのが申し訳ないです。仕事と両立している理由は、小説の仕事が、まだ独り立ちできるほどのものではないと思いますし、会社での仕事が自分に向いているということもあって続けています。 −−今回の出版にあたって、一冊にまとめられた『十二月の窓辺』についても、お聞きします。やはり働く女性が主人公ですが、「ポトスライムの舟」とはまた異なる働く環境の息苦しさ、そこから離脱する爽快さ、友人との不思議な距離感などがあるように思います。どのような思いで書かれたのか、また一冊にされた意図があれば教えてください。 津村さん モラルハラスメントをする人というのは、対象に自分に都合の良い世界観を吹き込んで視野を狭くさせるところがあります。それを、できるだけ意外な方向から打破する小説が書きたいと思いました。鈍感な強い者のもっともらしい世界観だけが世界のすべてではないと言いたかったのです。そこにたどり着くまでの抑圧がリアルすぎていやだ、という話をよく聞くので、申し訳ない気分になります……。一冊にした意図は特にないのですが、強いて言うなら、今の三十歳前後の人間は、一社目の会社を選び間違えると、そのことがずっとついて回るようなところがありますので、そのことに関して気がついていただけたらな、と思いました。一社目を選び間違えた人の、使用後・使用前みたいな構成ですね。 −−今後の作品も楽しみです。今後、書かれるテーマや作品の構想などがありましたら、こっそり教えてください。 津村さん 2月20日に朝日新聞出版さんから『八番筋カウンシル』という小説が発売されまして、これが今のところの最新作です。書き下ろしの長編で、商店街を舞台にした成長小説のようなものです。どうしても書きたかった話ですし、わたしの作品では今のところではベストだと思うので、お読みくださると幸いです。 これからも、小説を書く予定はいくつかあって、どれも毛色の違う話を書くと思います。今は、妙に敷地の広い低層の古い建物の中での群像劇を書いていますし、次は中学生たちが塾の長期休暇の宿題を取り引きし合う話を書く予定です。その次は、一度しか会ったことがない同じ誕生日の働く男女が、お互いが同じ誕生日で働いている、ということへの共感だけを元に、一年間をやはり必死で働くという話です。その次は、架空の神社とそこの参拝客同士の小競り合いの話です。ここまでが、だいたい一年先ぐらいまでの予定です。 今後どこかでわたしの名前を見かけたら、どうぞお目通し願えれば大変幸いです。必死で小説を書いていくことは、今もこの先もまったく変わりません。よろしくお願いいたします。 −−今後も素敵な小説を期待しています。ありがとうございました! |