- ジェシカ・ウィリアムズさん
- 英国公共放送BBCのジャーナリストであり、テレビプロデューサー。1970年スコットランド生まれ。7歳のときにニュージーランドに移住。オークランドにあるニュージーランドテレビのレポーターとして勤務した後、1999年にロンドンに戻り、BBCのフリージャーナリストとして仕事を開始。現在はBBCのインタビュー番組「HARDTalk」のプロデューサーとして、ノーム・チョムスキーからデイヴィッド・アッテンボロー、エドワード・サイードまで世界の有識者へのインタビューを手がける。初の著書『世界を見る目が変わる50の事実』はタイム誌、ミラー誌等で高く評価されてベストセラーに。イーストロンドン在住。
インタビュー
- −−「中国では4400万人の女性が行方不明」「2040年に原油は枯渇するかもしれない」……など、『世界を見る目が変わる50の事実』は、どれも「ええっ!」と驚かされることばかりでした。現在、BBCのプロデューサーとしても活躍されていますが、本を書かれたのは今回が初めてだったそうですね?
- ジェシカさんこの本を書いたのは、出版社から本の企画が持ち込まれたことがきっかけです。それは「世界のショッキングな事実をリストアップする」といった内容のものでした。でも、実際にどんな本にするかを出版社の人たちと話し合う中で、ただ衝撃的な事実を並べると、読者を悲観させて、「私たちには何もできない」という無力感しかの残さないのでは、と思いました。そうはしたくない。この本を読んだ後、「私たちに何ができるだろうか」と考えてもらうようにすることが、大切ではないか、少しでもポジティブな何かにつながったらいい、そう思い始めたのです。
- −−−−「50の事実」はどれも世界における重要な問題にも関わることですが、どのようにこれらの事実を選んでいったのですか。
- ジェシカさん最初に世界で起きている興味深い事実を挙げてみたところ、90近いリストになりました。でもその一つひとつを見ていくと、貧困は識字率の低さといった、教育の問題につながっていたり、根底は同じ問題であるものも多いのです。それらを50の事実に絞り込む中で、政治的な問題のみならず、「アメリカのポルノ産業の規模は100億ドルで、海外援助額と同じ」といった、社会的な事実も盛り込こむようにしました。悲観せざるえない事実の羅列だけに終始したくなかったからです。中でも「ブラジルでは軍の兵士より、化粧品のセールスレディの数のほうが多い」というのはとても興味深い発見でしたね(笑)。
- −−−−「アマゾンのジャングルをカヌーでこぎ進みながら、口紅を売りさばくエイボン・レディたち」という記述に思わずほほ笑んでしまいましたが、50の事実に関するデータはどのように集めたのでしょうか。
- ジェシカさん各国政府が発表している統計や人権団体が公表する数字、雑誌や本といったいろいろな情報源に加えて、実際に取材して調べたこともあります。ブラジルのセールスレディの事実は、エコノミスト誌の化粧品業界の特集で、「ブラジルには70万人のエイボン化粧品のセールスレディがいる」という記事を見つけたことから思いつきました。
そこでロンドンのブラジル大使館に兵士の数を尋ねてみると、45万人でエイボン・レディよりも少なかった!そこからストーリーを組み立てていきました。そんな風に、はじめはそれほど重要ではないと思っていた数字が、調べていくうちに、意外な事実につながることがありましたね。 - −−ひとつの事実や数字に、別の事実を組み合わせて見ることで、新たな真実がわかるという視点は、この本の面白さでもありますね。
- ジェシカさんさらに言えば、ブラジルのセールスレディの話からは、グローバリゼーションについて考えることもできます。多国籍企業の進出を含めて、グローバリゼーションは良くないことだと言われますが、私はそれ自体が悪いわけではないと思っています。エイボンに勤めることで、多くのブラジル人女性たちの生活が改善されている側面もあるのですから。
- −−−−ジェシカさんご自身が、最も意外だと感じた事実とは?
