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冲方丁さん 天地明察 祝!本屋大賞受賞!日本初のオリジナル暦「大和暦」を作った江戸の偉人渋川春海にスポットを当てた超エンタテインメント歴史小説

「暦(こよみ)がずれている!」唐国(中国)からもたらされた宣命暦を採用して八百年。暦のずれを修正し、「日本独自の暦」を作り出すことに人生を賭けた男がいた! 徳川家に使える「碁打ち衆」の家に生まれた渋川春海は、算術好きを見込まれて江戸幕府から改暦の仕事を任せられることになる。しかし、万全を期したはずの新暦は、あと一歩のところで月蝕の予測を外してしまう……。苦しみながらも目標へ向かって歩むことを忘れなかった渋川春海を主人公に、大転換の時代を描いた本格時代小説。

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冲方丁さん 天地明察
『天地明察』
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冲方丁さんの本

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プロフィール

冲方丁さん (うぶかた・とう)
1977年生まれ。早稲田大学中退。1996年、『黒い季節』で第1回スニーカー大賞金賞を受賞し作家デビュー。2003年、『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞を受賞、ベストSF 2003国内篇第1位に輝く。小説の他にゲーム、コミック原作、アニメ制作と活動の場は幅広い。他の著書に『ばいばい、アース』『テスタメントシュピーゲル』などがある。

インタビュー

冲方丁さん『天地明察』

★高校生のときに出会った「渋川春海」の人生

−−「渋川春海」という人物のことを知らなかったので、『天地明察』を読んで驚くことばかりでした。冲方さんは16歳のときに渋川春海の存在を知ったそうですね。
冲方さん高校の授業で、日本史上の人物についてレポートを書けという課題が出て、渋川春海の生涯を調べたことがきっかけでした。そのとき、春海の人生に魅力を感じて、かなり詳細なレポートを書いたんです。それからずっと、いつか渋川春海を主人公にした小説を書いてみたいと思っていました。実は日本SF大賞を受賞したとき、受賞第1作として書いたことがあるんですが、中編だったこともあって納得のいくものになりませんでした。
−−『天地明察』の主人公、渋川春海は江戸時代に「暦(こよみ)」の改定に尽くした人物。暦は、あたりまえすぎて気がつかないけれど、実は、私たちの生活に不可欠な要素なんだということにあらためて気づかされました。暦と渋川春海という人物、どちらに先に興味を持たれたんですか?
冲方さん暦のほうが先ですね。僕は子供の頃、海外で暮らしていたんですが、通っていたインターナショナルスクールのクラスメイトが全員、宗教が違っていたんですよ。宗教によってはタブーもあるので、子供とはいえ自分の宗教について説明できたり、ほかの宗教のことを尋ねたりすることが必要だったんです。そんななかで、「ジャパニーズ・レリジョンは何?」と聞かれて。
−−海外で聞かれて、説明が難しい質問の一つですね。
冲方さん僕はいつも「フリーです」って答えていたんです。「ノー・レリジョン」と答えると反宗教、宗教否定になってしまうので、そう答えろと大人に言われていたから。でも、子供心に「宗教がフリーってどういうことだろう?」と疑問を感じていました。日本に帰ってきて生活するようになって、ふとカレンダーを見たときに、ありとあらゆる宗教的行事が日付に無造作に書き込まれていることに気づきました。クリスマス、ハロウィン。お正月は神道、でも、仏滅や大安は仏教……。いろいろな宗教の要素が入っているけれど、「日の巡り合わせ」こそ、日本人の信仰の大本にあるものなんじゃないかと思いました。日本神話の天照大神も太陽神ですし、国旗の日の丸も外国では「レッド・サン」。日本人が信仰しているのは太陽、日付、日の巡りなんじゃないかと思ったんです。それで、暦のことを調べるうちに、日本オリジナルの暦を作った渋川春海を知って、その挫折しまくりの人生に驚嘆しました(笑)。ちょうど、将来の目標や、どういう大人になりたいかを考える高校時代だったこともあって、そのときの自分のフィーリングに渋川春海の人生が一致しました。挫折しても挫折しても立ち上がる。春海の人生に勇気をもらいましたね。

★「無術」の問題は冲方さんの自作によるもの

−−『天地明察』には、「暦」だけでなく、渋川が「暦」に関わるきっかけになった「算術」、また、渋川の家の仕事でもあった「囲碁」と、これまた小説ではなかなか取り上げされない題材が登場します。読者にわかりやすく書くために苦労もあったのでは?
冲方さんまず、僕は碁を打ったことがなかったので、囲碁の入門書を読むことから始めました。「初手天元」や「初手右辺星下」は実在した有名な棋譜なので、最低限理解する必要がありました。神道を理解するのも大変でしたね。神道が世界で見られるほかの宗教と画然と違うのは、教義があるようでないところ。何から勉強すればいいか途方に暮れました。しかし、渋川春海も神道の免許を一つ持っていましたから、当時の神道については一通り調べました。あとは算術ですね。和算は西洋数学と理屈が違うんです。西洋数学の難解な問題を独自の論法で解いていたりします。
−− 数学はお好きだったんですか?
冲方さんわりと好きでしたね。大得意、というわけではないんですが。今回、わざと間違えた問題を作らなくてはならなかったのでそれが大変でしたね。
−−作中に出てくる「無術(解答がない問題)」の問題は冲方さんがお作りになったんですか?
冲方さん一から作りました。「無術」は和算に独特の考え方で、解答の出ない問題ですが、決して誤問ではなく、後に解法が出ることもあります。関孝和がなぜ有名になったかというと、沢口一之という和算家が遺した「15の遺題(未解決問題)」のうち、「無術」のはずの2問を解く方法を発明したからなんです。囲碁の棋譜のときもそうだったんですが、和算も小説の文中で再現しようか迷ったんです。でも、編集部にファックスで解法を送ったら「さっぱりわからない」と言われて(笑)。じゃあ、文中でやるのはやめようということになりました。

冲方丁さん『天地明察』

★好きなら学べが江戸幕府の考え方

−−『天地明察』に登場する和算も暦も、日本の歴史、伝統のなかにあって、忘れられかけているものですね。
冲方さん日本人は意外と理系脳だったってことですよね。江戸時代は理系の趣味が盛んだったんです。お百姓さんの娘さんが算術が好きで塾に通った、という記録もあるくらいで。
−−『天地明察』には算術ブームと言えるような盛り上がりが当時江戸で起こっていたことが書かれていて、「ああ、こういう江戸もあったんだ」と新鮮に感じました。
冲方さん日本人は、知的好奇心が旺盛で、一つのことに夢中になれる民族なんだと思います。たとえば、当時の算術の問題で、解くのに3年間かかるものがあったんですよ。毎日毎日「ここまで計算した」と記録をつけて3年間(笑)。当時は、江戸幕府も、学問が優秀な人を取り立てていくということを始めたばかりでした。算術は金山の開発や、お城の築城に必要なものだったので求められていたんですが、だからといって、算術の試験制度があったわけではないので、趣味が高じて、という人たちの熱意に支えられていた。好きなら学べ、というのが江戸幕府の考え方だったんです。この当時、日本は大きな価値転換期にありました。戦に明け暮れた戦国時代は昔のものになり、豊臣秀吉の朝鮮出兵の失敗で、武士は戦争では食べていけないということがはっきりしました。では徳川幕府はどうしたか。武士による軍事国家だったはずなのに、ここで文化政策を打ち出すわけです。その発想もすごいですよね。そして、それを実現するために、才能豊かな人たちが山のように出てきたんです。
−−価値転換が成し遂げられたことによって、徳川幕府三百年の平和がもたらされた。『天地明察』で描かれているのは、まだ、その黎明期といっていい時代ですね。
冲方さん書いていていまの時代と似ていると思いました。渋川春海はいわば戦争を知らない戦後世代。かといって、平和を享受しているわけではなく、政情は不安定。当時の江戸はデフレの大不況。いまの日本とそっくりです。緊縮財政のせいで、都市部では米が余って、農村部では足りない。江戸では米ぶくれで江戸では一日三食米を食べていたのに、農村では飢饉が起こっているという極端な状況でした。この経済のアンバランスさで、いつ、江戸幕府が倒れてもおかしくなかった。そんな状況のなかで改暦という文化政策をやるなんて天才的な発想だと思います。しかも、すごいのは、渋川春海が成し遂げた改暦によって、ソンをした人がいないことです。公家、武家、天皇家……それぞれに利益が配分されている。当時の幕閣の調整能力はすばらしいんです。 加えて、幕府の中で人材が足りなければ、外に求めるという柔軟さがあった。もともと日本人は、かなり自由な発想を持っていたんだと思います。渋川春海も、もともとは碁打ちだったのに、武士になった。その理由が、暦を作ったから、ですから。西洋で言えば、チェス・プレイヤーがナイトになるようなもんですよ(笑)。

★春海と同時代に活躍したきら星のごとき天才たち

−−算術の関孝和、囲碁の本因坊道策、江戸幕府大老の酒井忠清、保科正之、水戸光圀など、きら星のごとき才能のある人物が多数、登場します。彼らの人物像が存分に描かれているのも『天地明察』の魅力ですね。
冲方さん春海もそうとうな才人だと思うんですが、彼の才も色あせるくらいの大天才が周りにいた。本因坊道策は碁聖といまだに言われていて、現代に通じるような打ち筋をすでに発明していました。政治では保科正之が稀代の政治家と言えるでしょう。火事の被害を減らすための都市改造案や、江戸市民のための用水路計画を立てたり、会津藩では農民たちの貧困を救おうとした。その発想に驚かされますし、生涯にわたって、そうしたアイディアを出し続けて、ことごとく実現している。酒井“雅楽頭”忠清は悪人として描かれがちなんですが、この人も天才としかいいようがない。山本周五郎の『樅の木は残った』で仙台藩のお家騒動が描かれていますけど、史料によれば、このとき、酒井は問題が勃発する前に鎮火しているんですよね。江戸幕府の政権下ではいたるところで問題が起こっていたんですが、酒井忠清は速やかに裁定して事を収める。「知性」という言葉がよく似合う人です。新たな価値観を作り上げなければならない時代だからこそ、天才たちが登場したのか天才たちが登場したから大転換期を乗り越えられたのかはわかりませんけど。戦後から平和へどう転換するかという現代にも通じる問いだと思いますね。