- ジェシカさん私自身もリサーチを進める中で多くの事実に驚かされましたが、「世界にはいまも2700万人の奴隷がいる」という事実には大きなショックを受けました。驚いたことに、人類の歴史の中で、奴隷の数は今が最も多いのです。英国では1837年に奴隷制度が廃止されましたが、借金漬けにされた「借金奴隷」、農奴や売買結婚、過酷な労働を強いられている子どもたちと、さまざまな状況で奴隷となり苦しんでいる人たちが、今も世界に数多く存在している。また、そうした人々を解放するための活動をしている人がたくさんいるのです。この事実は、私にとっても衝撃的なことでした。
奴隷に限らず、戦争や貧困によって、世界における「持つもの」と「持たざるもの」との格差は年々広がっているのではないでしょうか。イギリスや日本、私が育ったニュージーランドの人たちは、私たちの祖父母の時代には想像もできなかった豊かな生活をしています。昨年、インドを訪れたのですが、インドのIT企業に行くと、アメリカのような最新設備のオフィスがあるわけです。ところが、そうした豊かさはほんの一握りの人が享受しているだけで、それ以外の多くの人は、社会の階段を昇ることができないまま、貧しい生活を送っています。先進国と発展途上国の格差があるのと同様に、ひとつの国の中にも格差が広がってきているのです。こうした格差を改善するのは難しいことです。でも、何か行動を起こすことはできると思うのです。 - −−この本の冒頭でも、「これらは事実だが、変えられないわけではない」と述べられていますが、「人間の力」を信じたいと?
- ジェシカさんこの本に書かれた50の事実に、「そうなのか」と思うだけの人もいるでしょう。一方で、「自分には何ができるのだろうか」と考え始める人もいるはずです。「人間の力を信じる」というと、お人好しに思われるかもしれませんが、そうした小さな気持ちの積み重ねが、世界を変えていく大きな力になると思います。たとえば「ホワイトバンドキャンペーン」は日本でも注目されたそうですが、イギリスでも「Make Poverty History(貧困を過去のものに!)」というスローガンで行われています。一般の人たちの小さな声が数多く集まったことで、政府がこのキャンペーンを無視できなくなり、2005年のG8先進8カ国会議で取り上げられることになりました。
とはいえ、この本を書く際には、そうした自分の想いや、「こうすべきだ」といった主張を読者に押しつけないように心がけました。私自身、ひとりの人間ですから、いろいろ想いはあります。けれどジャーナリストとしては、誰かに「こうすべき」と言うのは公平ではないと思うのです。あくまで事実を伝えることで、読んでくれた人自身に、何かを考えるきっかけを与えるという点は、この本を書く上で最も気をつけたことですね - −−「事実をきちんと伝える」ことが、ジャーナリストの本分だということですね。
- ジェシカさんジャーナリストの仕事は、どのような出来事が起きているのかを他人に知らせることだと思います。自分の意見を押しつけるのではなく、事実を知らせることで、そこから何かを考えてもらえればいいわけです。
- −−そもそもジャーナリストになられたきっかけとは?
- ジェシカさん私は子どもの頃から、いつも人に何か話を伝えたくてしかたありませんでした。ジャーナリストになるのはその頃からの夢でしたが、学生時代に先生から「弁護士になったほうがいい。ジャーナリストはその後でもできるのだから」と勧められて、最初は弁護士になりました。ところが弁護士の仕事がつまらなくて……(笑)。結局、自分には向いていないと思い辞めてしまったのです。
今はBBCワールドの「HARDTalk」というインタビュー番組のプロデューサーを務めています。政治家や経済人、学者の方などに普通では訊けない質問ができるのは、ジャーナリストとしての面白さであり、喜びでもありますね。職業柄、友人に対しても、つい質問攻めにしてしまうので、嫌がられることもありますが(笑)。 - −−今後、やってみたい取り組みはありますか?
- ジェシカさんこの「50の事実」のシリーズのような形で、「世界を取り巻くすばらしい50の事実」といった本を書いてみたいですね。本を書く作業はとても楽しくて、また読者から反応があると、著者としてとてもうれしい。今後はマスメディアが私たちの生活に与える影響や、環境問題についても取材して書いていきたいと考えています。
- −−最後に、日本の読者にメッセージをお願いします。
- ジェシカさん毎日、新聞をめくるたびに、世界で起こっている悲しい出来事を目にして、悲観したり、暗澹とした気持ちになってしまいます。そうしたニュースに意気消沈するのは簡単なことですが、少し視点を変えてみると「何かできるのではないか」「何もしないより、何かやったほうがいいのでは?」と思えてくることがあるはずです。
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