冲方丁さん『天地明察』

−−渋川春海は天才たちと比べれば地味な存在ともいえますが、春海の魅力をどう描くかについて試行錯誤はされましたか?
冲方さん春海の生涯をどうやって書こうか、書き始める前には悩みました。「その日、春海は登城の途中、寄り道した。/寄り道のために、けっこう頑張った」っていう2行が書けたときに、「そうか、この人は寄り道のためにけっこうがんばった人生を送ったんだ」って、ストーンと腑に落ちました。鋭意粉塵努力しました」というよりも「けっこうがんばった」という、一歩引いた感じが、この人を描く上で最適なんじゃないか、と。書き始めてからは行き詰まったことは一度もなかったですね。「野性時代」での連載中は、資料が見つからなくて、どうしよう、と慌てたときでも、不思議なことにギリギリで資料が見つかって、締め切りに間に合ったんです。縁があるんだなと思いました。時代小説を書く面白さはそんなところにもあるのかな、と思いました。

★こんな時代だからこそ「勇気百倍」を合い言葉に

−−私たちは徳川幕府が三百年続いた、という結果から逆算して考えがちですけど、『天地明察』の時代は、まだこれからどうなるかわからない不安の時代。『天地明察』は徳川幕府三百年の太平の世の礎がいかに作られたか、という物語でもありますね。
冲方さん徳川幕府を立ち上げたときの資金、600万両を使い果たして残高ゼロになっちゃった時代ですからね(笑)。そんなときに、保科正之が「江戸は生まれ変われる」「武家も学問で身を立てられる」「「飢えをなくすことは可能である」などなど、それまで誰も考えなかったことを言い出して、実現している。そして、実現されたことによって、それが必要だったことがみんなにわかる。すごいなあ、と思いますね。今の時代の政治家にいちばん求められていることなんじゃないでしょうか。
−−戦国時代のような完全な乱世ではなく、枠組みはあるけれど安定はしていないという微妙な乱れ方。いまの日本を重ね合わせて考えると、大転換期に求められる発想力がどんなものか、ヒントになりそうですね。
冲方さん養老孟司先生が書評に書いてくださった「現代人もこういう風に生きられないはずがない。同じ日本人なのだから。」(毎日新聞 2010年1月31日 東京朝刊)という言葉が、この本を世に出したいと思った動機を正確にくみ取ってくださったと思います。娯楽として楽しんでいただくことはもちろんですが、ぜひ、渋川春海の生き方から勇気をもらってほしいと思います。渋川春海が残した「勇気百倍」という言葉は、春海がどん底で吐いた言葉ですから。いまの日本に「勇気百倍」という合言葉が広まってほしいですね。
−−いまこそ、渋川春海とその時代の天才たちに学ぶべきときですね。今日はありがとうございました。

(後記)時代小説、江戸時代、日本独自の「大和暦」、算術、囲碁……いずれも、それぞれ熱心なファンがついていそうだが、これら全部に通じている人はなかなかいないだろう。これら、さまざまモティーフを盛り込んで飽きさせず、なおかつ、一人の男の人生を見事に描き出しているのが『天地明察』だ。冲方さんにお話をうかがって思ったのは、渋川春海とその時代への思いの深さ。ICレコーダーを止めたあとに、ぽつりと冲方さんがつぶやいた「書きたかったのは時代小説ではなく、渋川春海を書こうとしたら時代小説になったんです」という冲方さんの言葉のなかに、この小説の魅力の秘密がある。(タカザワケンジ)

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冲方丁さん『天地明察』目次

日本オリジナルの暦を作った渋川春海
隠れた偉人の功績をドラマティックに描く!
【1】スーパーヒーローじゃない、挫折続きの渋川春海の人間臭さにしみじみ共感できます!
【2】彼を取り巻く江戸の著名人。きらびやかなビッグネームの中でも春海がダントツで魅力的!
【3】江戸人の大きな時勢を読み込んだ政治力。社会の教科書からは見えてこない真実が分かります

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  • ★史実に基づくノンフィクションとフィクションが見事に調和し、幕府や朝廷の思惑や虚々実々の権力争い権謀術数が生々しく描かれ、頁を繰る手が止まらなかった。
    最後の改暦に至る部分の描かれ方がちょっと駆け足気味に感じられたのが残念だが、そんなことはどうでも良くなるくらい充実した内容と描写に大満足。
  • ★算術好きの若者が、暦作りの命を受け、生涯をそれに捧げることに。渋川春海の生涯が、くっきりと、清々しく。直角三角形を江戸の世で何と言ったかなど、興味深いことを知ったりしながら、挫折に次ぐ挫折のなかを「勇気百倍」と言えた人の人生から、勇気をもらえます。和算の偉雄・関 孝和など、嬉しい人々にも、当然ながら、この作品で出会えます♪お薦めです☆

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